第25話 フレッシュなゴーレム
ボクの左手は完全に死に、右手も瀕死。
今や前衛の一翼を担うボクがこの有り様では……一度拠点に撤退するのが確実だよね。
ロレンツォ殺しにタイムリミットはないし、ボクをエレベーター直通で第9層に連れていけるようになっただけで充分でしょ。
「ヒドい……こんなの、ヒドいよ!」
「ああ、魔神王の奴、今度と言う今度は許せねえ! そうだろ、レイ!」
とまあ、こうなるか。やっぱり。
「やはり、これ以上、一秒たりとも奴を生かしてはおけん。進むぞ」
リーダーの一声までかかっちゃって、
「レイの手が重傷だが……【緩慢な治癒】で最上階に着くまでには治療可能だな。
我々ヒトの主観に立った場合の症状としては重いが……物理的な被害面積からすれば軽微だ」
頼みの綱の魔法使い1すらも、冷静沈着な、もっともらしい理屈をこね繰り回して玉砕ルートを押し付けてくるよ。
「局部麻酔の魔法なら心得がある。任せてくれ。これで、完治までの痛みもごまかせる」
ぎんこうさんが、これまた意外な特技をひけらかしくさる。
このヒトもこのヒトで、ナニして投獄されたんだろうね?
まあ、汎用モブの人生全てに思いを馳せていたら、人生何回あっても足りないけどさ。
何かもう、ヒトってこんなもんだよね。
最初に「こうしたい!」って結論ありきで、あとはそれを支持するための屁理屈こね。
もうイヤだ。
もう、ここの連中のために、びた一文脳細胞を使いたくない。
「それで頼む。一刻も早く、ロレンツォを殺そう」
この返答しか認めないんだろ?
そー言う出来レースなんだろ?
いいよ、もう。
理論上、確かにそれで事足りる。
最終的には、ボク一人さえロレンツォの部屋に行ければ良い話だから。
さて。
手をそれなりに治癒して、麻酔が効いてくるだけの時間は貰えたようだ。
このボス部屋、多分、これで終わりじゃないよね?
《おめでとう、レイ・シマヤ! 君は確かに過去を振り切って勝利した!》
そりゃどーも。
うん。ボクは、過去を断ち切ったね。
ボクは、ね。
《彼一人だけが決別を強いられる。そんな道理は、無いだろう?》
「おい、まさか」
一番オツムのマシな魔法使い1が、ここに至ってようやく感付いた。
だよね。
今のボクらみたいな、パーティの参加期間にバラつきのあるケースはどうすんのって話。
つまり、親密度の高い死者がてんでバラバラだったら。
ゲームバランス考えたら一気に全部のゾンビ出すのは得策ではない。
死者との再会と言うドラマ性も薄れる。同じ番組枠で水戸黄門と暴れん坊将軍を同時に流されて見なよ? わけわかんないでしょ。
インターバル置いて、別個に出すのがまあ、一番顧客満足度高いんじゃない?
推しのプレイヤーだって、観客それぞれでしょう。
そうなると、こんな美味しい“宿命の対決”は全部やらなきゃ。
そうして、水に油を差したような空間歪曲が生じて、それらは現れた。
数は3体。
ボク以外の全員が動揺しているあたり、やっぱこのパーティでかつて戦っていた仲間のようだね。
問題は、それぞれのナリだ。
三者の頭部、胴体、手足のパーツがそれぞれ取っ替えられて、繋ぎ換えられているっての?
やっぱりだ。
HP表記に書いてある奴らの個体名は……
具体的には、
【フレッシュゴーレム1 HP2,000,000/2,000,000】
ハンターエルフの頭部、オークの胴体、猫成分高めなワーキャットの手足。
【フレッシュゴーレム2 HP2,000,000/2,000,000】
オークの頭部、ワーキャットの胴体、ハンターエルフの手足。
【フレッシュゴーレム3 HP2,000,000/2,000,000】
ワーキャットの頭部、ハンターエルフの胴体、オークの手足。
「あぁぁぁ……」
あアぁあぁア嗚呼ァあア!?
ホントに、仲間想いな奴らなんだね。
少し眩しいよ。
はぁ……。
あたまわる。
いや、パーティの連中に対して言ってるんじゃなくて。
コレ作った、都市エルダーゴミどもの事。
まあ、すごいよ。
他人の、それもまるで生態の違う異種族のパーツをくっつけて、問題なく動かしてる技術力は。
ボクら地球人がどれだけ時間をかけたって、及びもつかない領域だろうね?
だからこそ、思うんだよ。
それだけある【知力】の使い道が、コレ?
こんな、地球の小学生が考えたような“ぼくのつくったさいきょうのフレッシュゴーレム”みたいなのが、人生の大半を費やしてたどり着いた発想なの?
ゴミだね。
本物のエルダーエルフになり損ねた、ゴミ、カス、クズ。奴らには何もない。低能力者だ。生まれるべきでは無かった。
さーて、今回はボクの方がゲストだ。
手も万全じゃないし……他の皆はすげーブチキレてるか、早く楽にしてあげようって悲壮感にうちひしがれてるし。
後方から【時間加速】とかして、お茶を濁すよ。
「最優先は、フレッシュゴーレム1の始末だ」
クールに助言をしておく。
ハンターエルフのオツム、オークの肺活量だとか筋肉、ワーキャットの脚力。
他二体は、その余り物を適当にくっつけただけだ。
強いて言えば、3番目が次点で脅威。2番目がホントのゴミ集合体。
「言われなくても!」
あーあー、完全に頭に血が上ってるよ。
時間が倍加してる今、それなり以上の出血があれば、死に至ることもあり得る。
さすがに、一人くらい死ねば、考えを改めるでしょうよ。
ボクが求めていたのは攻略の迅速さだけどさ、極端な性急さでもない。
でもまあ。
世の中、ヘンな所がうまく行って、ヘンな所がうまく行かないって事が多々あるよね。
事実上、ボク抜きでもフレッシュゴーレム1をソッコー葬り去り、他のも的確に始末していったよ。
逆上してても、身に付いた技術だとか経験って裏切らないもんだね。
彼ら、やっぱ最上階目指せる器だわ。
ポーションあおって、そこそこ削られてしまったHPをリカバリー。
魔法使い1がいつも通り解毒するけど……こんな精神状態と酒の回り具合で、充分な思考強さの魔法になってんのかな?
実際、感情に溺れてるのかアルコールに溺れてるのかわからない有り様で、戦士2は大泣き。
他の連中は怒りと憎悪の野性をほとばしらせている。
そして、休むまもなく、上の階層へと突っ走って行く。
……こりゃ、最悪だ。
女王サンドラを殺した時も思った。
ボクが一番振り回される敵は、いつもアタマが悪い。
【知力】なんて関係なく、ね。
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