霊の森
徳田雄一
第六感
「ここですね。ここに居ます」
「ここなんですか?」
「えぇ。ここを探れば居るでしょう。ですがここからは私ひとりでお願いします」
「先生大丈夫なんですか?」
「えぇ」
僕はとある森に来ていた。そこは僕の第六感とも言える霊感の働く場所であり、そして彷徨う霊たちがウジャウジャといる森だった。
【カエレェェ!!】
「ごめんよ。君たちには害を与えないから」
【ワタシタチノ、コエガ、キコエルノカ?】
「うん。ごめんよ。君たちが無事に成仏出来るように来たんだ」
僕の仕事は突如として現れた霊感と霊の言葉の聞き取れるこの能力で、悪さをする霊や成仏したいのに出来ない霊を片っ端から成仏させていくこと。
【ワタシ、テンゴク、イケルノ?】
「君は何も悪さしてない子だからね」
【ホントウニ?】
「あぁ。安らかにね」
僕は手に持っている白い棒を振り、霊が無事に然るべき場所へ行けるように成仏させる。
一通り仕事が終わり、先程までいた人間の元へ戻ると、その人間は笑顔で手をこすりながら言った。
「いやぁ。お見事」
「報酬は後でお願いします」
「いやそれがですねぇ。我々の事務所に所属してくれれば報酬が倍になりますし、お願いしますよぉー」
「毎回言ってるでしょ。僕は成仏の出来ない霊のために存在している。君たちのためじゃない!」
そう啖呵を切ると、霊たちも僕の元へ集まってきて耳元で言う。
【キミ、イイコ】
「ありがと」
【ボク、マダジョウブツシタクナイ】
「どうしてだい?」
【マダ、ヤリタイコト、アル】
「わかった。やりたいことが終わったら僕の元へ来て?」
【ワカッタ】
そんな会話をしていると、人間は僕の手に金を握らせて言った。
「お願いしますよぉ〜」
「無理だって言ってる」
「ちっ。そうですかい。どんな手を使ってでもあんたは手に入れるからな」
「私は負けませんから。どうぞお好きに」
人間を追い払い、霊たちと少し戯れた後に森から出て、家へと行こうとした瞬間だった。誰かに後ろから殴られ、薄れゆく意識の中抵抗も出来ずに乗り物に乗せられ、どこかへ連れ去られる。
☆☆☆
次に目を覚ました時だった。
周りには大勢の人間たちが居た。
「な、なんだお前ら!」
「君を解剖して、君の能力がどんなものなのかを見てみたくてね」
すると人間はメスを持ち、僕の身体を刻もうとした。その瞬間だった。人間のメスが上に左に右にと勝手に動き始め、数秒後には人間の目に刺さる。
何が起きたのか訳が分からなかったが、ふと横を見ると霊たちが目を赤く光らせ激怒していた。
【ワレワレノ、ナカマニ、テヲダシタナァ!!】
「お、落ち着いて!」
【イマ、タスケル】
「やめてくれ!」
霊たちの怒りは止めることが出来ず、目の前には血の海が広がり、血なまぐさい匂いが充満した。僕はその光景にただ立ち尽くした。だが霊のおかげで助けられたのも事実であり、僕はこの日を境に決めた。
「帰ろ?」
【ウン】
霊たちの住む森へと向かった。
僕は人間をやめて霊たちと仲良く住んだ。
☆☆☆
霊の森 徳田雄一 @kumosaki
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