【第42話】レイリア・プランローズ

「えーっ! なにそれ!」


 僕は思わぬ展開に驚いて叫んだ。魔界から強大な軍団を率いて攻めてきた魔皇帝が、母さんが魔法を使いながら空を飛んでいる場面を見て恐れをなして降伏してしまった。僕はミスリルの長剣を鞘に戻すと、魔皇帝ネイスメイスの幻影イリュージョンを見つめた。


「今から魔王オリスチン殿の城へ向かいます」


 魔皇帝ネイスメイスの幻影イリュージョンは、そう告げると揺らぎながら消えていった。


 僕はテラスから眼下の海を見下ろした。母さんが自由自在に空を飛びながら核爆裂の魔法を次々と放っている。


「あの、おしとやかな母さんが······」


 僕は初めて見る母さんの姿に恐怖した。


「レイリア様ー! 戦争は終わりましたよー!」


 アリサがテラスから身を乗り出すようにしながら母さんに向かって叫んだ。すると、母さんがこちらに顔を向けた。


「はーい」


 母さんは笑顔で返事をすると、僕たちがいるテラスに向かって飛んできた。母さんは静かにテラスに降り立つと、魔王じいちゃんの前で片足を曲げながら頭を下げて上品な挨拶をした。


魔王様お義父さま、お久しぶりでございます」


「我が息子の嫁にしてプランローズ家の令嬢レイリアよ。久しぶりじゃのう」


 魔王じいちゃんは満面の笑みを浮かべながら母さんを見つめた。


「先ほど、戦争は終わり、とお聞きしましたが······」


「あ、はい、私が伝えました! あ、あの、初めまして。アリサです。レイリア様とお話ができて光栄です!」


 アリサが緊張した面持ちで母さんに自己紹介した。母さんはアリサに近づくと、優しく微笑んだ。


「ありがとう、アリサさん。もし貴女が教えてくれなければ、私はずっと核爆裂の魔法で魔皇帝の軍団を吹き飛ばしていましたわ」


「あ、いえ、とんでもないです。それにしても、空中浮遊の魔法を使いながら、最強の攻撃魔法である核爆裂を連続で放つなんて、さすがプランローズ家の御令嬢です」


「お見苦しいところをお見せしてしまいましたね。こっそりと村人の方々を支援させて頂こうと思っていたんですが······」


「レイリア様、かなり目立っていましたよ」


 アリサは苦笑いを浮かべた。


「母さんが、あんなに強いなんて思わなかったよ」


 僕は母さんに近づきながら言った。


「オリスティン、それは違うわ。私は強いのではなく、ただ魔法が使えるだけ」


「だけど、母さんの活躍が魔皇帝ネイスメイスを震えあがらせたんだよ」


「まあ、それはそれは。魔皇帝さんを怯えさせてしまって申し訳ないことをしてしまいましたね」


「そんなことないよ。母さんのおかげで魔皇帝ネイスメイスは降伏したんだよ」


「そうなのね! じゃあ、今度夕食にご招待しましょう」


 僕は母さんと会話をしながら、やっぱりいつもの母さんだ、と安堵した。


「す、凄い······。魔皇帝の軍団が壊滅してる」


 アレンがテラスから眼下の海を見下ろしながら呟いた。僕はアレンに近づくと、彼と一緒に眼下の海を見下ろした。


「あんなにいたガレー船や島を引っ張ってきた巨人、さらに魔法の島まで······全てが壊滅してる」


 僕は魔皇帝軍の惨状を目にして戦慄が走った。


「母さん、やりすぎだよ」


 僕は母さんに顔を向けると苦笑いした。


「オリスティン、敵が全力で攻めてきたら、こちらも全力で戦わなければ敵に対して失礼になるわ」


 母さんの言葉は納得できそうで、いまいち意味がよく分からない。


「おお、そうじゃった! レイリアよ、そなたに朗報があるんじゃ」


 僕たちの会話を微笑みながら聞いていた魔王じいちゃんが嬉しそうに声をあげた。


「なんでしょう? 魔王様お義父さま


 魔王じいちゃんはアリサに近づくと彼女の肩に手を置いた。


「このアリサがオリスティンの嫁になりたいそうじゃ」


 魔王じいちゃんの言葉に、母さんは胸の前で両手を合わせながら満面の笑みを浮かべた。


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