11話 『ユズ(没落サイド)』視点(4)。


 11話 『ユズ(没落サイド)』視点(4)。



「……ん? なんだ、このモロさ……貴様、強者のはずだろう? そこまで『穢(けが)れた魂』を持つ者が弱者であるはずがない」



 アダムが何か言っているが、聞いている余裕はなかった。

 死が、すぐそこまで、迫(せま)ってきているから。



 ……ホブゴブリンが雷にうたれた時、

 『やはり、私は神に愛されている』と思った。

 あの雷は希望だった。

 『助けがきた』と本気で思った。


 けど、なんだ、これ……

 希望をチラつかせてから、心臓を一突きって……

 ふざけるな……


「がはっ……ごほっ……」


 視界がかすんできた。

 心臓を失ったが、私の意識はまだ残っていた。

 いっそ、即死(そくし)してくれたら楽だったのに……


「……ぁ……うぅ……」


 もう言葉は喋れない。

 けど、まだ死んでいない。

 地獄みたいだった。


 死に際(ぎわ)で『あえいでいる私』に対して、

 アダムが、


「どうした。何をしている。さっさと回復魔法を使え。私の見立てだと、貴様の存在値は最低でも300以上のはず。この程度の攻撃で死ぬわけがないだろう」


「ひゅう……ごっ……がはっ……」


 言葉を発することができない。

 意識が朦朧(もうろう)としている。

 死が近すぎて、頭が動かなくなってきた。


 そんな私に、


「ちっ……もしかして、自殺願望でもあるのか? 鬱陶(うっとう)しいな。……『自殺の手伝い』じゃダメなんだ。『タイマン(一対一の勝負)』で勝たないと、『吸収』できないから意味ないんだよ」


 そう言いながら、

 アダムは、


「欠損治癒(けっそんちゆ)ランク19」


 高位の回復魔法を使って、

 私の体を再生させた。


 破格(はかく)の魔法だったため、

 私の体はすぐに、元にもどった。


「かはっ! ごほっ……はぁ、はぁ……」


 生き返った……

 どうにか、死に際(ぎわ)から戻ってこられた……

 本当に死ぬかと思った。


 『死なずにすんだこと』に対して、安堵(あんど)していると、

 そこで、アダムが、私の胸倉(むなぐら)をつかみ、


「おいこら、クソブス。貴様の『死にたい』という想いに応えてやるから、本気で私と戦え。私の持つ『相手の力を吸収できる能力』は、ちゃんとタイマンで勝たないと発動しないんだ。殺してやるから、本気で闘え」


 私は、必死に頭をまわす。

 どうにかして、この場を切り抜ける方法。

 そして、セイラを殺す方法を、必死になって考える。


 散々考えた結果、


「む、無理……今の私は、本気を出せない」



 ――私は『アダムを利用する方法』を思いついた。



「私に本気を出させたかったら……魔王ユズを……殺して……そうすれば……本気を出せるから……」


 『脳筋の戦闘狂』をだますぐらいチョロいだろう。

 そんな風に思っていたのだが、



「貴様、この私を利用しようと考えているな? ナメるなよ」



 そう言いながら、

 アダムは、私の頭を掴んで、

 ガンッ、ガンッ、ガンッ、ガンッ、ガンッッ!

 と、地面に、何度もたたきつける。


 鼻が折れて、血が流れた。

 10回以上、顔面を地面にたたきつけられてから、


「二度と、私を利用しようとするな、クソブス。お前の力は欲しいところだが、絶対に必要というわけではない。次、ナメたことを考えたら、容赦(ようしゃ)なく殺す。わかったか、返事しろ」



「ふぁ……ふぁい……」



 ぃ、痛い……

 痛い痛い痛い痛い痛い痛い……

 もう、ずっと、苦しい……

 なんで、私がこんな目に……


 そこで、アダムが、


「魔王ユズといえば、最近誕生した新魔王だな……六大魔王に匹敵する力を持つというウワサ……もともと、いつか狩ろうと思っていたが……しかし、ここで魔王ユズを殺したら、貴様の思うツボな感じがして、無性(むしょう)にハラが立つな……」


 ここが分岐点(ぶんきてん)だと思った私は、

 必死に涙を浮かべて、

 本音で語る。


「ま、魔王ユズに……私は痛めつけられました。ち……力も奪われて、尊厳(そんげん)も、なにもかも踏みにじられて……は、はげしい怒りでいっぱいなのです。しかし、私では、魔王ユズには勝てません……だから、どうか……」


「……なんで、私が、貴様の復讐を手伝わなければいけない? ナメるなよ」


 ……クソ。

 あつかい辛(づら)い女だ。

 自尊心(じそんしん)が高すぎる女は、これだからイヤなんだ。


「だが……『力を奪われた』という点には興味があるな。吸収系の能力を持つのは私だけだと思っていたが……他にもいるのか……」


 アダムは勘がするどい。

 嘘をつくと、たぶん、バレて、逆に面倒な目にあうだろう。

 だから、本当のことだけで……

 真実だけで……こいつを動かす……っ。


「吸収という能力なのかは分かりませんが、事実、私は力を奪われました」


 どうしても『入れ替わった』という事実は伝えられないが、

 どうやら、『力を奪われた』という形でなら他人にも伝えられるらしい。

 基準が分からない。

 鬱陶(うっとう)しい……


 ……まあ、今はそんなことより、

 どうにかして、アダムを活用する方法を考える……っ。


「魔王ユズの力を奪い取れば、あなた様は、もっと光輝くことでしょう!」


「……」


 アダムが考えている間に、

 私も必死に頭をまわす。


 そこで、アダムが、ボソっと、


「……私が求める『最強』にたどり着くためには、どっちみち、すべての魔王を皆殺しにしないといけないしな……」


 物騒(ぶっそう)なことをつぶやいている。


 もし、アダムが、『セイラ(ユズの体)』を吸収したら、今よりも、もっと強くなってしまう。

 アダムを放置していたら、いつか、この世界にいる魔王が、全員、アダムに吸収されて、正式にアダムが『大魔王』として認められ、『龍の女神の報酬』を受け取ってしまうだろう。


 そうなったら、さすがに、エグゾギアを使っても勝てないと思う。



 ……けど……

 ん、まあ、最悪、それでもいい。


 セイラを殺せないで終わるぐらいなら、

 こいつに頭を下げる方がまだマシ。

 それに、はいつくばってでも、生きてさえいれば、いつかは反撃のチャンスはくるだろう。


 私は、アダムにも『復讐』をするつもりでいるが、

 けど、それを考えるのは、『次』の話。


 まずは、セイラだ。

 とにかく、セイラが許せない。


 ……セイラ、絶対に殺すからな。

 私を、これだけツラい目にあわせたお前を、

 私は絶対に許さない。


 死んでも復讐してやる。

 絶対に、絶対に、絶対に……っ。


 とりあえず、アダムに、セイラを狙わせて、

 その間に、私は、エグゾギアを盗む方法を探して――


 なんて、そんなことを考えていると、

 アダムが、


「仕方ないから、ユズを殺すまで、貴様を私の奴隷にする。そして、ユズを殺した後は、貴様を殺す」


「……ぇ」


 ど、奴隷か……ウザいなぁ……

 しかし、アダムが相手だと、断ることもできない。


 ……というか、これ、逆にチャンスか?

 こいつの庇護下(ひごか)にいれば、

 安全に、『セイラがいる城』に戻ることも可能。

 アダムが、セイラと1001号をひきつけてくれれば、

 楽に『エグゾギア』を回収できるだろう。

 そうすれば、アダムごと、ユズを殺すことも可能……


 なんて考えていると、


「さあ、いくぞ、クソブス。とりあえず、これを持て」


 そう言いながら、

 アダムは、『亜空間倉庫(アイテムボックス)』から、

 一本の剣を取り出して、私に差し出してきた。


 色々と言いたいことはあったが、

 逆らうわけにもいかないので、


「こ、これを持てばいいのですか?」


 『なぜだろう』と不思議に思いつつ、

 その剣を手に取ると、


「うぐぅおっっ!」


 腰が砕(くだ)けるかと思った。

 とんでもない重さだったのだ。


「な、なんですか……これ……」


「修行用の剣。力を奪われたかなんだか知らんが、なくしたのなら、また磨(みが)けばいい。それを装備して生活しろ。これは命令だ。勝手に外(はず)したりしたら、その醜(みにく)い顔面を破壊するからな」


「……」


 顔から血の気が引いた。

 こんなクソ重たいものを、担(かつ)いで生活しろというのか。

 冗談じゃない。

 私は、スマホより重たいものは持たないで生活してきたんだ。


「あ、アダム様……さすがに、冗談ですよね? こんな、重たい……」


 と、そこまで行ったところで、

 アダムは、私の顔面を、


「ばっはぁああっ!!」


 グーで殴りつけてきた。

 見えない速度の、重たいパンチ。


「なんで、この私が、貴様ごときに冗談を言わないといけないんだ。ナメるなよ」


「……う、ぅう……」


 鼻がズキズキと痛む。

 ドクドクと鼻血が出てくる。

 ものすごく痛い。

 もう、ほんと、ずっと痛い……

 なんで、この私が、こんな目に……

 ぎ、ぐぐ、ぅう……


「次、ふざけたことを口にしたら、異次元砲をぶっ飛ばして、そのきたないツラに、風穴あけてやるからな」


「……」


「わかったら、とっととついてこい」


 ……き、決めた。


 セイラはもちろん殺すが……


 このアダムとかいうクソ女も……


 絶対に……


 絶対に殺してやるっっ!!!


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