ある学者の論文(第六感)

しょうわな人

第1話 真実を教えよう

 私は天道大学で教鞭を執る教授である。そんな私は人の感覚について研究している学者でもある。


 人には古から、視覚・聴覚・触覚・味覚・嗅覚という五感があると言われてきた。そんな中に、第六感と呼ばれる感覚があるという説が産まれた。


 私はこの第六感というモノを研究している。例えば、動物などでは先に上げた五感以外を持つモノが多い事もあるが、蛇など熱を感じる感覚は専用の器官を持っている為、アレを第六感と呼ぶのは間違いではないかと私は思っている。


 唐突だが、私は武術が好きである。下手の横好きではあるが、私もある古武術を学んでいる。そんな私を教えてくださっているのは、御年七十二歳になる先生で、この方がまあ〜強い。


 弟子である私達だけでなく、今の時代に? と思うような道場破りに来た相手も、怪我一つさせずに退けてしまう。


 私はその先生の強さの秘密に第六感を見出した。


 そう、結論から先に述べてしまおう。人の第六感とは、【経験に基づく先読みの力】だったのだ。


 何故、相手の攻撃が先生に当たらないのかを、先生は教えてくださった。


「相手の全体を常に俯瞰的に見て、目や足、肩や腕の動きを見れば、どんな攻撃が来るか分かるんだ」


 勿論、私は先生の域にまでは達していない為に、そんな事は出来ないのであるが、経験を積めば出来るようになると先生は仰った。


 そう、それこそが人の第六感なのだと天啓を受けた私は、今、必死になって論文を書いているのである。



 二日後、完成した論文を学会に発表した私を待っていたのは、既に似た学説が唱えられているという現実であった。それもまさか、地道大学の学者によってだとは……


 しかも、既にコーメイ出版から書籍化されているだとっ!! 主題は、


【武術における第六感】


 だとっ!!


 おのれ、私がやっとの思いで見つけた第六感の正体をよもやライバルである地道大学の教授に先を越されていたとは!


 私は項垂れていたが、私の論文を読んだ海外の学者から、スバラシイとの評価を受けた。何故なら、地道大学の教授が書いた論文には、私が発見した【経験に基づく】が書かれていなかったからである。その教授は、超感覚などと書いていて、若者たちには受けたようだが、学会では受け入れられなかったようだ。


 フッフッフッ、そうだろう、そうだろう。私は真面目に研究したのだ。コレで地道大学とまた差がつけられたと思ったが、私がロンメイ書房から出版した本は地味な内容な所為で全く売行きが良くなかった事をここに記しておこう。


 良いんだ。私の学説が正しいと諸外国の学者達には認められたのだから。本が売れなくたって悔しくなんかはない! ないったら無い!


 ほ、本当だぞ!!

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