第15話 そうだ、家出しようよ4
フォーグは私を抱えられながら森の中をひたすら走った。
距離を取ったので、もう大丈夫だと思った頃に、私は降ろされた。立ち続けれる時間はかなり短いので、足が震える前にむき出しになった大木の根に腰を下ろす。
絶望的だった。クマを失った時点で、私は赤子同然だ。体の大きさから赤子よりもタチが悪い。生きるも死ぬも、このフォーグ次第となった以上、生意気な事を言う事も出来ない。しかも、
無理…最低…絶望的…。
この人が、私の言う事を聞いてくれるとは到底思えない。
もしかするとここで、こんなつまらない所で死んじゃうのかな。
そうだ、ロード機能ないかな!?ロード。あ、セーブすらしてない。
「おい、ここにいつまでも居るのはまずい、立って歩け」
「無理…」
「死にたいのか?」
「私、元々歩けないもの」
最初こそ信じられないという顔をしていた彼は、次第に納得したのか私を抱きかかえた。そして、私達が最初に遭った地点を目指し、走ろうとした時だ。
私は地面に放り投げられた。急に降ろすにしてももっと丁寧にして欲しいと、睨みつけようと彼を見ると、そこにはエレンラント王子が立っていた。何が何だかわからない、フォーグは地面に俯せとなり、王子の足で腕の関節を極められて抑え込まれていた。そして王子がそして私を睨んでいる。
「お前らも、さっきの奴らの仲間か?」
「ああ、そうだ。ファイアエッジのメンバーだ」
「この子もか?」
「そうだ、悪いか」
「おいっ、こんな子どもがパーティーに入れる訳がないだろうギルド規約も知らないのか。嘘をつく様ならそれ相応の報いを受けてもらうぞ」
ここで嘘を言う必然性があるかどうかが問題、というよりも私の正体を王子に知られて良いのかどうかでしょうか。婚約者となった私をがここに居る事は外出してないという前提が崩れる事になり、結果、外に連れ出される。他の人ならまだしも、王子に連れていかれるのはお断りしたい。
でも、どうしたら…。
その時、ふと先生の一言が脳裏をよぎる。『あ、間違ってもそこいらの木や池、地面に流し込もうとするなよ、とんでもない事になるからな』…、は、ははは、やっちゃってもいいよね、やっちゃおっか!
◇ ◇ ◇
(王子視点)
それにしてもこの子ども、不気味な笑い方をする。
何かをしそうでもあるが、子どものする事だ、大した事は出来ないだろう。
問題はこの男の方だ、気配を消す
実のところ逃げられても問題はない。こんなのはただの暇つぶしだ。父からの命で精霊の森の調査を命じられたから来たものの、魔物ですら手ごたえが無さすぎる。
つまらん、本当につまらん。
誰も彼も弱すぎてつまらん。
俺を楽しませるような、奴は居ないものだろうか。
「今だ!」
突然、掛け声と同時に背後から矢が飛んでくる。誰か知らんが、つまらない攻撃だ。二本の指で矢を受け止め、そのまま飛んできた方向に返す。
悲鳴が聞こえたが、その周りからゾロゾロと冒険者らしき者が現れる。見た事があると思ったが、どうやらあの馬鹿息子が率いてた冒険者だ。純粋に敵対してきたのは褒めてやりたい。しかし、当の馬鹿息子が見当たらない。
ふと足元に目をやると取り押さえていた男の代わりに丸太を踏んづけていた。何処にも居ない!また姿を消したのか。いや、まだ近くに居る筈だ。あの子どもを置いていく訳がない。
その子どもは腰を抜かしたのか動こうとしないで地面に手を突き
そうか、こっちが
冒険者を捌いているが、魔物と違って殺す訳にもいかないのが面倒だ。別に殺してしまっても良いのだが、尾ひれがつくのがな…。時々、人質にしようとしているのか、子どもを捕まえようとする輩も居た。何故か、俺が守るような状況になっている事に憤りを感じる。
冒険者が半数を切った頃、ようやく一斉に襲い掛かって来た。思ったよりも強いが、俺の敵ではない。子どもを護りながらというのは中々面倒で、どこまでも足手まといだ。そんな、イラっとしたその瞬間、警戒していない方向から巨大な物が近づいてくる。
マズイ、このタイミングで魔物か!このままでは冒険者も死者が出かねない、そう思った瞬間、それは杞憂だったことが判明する。近づいて来た物、それはクマの縫いぐるみだった!
◇ ◇ ◇
(フォーグ視点)
てっきりリリィが操っていたと思ってた熊が自立して動いている。
よく見れば肩に犬が乗ってる!もう意味わからねえ!
そして、俺よりも動揺しているのは王子だ、ここがチャンスとばかり、リリィを奪取し抱きかかえてその場を離脱しようと考えた。
その行動を王子は予測していたのか、リリィに手を伸ばす。ギリギリ間に合わないと思ったその時、王子の足元がボコッと盛り上がったと思えば、そのまま大きな土ゴーレムへと変貌した。それだけじゃなかった、周りの木々が動きだし、王子を襲う。それらの対応に追われている内に、リリィを奪取、熊の方に走りリリィを投げた。クマはリリィを上手に受け取り、肩に乗せる。ついでなのか、俺もクマの肩に乗せてくれた。おっほっ、マジ嬉しいんだぜ!
「フェンリル先生、操縦代わるね」
「わんわおん(凄く疲れたんだぜ))」
ああ、そうか、リリィは犬の事を先生と呼んでいた理由がようやく理解できた。
しかし、先生が操縦している時は足音がしていたが、リリィの時は足音がない。先生?もしかして、弟子に追い抜かれていないか?いや、まぁ、こいつら、ほんと、おもしれーな!
そして、クマが全力で走る。俺は、そのスピードに心臓が破裂しそうなくらい興奮した。俺が全力で走るよりも遥に速く、木々を避けるのもギリギリでハラハラする。楽しい、超楽しい!!!ヒャッハー!
遠くで王子の声がしたが、もうどうでもいい。
俺達は今、風になったんだ!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます