駆け出し勇者の日帰り魔王討伐迷走戦記

皇 南輝

第1章

【第1話】魔王打倒依頼

「魔王を倒してくだされ!」


 ある朝、村の長老宅に呼び出された僕は、長老に会うなり魔王打倒を依頼された。

 昨日、16歳の誕生日を迎えたばかりの僕は、魔王打倒の依頼がいつか来るだろう、とは予測していた。なぜなら、僕は伝説の勇者の子孫だからだ。


「すぐ目の前にそびえる山の頂きに魔王の居城があるのは知っておろう。伝説の勇者の子孫であるオリスチンよ…」


「オリスティンです」


 僕は長老が呼ぶ僕の名前の発音間違いに対して間髪入れずに訂正した。


「オリスティンよ!今すぐ装備を整えて魔王の城へ向かうのじゃ!」


「向かうのじゃ、と言われても武器なんか持ってないんだけど」


「伝説の勇者の子孫なら代々伝わる武器や鎧など一式揃っているじゃろう!」


「そんなもの、とっくの昔に売られちゃったよ」


「売られた、じゃと?」


 長老は驚きのあまり目を大きく見開いた。


「うん、祖父が借金返済のために質屋に入れちゃったんだ。それっきり」


「あの大酒飲みが! 不思議な力が込められた勇者の武具を売り払うとは!」


 長老は地団駄を踏んだ。


「長老、例え勇者の装備があっても、僕なんかに魔王を倒せるわけがないじゃないですか。僕はおばさんでも倒せる魔物スラリンでさえ倒せないんですよ」


「確かに! お前は伝説の勇者の子孫なのに村では最弱の男だと評判だからな。しかしじゃ!

 魔王を倒せるのは伝説の勇者の子孫だと世間一般ではそう決まっておる。やはりお前が魔王を倒しに行くしかないのじゃな、これが 」


 僕はため息をついた。

 伝説の勇者が使っていた装備がないうえに僕は村一番の最弱の男。しかも、魔王の城は目と鼻の先にある山の頂きにある。魔王は強大な魔法を操り、4頭のドラゴンを飼い慣らし、世界中に6人の暗黒騎士を派遣して世界を統治している。そんな強大な魔王に僕が勝てるわけがない。


「長老、お断りします」


 僕は長老に向かって深々と頭を下げた。


「なぜじゃ! 我ら村人を見捨てるのか!」


「見捨てるも何も僕が魔王に勝てるわけがないじゃないですか!」


「だったら魔物を倒して鍛えれば良いではないか!」


「魔物? 長老、ここは魔王の城と村しかない小さな火山島なんですよ。しかも、周りには最弱の魔物スラリンしかいないじゃないですか!」


「お前はスラリンさえ倒せない勇者であることは村人みんな知っておる。スラリンを倒せるようになってから魔王に挑むが良い!」


 僕は長老の言葉を耳にしながら「このクソジジイ」と心の中で叫んだ。

 おばさんにも倒せる最弱の魔物スラリンを倒せたからといって、魔王を倒せるようになるわけがないじゃないか!


 僕は深いため息をついた。


「オリスティンよ、そう気落ちするでない。我が家に伝わる伝説の勇者から頂いた品をお前に渡そうではないか。それを使って魔王を倒すが良い」


 長老はそう言うと、2人の使用人に大きな木箱を運んで来させた。木箱は両手を広げたほどの大きさがある。2人の使用人によって目の前に置かれた木箱を見た僕は、驚くと同時に期待に胸を膨らませた。

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