【第2話】伝説の盗賊
長老が2人の使用人に持って来させた大きな木箱。かなり古そうだ。古木の香りが鼻をつく。僕は木箱を見つめながら思わず息を呑んだ。
「この木箱の中に伝説の勇者から頂いた武器が入ってるんですか?」
僕は伝説の勇者の子孫とは言え、我が家に代々伝わる勇者の装備品を目にしたことがなかった。僕が生まれる前に祖父が借金のカタに勇者の装備品を売り払ってしまったからだ。勇者の装備品は剣や盾、甲冑、サークレット、指輪など一式揃っていたらしいが、祖父がたまりにたまった酒代のツケ払いのため家族に内緒で一式全てを売り払ってしまったのだ。これには家族はもちろん、親戚など一族が大いに怒り、祖父は追放されてしまった。
「実は、わしも中身を見ていないんじゃ。ただ、はるか昔に伝説の勇者と共に旅をしたわしの先祖様が記念に頂いた、ということしか知らなくての」
僕は長老の言葉に反応することなく、ただ、目の前に置かれた木箱をじっと見つめた。
この木箱、僕が両手を広げたくらいの長さがある。これくらいの大きさの木箱なら、きっと剣や鎧が入っているに違いない。
「長老、木箱を開けてもらっても良いですか?」
僕は真剣な眼差しで長老にお願いした。
「うむ。しかしじゃ、オリスチン」
「オリスティンです」
「うむ、それも良かろう。オリスティン」
それも良かろう、だなんて、長老は何を意味不明なことを言ってるんだろ。良くも悪くも、僕の名前はオリスティン・ブラッドメイスなのに。
僕は半ば呆れながら、早く木箱の中身を見たい、と思った。
「長老、早く中身を」
「そう焦るでない、オリスティン。実はの、木箱には鍵がかかっておるのじゃ」
「じゃあ、早く鍵を」
すると、長老は残念そうな顔つきで頭を振った。
「ないんじゃ。鍵をなくしてしもうたんじゃ」
長老の言葉に、僕は絶句した。
「このクソジジイ!」僕は心の中で叫んだ。
せっかく伝説の勇者の武器を拝めると思ったのに、ぬか喜びさせやがって!だけど、長老に向かって怒りをぶつけるわけにはいかない。
「長老、鍵がないんじゃ、諦めるしかないんですね」
僕は怒りを抑えながら、わざと落ち着いた口調で皮肉を言った。
「オリスティン、勇者ならここで諦めるわけにはいかんぞ」
「そうですよね、簡単に諦めるわけにはいかないですよね。じゃあ、ハンマーで木箱を叩き壊しますか!」
「それは戦士の発想じゃわい。オリスティンよ、なぜ、わしの先祖様が勇者と旅をしていたか知っておるか?」
「さあ。なぜなんです?」
「わしの先祖様は盗賊だったのじゃ」
「長老の先祖様は泥棒だったんですか!」
僕は笑いを堪えながら驚いた。
「泥棒とは聞こえが悪いわい。勇者のために宝箱の罠を解除したり開錠したりして活躍した盗賊だったんじゃ!」
「はあ、そうなんですかー」
僕には気のせいか、長老がどや顔しているように見えた。いや、明らかに先祖様自慢をしてる!
「長老が盗賊の末裔なら、この木箱の開錠もたやすいですよね?」
「もちろんじゃ! わしもまた伝説の盗賊の子孫じゃからな」
「では、開錠をお願いします」
僕は長老に頭を下げた。
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