【第23話】伝説の卒業生

 ボールを投げるように火球をスラリンに向けて投げる!


 アリサの言葉通りに、掲げていた右腕をボールを投げる感覚で前方に振り下ろしながら火球をスラリンに向けて投げつけた。火球は僕から離れると、前方から迫りつつあるスラリンに直撃した。スラリンは掠れた吠え声をあげながら全身火だるまとなって地面に崩れ落ちた。


 一瞬にして炭化したスラリンを僕は半信半疑で見つめた。


「これ、僕がやったのか······」


「オリスティン、凄いじゃない! やっぱり勇者の血統は本物だったのね!」


 アリサが僕の体を揺らしながら歓声を上げた。

 マルコロとアレンも戻ってくるなり、僕の肩を叩いたり頭を撫でたりしてきた。


「オリスティン! 凄いじゃないか!」


「さすが勇者! 見直したぜ! オリスティン!」


 アレンの言葉を耳にした僕は、僕の頭髪をもみくしゃにしている彼に顔を向けた。


「見直した? アレンさん、僕のことをどう思ってたの?」


「軟弱な勇者だな、と」


 アレンはそう答えると笑い始めた。僕は一瞬、不快な気持ちになったけれど、絵ばかり描いている軟弱な少年であることは悔しいけど認めざるを得ない。


「まあ、いいや。アレンさん、これからは僕を頼もしい勇者として見てよ」


「もちろんだよ。でも、いつか勇者として覚醒してくれる、と信じていたよ」


 僕はアレンに笑顔を向けた。


「確かにオリスティンは勇者として覚醒したけど、まだまだ魔法の使い方が危なっかしいわ」


 アリサが両手を腰にあてながら言った。


「それにしてもオリスティン。本当に魔法を初めて使ったの?」


「初めてだよ。だから僕自身驚いてる」


「火球の魔法で、初心者がいきなりあんな大きな火球を作り出すなんて、普通じゃありえないわ」


「きっと母さんの子守唄が僕に魔力を与え続けていたんだと思う」


「子守唄が?」


 アリサは、理解できない、という感じで頭を振った。


「オリスティンの母親は、あのレイリア・プランローズだからな」


 マルコロがアリサにそう伝えると、彼女の表情が急変した。


「え、ウソ! あのプランローズ家の令嬢、レイリア様なの?」


 アリサは驚きのあまり目を大きく見開きながら僕を凝視してきた。マルコロは頷いた。


「そう。代々、高名な魔術師ウィザードを輩出しているプランローズ家の出身だ。だから“魔力伝承”によってオリスティンに赤ん坊の頃から魔力を与えてきたのだろう」


 マルコロの説明を耳にした僕は、なぜ小さな頃から母さんから不思議な子守唄を聴かされて育ったのか、その謎が解けた気がした。


「オリスティン!」


 突然、アリサが大声で僕の名前を読んだので、僕は驚いた。


「アリサ! いきなり驚かすなよ!」


「オリスティン、せっかくレイリア様があなたに高度な魔力を授けたのに今のままでは宝の持ち腐れよ! 良いこと? 今から私があなたをトレーニングするわ」


「トレーニング? 」


「そうよ! せっかく勇者としての能力が覚醒したのに、火球の投げ方さえ知らないなんて、魔術師である私が傍にいながらオリスティンがまともに魔法を使えなかったらレイリア様に申し訳ない」


「分からないな。どうしてアリサが母さんをそこまで立てるんだよ?」


「レイリア様は私が卒業した魔法アカデミーの大先輩なの! 魔法アカデミーでは本来5年間教育を受けるんだけど、レイリア様はたった1年で全てをマスターして首席で卒業した伝説の卒業生でもあるのよ!」


「母さんが魔法アカデミーの伝説の卒業生!」


 僕は母親の隠された過去を知って、その意外性と偉大さに驚きすぎて言葉を失った。


「僕に魔術師ウィザードの片鱗さえ見せたことがなかったから、普通の母親だと思っていたのに······」


「そこがレイリア様の優れたところでもあるの。優秀な魔術師ウィザードでありながら、それを周りにひけらかさない、むしろ隠そうとする、そんなレイリア様だからこそ、多くの人に愛されていたのよ」


 自分の母親を絶賛するアリサを見つめながら、僕は嬉しい気持ちでいっぱいだった。


「レイリアさんは勇者の母親にふさわしい方だな」


 アレンがポツリと言った。僕は頷くことはなかったけれど、確かにその通りだ、と納得したのだった。

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