第24話 期間限定スペシャル特典
アンデッド工場もかなりの規模だ。
構造自体は一本道だから精神的にはラクなんだけど、その分、長く感じるね。未だに終わりが見えない。
左手には常にアンデッド製造工程が実演されており、右手にはもはや用をなしていない空っぽの水槽が続いている。
いや……早速、さっき殺したサメがアンデッドにされて水槽に戻されたようだ。
まだ実験段階だろうけど、もしかしたら余計に厄介な存在にグレードアップしたかもね。
でもまあ、ボクにはもう関係ない。
恐らくボス部屋と思われるものが見えて、水槽はそこで終わっていた。
流石にボス戦に水を差すような事はさせないようだ。
部屋は、これまた地球の病院かってくらい清潔で乳白色の空間だったね。
……誰もいない。
《おめでとうございます! 現在、当フロアでは、抽選でスペシャル特典をプレゼントしており、貴方たちは見事、当選しました!》
入室一番、おめでたい声が投げ入れられたね。
エルダーエルフだかハンターエルフだかは知らないけど、意外とお茶目な奴も居るのかな。
「ふざけやがって! 出てこい!」
戦士3がいきり立っているけど、説明を黙って聞こう。
どうせ奴らの作った流れに従うしか無いんだから。
《その特典とは! 懐かしのヒトとの再会をテーマとしております!》
あぁ……。
ボクが運営だったらやるだろうね、って空想してた事をホントにやりやがったよ。
水に油を差したような空間歪曲が生じ、現れたのは。
はい。
緑色のマクシミリアン甲冑を着こんだカリス。見る影もなくひしゃげてるけどね。
兜は没収されたのか、黒髪ロングの頭部を露出させられている。
それ以外の装備は、死んだ時そのままか。
殊更、顔を見せようって配慮だろうね。
黒髪ロング清楚系ちょっと天然入った優等生アーマー装備男装の麗人エルフのヴァンパイアのゾンビ。属性、盛り過ぎでしょ。わけわかんない事になってるよ。
血行が止まって生前よりなお青白い顔に、感情の色は薄い。
と言うのも、ボクの姿を認めた途端、なんとなーくフワッとした憎悪を浮かべたからだ。
残された人格の塩梅はこんなもん、ね。
まだまだ出るね。
リーザだ。斧でカチ割った頭部が中途半端に復元されて、そこだけ少しハゲてる。かつてのボクの心痛が、これで理解できたか。
エルダーエルフの回復魔法ならきちんと傷もなく修繕出来たろうに……効率が悪いって理由か、こちらに与える精神的ダメージを高めるためだろうね。
彼女と引き換えに出てきた挙げ句、ボクが再度捨てたハサミが背中に刺さってるよ。ボクは誓って、そんな強く投げ捨てたつもりはないよ。
感情のほどは、カリスと似たり寄ったり。特筆事項はなし。
で、アルフとメスドワーフも出現。
アルフはHP枯渇死だったから、表面上はキレイだね。
メスドワーフは、せっかく切り落とした首を縫い直されてるよ。しかも、微妙にズレてるんだけど、くっつけた奴の【器用】低かったんじゃない?
「どう……して……どうし……て」
壊れたロボットみたいに、まだそんな事を言い続けてる。
呆れたよ。
バカは死んでも治らないって……直接物理的に見せ付けられるなんて、思いもしなかった。
「カリスの、パーティか」
戦士1が呆然と呟いた。
充分予測できた事でしょうよ。
リサイクルボックスのシステムを考えればさ、一応の“親密度”は運営側に取得されてるんだから。
あの程度の関係性でも、ボクにとって一番付き合いの長かったヒトは彼女らだ。
「大丈夫……?」
戦士2が、気遣わしげに言ってくれる。
意外と甘いね。
これくらい覚悟できなきゃ、このダンジョンは攻略出来ないでしょ。
「大丈夫だ。ロレンツォへの殺意がさらに増しただけの事」
ボクはひとまず、ドッキング斧を接続して大斧にした。
「始末する順は、まずドワーフ。次に甲冑の女、ワーキャット、最後にオーク。各個撃破。これで良いか? リーダー」
「あ、あぁ……」
表面上、この戦いの被害者はボクだ。
それが意を決して、速やかに片付けようと判断した。
リーダーを差し置いた指示にも、みんな、素直に聞き入れてくれたよ。
ちなみにHPは、いずれも2,000,000もある。事実上、HP枯渇死は現実的ではない設定だね。
……懐かしのヒトと、ガチンコしてくださいねってご配慮だね。
機動力の高いボクと戦士2が、敵陣の前衛を素通りしてメスドワーフに肉迫。当然、生前の敏捷性を残したリーザがこれを許すまいと跳躍する。だが、その更に先を見据えていた魔法使い1の火炎弾による偏差射撃がリーザを迎撃した。
致命傷にこそ至らなかったが、リーザは宙を翻り、体勢を立て直さざるを得ない。
どの程度の知力を残しているかは知らないが、カリスが何らかの魔法を放とうとしてーーこれもまた、ぎんこうによる岩石スリングショットで力任せに潰された。
アルフが、生前を遥かに凌ぐ脚力で手薄となった後衛に迫る。アンデッドになったから、
それは、戦士3が真っ向から引き受けてくれた。さすがに、ゾンビ・アルフを一人で対応するのは分が悪い。早く数を減らして、助けにいかないとね。
で、私情抜きにしても一番雑魚のメスドワーフを、戦士2に陽動してもらいつつ、あの時と“同じ”シチュエーションで斬首した。
休む暇はない。次はカリス。
「君臨者、
そして自分に【時間加速】。
斧を瞬時に分離して、二刀流にスイッチ。
「【
先日、ほうちょうでやった刹那万戦“斬”とは別物だ。お間違えなきよう。
ぎんこうの岩から立ち直り、再び魔法を紡ごうとしたカリスだが、ボクはもう間合いに踏み込んでいる。
両手の斧を太鼓のマスターがごとく乱打。
大丈夫。もう一度、殺せるドン!
カリスの顔面はたちまち変わり果て、念のため両腕もクラッシュしておいた。
で、蹴り飛ばしてやると、もうカリスが動く事は無かった。
腕に激痛。特に左手は神経だか骨が断裂して動かなくなった。
残された右手もかなり痛くて涙が滲むが、仕方がない。
さすがにほうちょうの時とは得物の重さが段違いだったので、斬撃回数減らしたコンパチの技を作っておいたんだけど……それでもこれか。
やっぱ、このダンジョンでほうちょうを活用したい時にしか使えないね。この技もお蔵入りだ。
ともあれ、これで、この戦いにおけるボクのアタッカーとしての生命は断たれた。
だが、どの程度の知力=魔法を残していたか未知数のカリスを始末するには相応の犠牲だろう。
あとは陽動に専念しつつ、仲間に任せよう。
事実、戦力が半数に減った事によって、リーザとアルフへ向けた後方支援射撃も頻度が上がっていた。
ランチェスターの法則。
少数VS多数の構図と言うのは、額面上の数字差以上に絶対的な格差を生む。
だから、なるべく2対1以上の状況を作り、敵の数を減らす事を第一に動く。
基本中の基本だけど、こう言う、性能がプレイヤー準拠のアンデッドを相手にする場合、特に大事な事だと思う。
さすがのワーキャットそのヒトも、ボクと言う半役立たずになった囮に執着しすぎ、戦士2とぎんこうの前後連携プレーにより、今度こそ頭部を完全に潰されて終わった。
最後はアルフ。
オークとしては、そこまでの装甲は無い。
4対1なら流石に壊せる。
まあ、語るまでもないフルボッコだね。
さようなら、アルフ。
ま、これだけやれば、もう化けて出てこないでしょ。
良くてもスケルトンにするしかないけど、別にこいつらならではのスケルトンなんて、ならないだろうしね。
次、行きましょー。
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