第15話 再会

楓はまず、メイクアップアーティストの事務所に入り、先輩たちを抑え、数あるコンテスで優勝を取りまくっていた。

モデルの奇麗さを、目に映らない決まらないアイメイクも、3分あれば、想像力の豊かな楓だ。すっと現場に馴染んで、最高のパフォーマンスで、モデルの美しさや、力強さを表現する。



今のその楓が居るのは、間違いなく、奈々子のおかげだろう。


小学生で、メイクをいせていくのが校則違反なのは、解っていた。しかし、楓は、怒られても、それを辞めなかった。そして、三者面談で、教師からメイクは校則違反だと母親を味方につけて、楓のメイクを阻止ししようとした。はじめは、1番手に入れるのが容易い母親のメイク用品を隠した。


それでも、メイクして朝ごはんの席に着く楓。

「楓!良い加減にしなさい!」

「でも…奈々子ちゃんは可愛いって言ってくれたもん!」

「それよりそのメイク道具どうしたの!?」

「ママのバカ!嫌い!」

朝ごはんを食べながら、何だか頼りない見方が出て来た。

「まぁ、良いじゃないか。校則なんてもんは破るためにあるんだ。現に、母さんよりメイク美味いじゃないか」

「な!私は薄化粧って言うの!カラー多すぎるのよこの子のは!」

「パパは、楓に賛成?」

「おう。賛成だ!!」



先ほど、奈々子のおかげと書いたが、おまけとして、楓の父、内田哲平うちだてっぺいも、楓の味方だった。





「楓!ちょっといい?このアイメイクが納得いかないの!何か良いタッチあるかしら?」

「うーん、!じゃあ、一気にアイメイクこの色乗せちゃってバランス崩そう」

「わお!そうね、型にはまらないお洋服だから、このくらい派手でも良いかも知れないわね!みんなに伝えて!メイクの直しに入るわよ!」



もうNYに来て、9年が経った。内田楓、改め、ジェースター・楓。


そう、NYで、楓は結婚していた。職場仲間…かと思いきや、行きつけのパン屋さんのまだ若い店長だ。5歳年上だ。毎朝このベーカリーショップでパンとコーヒーを買いジェースター・アンディと軽快な英語で、冗談だったり、新作のベーカリーを試食したり、それから、事務所へ向かう、それが楓の朝のルーティンだった。そんなある日、パンの袋の中に、結婚指輪が入っていたのだ。


[please marry me!]



と突然プロポーズされた。



しかし、楓も、アンディの事が好きだった。もう店の前は大騒ぎ!クラッカーが舞い、口笛で祝ってくれる人達。


この時が、1番メイクアップアーティスト以外に大事な存在が空から舞い降りた。



「おめでとう!楓!」

「サンキュ、ローズ!」



「さぁ、仕事、始めるわよ!」

「OK!!」





「親友が亡くなってもう10年なるの?」

「えぇ。とても大切な友達だったんだけど、死んじゃった」

「そう…」

「でもね、ローズ、私のメイクアップアーティストの道を照らしてくれたのもその奈々子って言う友達なの。十回忌に行って来てもいいかしら?」


「えぇ、大丈夫よ。今のあなたの姿を見れば、とても喜んでくれるはずだわ」

「ありがとう。ついでにアンディも紹介したいし」

「好きなタイプが一緒じゃなきゃいいわね」

「ノーウェイ!奈々子の相手の方がずっと格好いいもの」

「まぁ(笑)!」







「アンディ、ここに奈々子が眠ってる。本当に良い子だったの」

「詳しく教えて」

「えぇ、小学校の時から心臓病で…逝く時はあっさりだったな…ここにいると、奈々子が笑って走ってきそう」

楓は、涙を抑えきれなかった。


「楓、大丈夫か?」

アンディが心配する。


「大丈夫、大丈夫」


「ありがと、奈々子…小学校の時、私のメイクを褒めてくれたから、今のあたしが居るの。アンディだってそうよ?メイクアップアーティスト諦めてたら、こんな素敵な人と出会えなかった。ありがとう、奈々子…」


泣きながら、お見舞いをする楓。



そこに―…、



「楓か?」

「准!!」


「マジか――――――――!!!」

「キャー――――――!!アンディ、准だよ、准!!奈々子のボーイフレンド!」

「わお!」

「ハロー!初めまして!!今な、美麗の墓行ってきたとこ」


アンディが10年ぶりの再会なら、2人だけの方が良いだろう、と気遣ってくれて、2人は喫茶店で思い出話に花を咲かせた。


「知ってるか?あの病院、魔法の1500円の花束の聖地になったらしいぞ!」

「マジで?どいう事?」

「病気やけがで入院してる時、1500円の花束を持って祈ると、恋が成就したり、でも、助からなかった命には買ってきた花束を押し花にしてここらの中高生の図書館とか行けば見られるらしい」

「へー…なんか不思議。気の強い美麗と、穏やかな奈々子、全然似てないのに、なんで2人同時に惹かれたの?准」

「んー、美麗は小柄で、守ってやりたくなるって言うか、奈々子は笑顔が本当にみんなから愛されてて、とか、言い出したらきりがないけど、ず――――っと秘密にしておこう…とも思ったんだけど、10年ぶりに2人に会ったら、なんか言っちゃったほうが良いのかな?って思うんだ」

「え?何?どういう事?」

「美麗の事は可愛がりたい妹みたいな存在だったなって。妹だから、あそこまで尽くせたと思う。もうこのまま隠してても仕方ないから言っちゃうけど、俺の、本当の初恋は、奈々子だったんだよ…」

「…うん、そんな気がしてた。美麗はあーゆー性格だから、例え嘘でも、好きだって言ってくれてありがとね。でも奈々子は、いつも笑ってたし、走るところさえ見られなかったけど、運動出来たら、相当いいとこ…いけないな」

「は!?今の行けるのノリだろ!」

「だって、小学校のかけっこの時、みんなに置いて行かれ、1人で追いかけて、そのフォームがあまりにもてこてこしてて、最下位なのに、ゴールの後は、ウインクにご両親に向けてピースサイン!もうグランド中大笑い。だから、奈々子はあの病気でちょうど良かったのかもね(笑)」

「あ!そうだ!これ買ってやったぜ!」

「ん?何よ?…ぶっ」

「楓の初仕事ー!!」

「うわー!!やめて!この頃、どうしても坊主になりたくて、髪剃っちゃったんだよねー!もう坊主3日目でもう我慢の限界、ウィッグかぶっちゃった。でも仕事の時は別。自分がどうのじゃなくて、モデルやカメラマンや照明だってその日の為に全力尽くすんだからね。こっちだってアピールしないと、向こうも信頼してくれない。そこは、めっちゃシビアだよ」



「俺は研修医そろそろ終わる頃だから、もう少し病院で勉強させてもらったら、開業しようと思ってる」

「開業?すっごいね何科?」

「小児科と、内科」

「小児科か…やっぱなんかまだ詰まってるものあるの?」

「んーないっちゃない、でもない…かな?」

「だろうね…あたしも、奈々子が居なくなってから、もう絶望しかなかった。この後の人生、どうやって生きていけばいいの?誰が助けてくれるの?もう歩けないよ…」って、本気で思ったから。今考えてみれば、何処まで奈々子に甘えてたんだろう?って恥ずかしくなる。

「俺だってそうだよ。美麗の事、後の方、奈々子に全部おんぶにだっこだったからな…」

「奈々子はそれくらい頼りがいがあって、勉強だって出来て、可愛くて、誰かさんが髪の色赤く染めてる間中、准の傍にはいかない、って、美麗ちゃんのために言ってたもん。お礼、たっぷりしてきな」

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