【第48話】真の勇者の末裔

「ようこそ、人間界へ。大天使エスフェル殿」


 魔王じいちゃんが大天使エスフェルに頭を下げて挨拶をした。


「人間界を支配する魔王オリスチンだな。そなたの真意は分かっておる」


「わしの平和を愛する気持ち、大天使エスフェル殿に理解頂けて嬉しい限りじゃ」


 魔王じいちゃんは笑顔を見せながら再び大天使エスフェルに頭を下げた。


「ところでレイリアよ、なぜ魔界に存在すべき魔皇帝ネイスメイスが人間界にいるのだ?」


 大天使エスフェルは母さんに説明を求めた。母さんは頷くと説明を始めた。


「魔皇帝ネイスメイスさんが軍団を率いて人間界に攻めてきたのです。しかし、私がつい本気で魔法を使ってしまったばっかりにネイスメイスさんが怖気ついてしまい、魔王オリスチンに降伏を申し出た次第でございます」


 母さんは視線を落としながら大天使エスフェルに説明した。


「プランローズ家の魔力の凄まじさは天界においても有名だ。本気を出せば魔界さえ壊滅させるほどの力を持つ。幸いにも女神アリステルミス様の守護と関与があるから、プランローズが野心を抱くことはないがな。それで、魔皇帝ネイスメイスよ、こんなところで何をしている?」


「人間界における伝説の勇者の末裔たちに1000年前の真実を話していたのじゃ」


「1000年前の真実? ああ、お前の先祖である魔皇帝と勇者たちの戦いのことか」


 大天使エスフェルが答えたあと、僕は彼の視界に進み出た。すぐに大天使エスフェルが僕に気づいた。


「そなたは誰だ?」


「僕は伝説の勇者の末裔であるオリスティンです。大天使エスフェルに真実をお聞きしたくて母さんに召喚をお願いしました!」


「母さん? おお、レイリアの息子か。どのような真実が知りたいのだ?」


「1000年前の魔王と勇者との戦いです。僕の先祖である勇者は、魔王とろくに戦いもしないで気絶していた、というのは本当なんでしょうか?」


「本当だ。勇者か何か知らんが、ブラッドメイスという男が魔王に斬りかかろうとしてつまずいて顔面から転けたのだ。結局、プランローズの魔術師ウィザードがひとりで魔王を倒して戦いは終わったのさ」


「やっぱり、本当だったのか······」


 大天使エスフェルの返答を耳にした僕はショックを受けて言葉を失った。大天使エスフェルは言葉を続けた。


「だがな、魔王を倒したブレズム・プランローズはかなりの人格者でな、魔王の命は取らずに魔界へ追放しただけでなく、魔王討伐リーダーであったブラッドメイスに魔王討伐の手柄を譲ったのだ。それ以来、ブラッドメイスは伝説の勇者として歴史に名を残したのだ」


「伝説の勇者の子孫たちは、魔王との戦いで気絶したマヌケな男の末裔だったんだね······。じゃあ、僕も伝説の勇者の末裔じゃなかったのか······」


 僕が声を落としながら呟くと、大天使エスフェルが僕の肩に優しく手を置いた。


「それは違うぞ、オリスティン。そなたの身体にはレイリアから受け継いだプランローズ家の血も流れている。魔王を倒したブレズム・プランローズが真の勇者だとしたら、そなたは真の勇者の末裔ということになる。違うか? オリスティン」


 大天使エスフェルからの指摘を受けた僕は彼の顔を見つめた。そのとき、心の底から喜びが込み上げてきた。


「大天使エスフェル! 確かにその通りです! 僕は勇者ブラッドメイスの末裔であると同時に、真の勇者ブレズム・プランローズの末裔でもあるんだ!」


 僕は嬉しさのあまり空に向かって叫んだ。


「そうかそうか、じゃあ、わしは魔王との戦いで気絶したマヌケ勇者の末裔だった、ということじゃな」


 魔王じいちゃんが自嘲するように呟いた。大天使エスフェルは魔王じいちゃんに顔を向けた。


「魔王オリスチンよ、それも違うぞ。確かに勇者ブラッドメイスは魔王との戦いで気絶してしまったが、1000年前に世界を救うために魔王打倒を一番最初に掲げたのはブラッドメイスだったのだ。彼が暗黒の支配からの解放のために立ち上がったからこそ、ブレズム・プランローズも仲間に加わったのだ」


 大天使エスフェルの説明を聞きながら魔王じいちゃんは嬉しそうに何度も頷いていた。さらに大天使エスフェルの話は続く。


「今でこそ、伝説の勇者の末裔の家名はブラッドメイスだが、本来の家名はライトメイスだったのだ」


「え! そうだったんですか! じゃあ、どうして伝説の勇者は家名をライトメイスからブラッドメイスに変えたんですか?」


 僕は驚きながら大天使エスフェルに訊ねたのだった。


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