第六感じじい

いもタルト

第1話

「むう〜、困ったぞ」

 内閣総理大臣はさっきからずっと難しい顔をしていた。

 日本を遊説に訪れた某国の大統領が暗殺されるという、前代未聞の事件が起きたのだ。

 死因は毒殺。晩餐会の食事に何者かが毒を盛ったのだ。

 防犯カメラに映った映像から、犯人は女性であることがわかっている。

 だが、それ以上の情報となると、皆目見当もつかない。

 まんまと犯人に逃げられたとなれば、日本国の威信は地に落ちてしまう。

 一刻も早く犯人を捕まえなくてはいけなかった。

「こうなったら、あの人の力を借りるしかない」

 あの人というのは、伝説の霊能捜査官のことである。

 類稀なる第六感を駆使して数々の難事件を解決した老人のことだ。

 今は隠居していると聞くが。

 早速居場所を突き止めると、とある病院に入院しているとのことだった。

「私が担当医の◯◯です。本人、認知症が進んでいますので、無理かと思われます」

「なんということだ。この人だけが頼りだというのに」

「ただ、看護婦の下着の色だけは、今でも百発百中で当てられます」

「それでは、犯人の下着の色だけでも教えてください」

「緑」

「緑?なかなか珍しい色ですな」

 総理も若い頃は数々の浮名を流した身だ。だが、緑の下着の女性は一人もいなかったような気がする。もちろん、結婚した後に出会った数々の女性の中にも。

「全国の下着売り場を当たって、緑の下着を買った不審な人物がいなかったか、しらみつぶしに調べさせよう」

 早速、大掛かりな捜査が行われた。だが、犯人検挙に通じる手掛かりは見つからなかった。

 それもそのはず、犯人だってずっと同じ下着を履いているわけではないのだ。

「もっと詳しく聞いてみよう」

 総理は再び老人のところへ行った。

「ご老人、お願いします。犯人は今日、何色の下着を履いていますか」

「茶」

「やはりそうか。こうして毎日確認してから捜査した方がいいな」

 ところが、やがてあることがわかってきた。下着の色には規則性があるのだ。

 それによると犯人は、月曜日から始めて、緑、茶、ヒョウ柄、ゼブラ、水玉、千鳥、マーブルと、ローテーションしていることがわかった。

「特殊な趣味の持ち主のようだな。これなら見つかるかもしれない」

 今度は日本全国の道路に小型カメラが埋め込まれた。その上を通る女性のスカートの中を撮影するためである。

 ズボンしか履かない女性用には、赤外線カメラが街の至る所に設置された。

 そしてついに、犯人が捕まったのである。

 総理の前に犯人が連れてこられた。

「そうか、君だったのか。女房の下着の色なんて、ここ数十年来、気にしたことがなかったからなあ…」

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第六感じじい いもタルト @warabizenzai

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