第16話 ちょこっとヒロイン登場だよ
(エレン視点)
バルコニーから飛び降り、近くの街の宿屋での合流に急ぐ途中、頭の中はリリィの事でいっぱいだった。
宿家に戻ると
俺はどうしてそれ程までにリリィの事を考えてしまうのだろう。まず初めの印象だが、俺に向かって魔物をけしかけてくるヤツだった。今まで居なかったタイプだな。さらに俺を行動を諫める、叱る、命令する女だ。珍しいタイプだな、しかも年下だ。言いなりになるそこいらの令嬢なんかよりも百倍面白いのは間違いない。
しかも身分も申し分ない、良い所過ぎる家格の令嬢だと派閥バランスが悪くなるとかで、程々の伯爵程度が兄が警戒しなくて丁度良い(と、父上が言っていた)。
ワクワクが止まらない、次は何をしでかしてくれるのか。機会があればあの熊と手合わせを願いたい所だ。そうか、グラスファーが俺に対する感情と同じなのか?グラスファーも何しでかすか分からないと俺を見ている。それで、その感情というのはどういう感情なんだ?
「グラフファー、お前、俺の事をどう思ってる?」
「率直に申し上げて、メンドクセエガキでしょうか」
「……本当に率直だな、まぁいいけどな」
俺は、姫の事をメンドクセエガキだと思っている???てっきり好敵手とかマブダチとかその方向だと思っていたのだが、そうか、俺はメンドクセエガキだと思っていたのか。ところでそれはどんな感情なのだ?
「メンドクセエガキという感情、もうちょっと詳しく言えないか?」
「そうですね、付き合いを切る事ができず、望みを極力叶えなくてはならないのに、勝手に動いてその都度手間が増えると言ったところでしょうか」
「成程、参考になった」
望みをかなえる、か。リリィの望みは精霊災害の回避であったな。ロングナイト侯爵が素行が問題になるという話だったが、どうやって止めればいいのだ?こう、どかーんと退治して終わりというのであれば簡単なんだかが、それ以外というのは苦手なのだ。
「ロングナイト侯の失脚を狙ういい方法はないかな」
「精霊の森開拓の罪でしょっ引くくらいでしょうか、他にどのような悪事に手を染めているのかわかっていません」
「姫はロングナイト侯が違法賭博、奴隷市場もやっていると言っていたぞ、どうして姫より掴んでいる情報が少ないのだ?」
「リリィルア様がですか、なんと、どのような情報網を持っているのでしょう、わたくしも少々興味が湧いてきました」
「そうだ、女には贈り物が良いと聞く、何か手土産になりそうなものを…、ちょっとここの領都を物色して考えよう」
◇ ◇ ◇
(アレク視点)
今日はロングナイト侯の情報を手土産にリリィの元に行く予定で、奴らの領都を散策中だ。だが、そこで偶然にもエレンを見つけた。咄嗟に隠れ、様子を見ていると菓子店に入るではないか。まさかリリィへの土産か?あのアレクが?気でも狂ったのか?しかし、あの店員、なにか見覚えがあるんだが、誰だったかなぁ……。
そうこうしている内に、ならず者風の男達が店に入ってゆく。なにやら、口論になっているようだが、さしずめシャバ代か借金の徴収当たりだろう。エレンが居る時にそんな事をすれば、エレンが怒って追い返しに違いない!
いや、それだけじゃない、思い出したぞ、このシーンは本編の回想にあったヒロインとエレンの出会いシーンだ!この時点では、ルルゥとはまだ婚約どころかで会っても居ない時期だった。ここで、華麗に借金取りを追い返したエレンにヒロインが恋をするというのが、エレンルートの演出。そこんな所で、見れるとは思わなか……あれ?
借金取りを無視して出ていくエレン。
未だに店内は借金取りに詰め寄られヒロインがピンチに陥てる。
何してんだよエレン!
くそっ、俺が助けないといけないのかよ!
「まて、お前ら何を騒いでいる!?」
「てめぇ、何もんだ!」
イカツイ男が4人、僕に向かって睨みをきかせてくる。
え、勝てない、どうしよう。
そうだ、追い払うだけでいい。この店から遠ざけよう。
「表に出ろ、話なら僕が聞く!」
「いい度胸だ、おい、嬢ちゃん、あとでキッチリ払ってもらうからな!」
「ひっ」
ヒロインに向かって脅しの一言、怯えるヒロインをこのままにしておくのは忍びない。だが、どうやってコイツらを退治する?イキって言ったものの、そんな事を6歳の僕に出来る筈がない。さて、表に出たのはいいが、せめてエレンでも居れば、って探しても何処にも居ない、何やってんだよ!
「おい、じゃあ拳で話を聞こうじゃないか、おら、かかってこいやあ!」
「ぐっ」
「おい、こんなところで子どもを虐めて何しているんだ」
冒険者らしき6人組が現れた!これぞ、神のお導き!
「俺達は『ファイアエッジ』だ!文句があるなら、この剣で説得する事になるぜ?」
「素手相手に剣は卑怯だろ!ファイアエッジ!覚えてやがれ!」
自警団みたいな物だろうか?借金取は、あっという間に逃げ去ってしまった。
「僕、大丈夫かい?」
「ええ、助かりました。彼らの事をご存じなのですか?」
「あれは領主の手先だろう、とあるお方から、そう言うのを邪魔して欲しいって頼まれてね」
「奇遇ですね、僕も似たような物です。良ければ少し話聞かせてもらえますか」
「ああ、いいよ。お、そこのお嬢ちゃん、大丈夫だったかい?」
「ええ、ありがとうございます、お陰で被害もありませんでした」
にこやかにお礼を言うヒロインは僕に向かっては冷たい目線を送る。
舌打ちと共に呟かれた言葉に一瞬真っ白になった。そのまま、冒険者たちにだっこされて、連れられていく最中、ヒロイン像が脆くも崩れ去る音がした。
『ちっ、折角のエレンルートが立たなかったじゃない、このチビのせいで……』
間違いない、ヒロインも転生者だ。やばい?やばいよな、このままではルルゥを無理矢理悪役令嬢に仕立て上げる可能性がある。何にも知らないヒロインなら回避しやすいけど、ストーリーを熟知しているならルルゥを本来のルートに持っていく事も難しくないはずだ、唯一の救いは現状ではまだ平民だという事、ここから男爵家の養女になる訳で、それまでの間は安全。いや、養女になるのを妨害したらどうなる?そもそも悪役令嬢も不要になるよな?んで、そもそも男爵って誰だったっけ?ううむ、思い出せないなぁ、リリィなら覚えてるかな?
それにしても、冒険者の方々と話しながら歩いていると、ふらふらと人だかりに近づいてゆく。何故かその中心人物はまたもやヒロインと借金取りで、言い合っている。そしてその近くにエレンが居るが、また無視して立ち去る。
「お、また、アイツらまた何か、やらかしてやがる」
「助けるぞ!}
「げぇ!ファイアエッジ!」
今度は縛り上げて、捕まえる事に成功した。ヒロインはお礼も言わず、さっさと逃げてしまった。恐らくまた、どこかでエレンに付きまとってるのだろう。なんか怖いわ、執念が凄すぎるな。
それはそうと、借金取りだ、吊るして吐かせてしまおう。
その後、その借金取りは領主の手先ではなく、ヒロインに雇われていた事が判明する。こればかりは呆れて物が言えないな。
というか、僕の持ってるヒロイン像を壊さないでくれ……。
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