第6話

それから、ひるは夜の闇に飲まれて消滅することに恐れながら、常に太陽のある場所にいなくちゃならないという焦りを持ち続けながら生きてきたと語った。ひと跳びで山を越え、海にたつ波をすら駆ける足場にして、ずっと地球を回り続けているのだと。

「白夜ってあるんじゃないの?」と僕が聞くと、ひるは「寒いところにジッとしているくらいなら、世界を駆け巡っていた方がマシだ」と答えた。


「みたま、ってなんなの?」

内緒にしておいてくれと言われたのに、よかぜに木の洞の事を言ってしまった後ろめたさがあって、僕はモジモジしながら、ひるに聞いた。

「よかぜから聞いたのか。私があの存在から逃げ出した後、行く先々にあいつはいたんだ」

「あいつって、神様?」

「神なんて呼びたくない。あいつはあいつだ。中国の切り立った岩山の上にもいたし、中東の砂漠にもいた。あいつは、いつも突然現れて、私にみたまを手渡した」

「いくつもあるの?みたまって」

「ああ。こいつは」

ひるは木の洞の中からみたまを取り出しながら話し続ける。晴れた日の昼間だからか、今日は光を放っているようには見えない。ぶよぶよした水の塊に見える。

「こいつは、私とよかぜの魂のかけらのようなものらしい。あいつは私の行く先々でこのみたまを私に渡してきた。『よかぜに渡さぬようにな、消滅したくなければ』とだけ言って、いつも消えたよ。何が何やら分からないまま、私はこいつを持って飛ぼうとしたよ。でも、なぜか、こいつを持っていると跳べなかった。だから、私は受け取った先々でこいつを隠して、暮れていくその地を離れなくてはならなかった」

「へー。それで、ここではその木の洞に隠していたの? でも、昨日よかぜはそれを取り出したけど、すぐに戻したよ。今だって、ほら、ひるが持ってる。盗られてないじゃない」

「ああ、でも、これはもう盗られたあとのみたまだ。栗のイガみたいなもんだ。中身はもう空っぽだ」

「光が、中身なの?」

「それも、見ていたのか。私か、よかぜが手にしていないと他の者には見えぬもののようだが……、よかぜが手にしたのを、そうすけ、君は見たのだな」

「う、うん……」

あらためて名前を呼ばれて僕はちょっとだけドキドキした。

「まぁ、そのようなものだ。このみたまはしばらく無価値なものになる」

「しばらく?」

「ああ、まただ。また余計な事まで話してしまった。私はもう、行く。さらばだ」

ひるはそう言うと、みたまをまた木の洞に入れて、バシュっと跳んで行った。

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