借金返済のためにフルダイブゲームを最速クリア!

鏡銀鉢

第1話 お前とは背負っているものが違うんだ!


 それは、青い空の下、温かい風と太陽が草をなでる、春の日の事だった。


「くたばれええええええええええええ!」

「いんぎゃあああああああああああああああああ!」


 俺の剣が、虚空に青いラインを引きながら男の首を狩り取った。

 男の頭上に表示されたHPバーがぐーんと縮まり、半分を過ぎたところで色がグリーンからイエローに変わった。


「うわぁ! なんだお前ら!」

「プレイヤーキラーか!?」


 俺は力の限り叫ぶ。


「うっせええんだよ! こいつは俺らの得物だてめぇらは手を出すんじゃねえ!」


 俺の背後にはブレイク状態と言って、身動きが取れなくなったユニコーンが草の上に膝を屈している。

 この状態のモンスターには全ての攻撃がクリティカルヒット扱いになり、楽に倒せる。


「あたしらがせっかくブレイク状態にしたのを攻撃するなんてあんたらこそコソドロよ!」


 俺の隣で、ポニーテールの少女が両目を吊り上げ、怒気のこもった声で抗議する

 俺の一つ下の妹、狩谷和美だ。


 槍と魔法の杖が融合した、マジックスピアを振り回しながら、四人の男達を威嚇する。

 その時、俺と和美の野性の勘がぴきーんと反応。


 振り返ると、別の男、俺と同じ剣士風の格好をしたプレイヤーが、こっそりとユニコーンに近づいていた。

 青々と生い茂る草原に横たわっていた、大岩の陰に隠れていたようだ。


「させるかぁ!」


 俺は持っていたロングソードを投擲。『投げ剣スキル』を持つ俺が投げた剣に『投擲スキル』が適応される。

 青い光の尾を引きながら飛んで行ったロングソードは男のこめかみに直撃。

 白い雲を仰いで、男はこめかみから血の代わりに赤い光を飛び散らせて倒れた。


「サンダー・レイン!」


 和美が槍を振るうと、雷の矢が四人の男達に雨のように降り注いだ。


「ぎゃああ!」

「のわああ!」

「にぎゃああ!」

「ひどいいい!」

「よし和美! そのまま押さえとけ! 最悪殺してもかまわん!」

「当然よ!」


 和美が男達に容赦ない魔法攻撃を浴びせている間に、俺は一瞬でユニコーンの元へ跳ね飛んだ。


 着地と同時に倒れている男のこめかみから剣を引き抜き、そのままの勢いに乗せて刀身をユニコーンの首に振り落とす。


 僅かな抵抗を受けながら、ユニコーンの首に吸い込まれた刀身が振り抜かれた。


 青いライトエフェクトをはらんだ剣が通り抜けると、ユニコーンの首には赤い光の線が残っていた。


 ユニコーンの頭上に表示されている『ユニコーン』の名前の下で、赤いHPバーが消滅。


 額に長い角を持った、美しい白馬はその身をガラスへと変え、砕け散った。


 そのすぐ後に、俺の目の前に『WIN』の文字が表示されてからウィンドウが開き、パーティーを組んでいる俺と妹にそれぞれ加算された経験値、得たお金、手にしたアイテムが表示された。


 このウィンドウは本人にしか見えないが、振り返るとガッツポーズをする和美の前で、男達が力無くうなだれていた。


 どうやらあいつらは何ももらえなかったらしい。


 当然だ。

 公平を期す為、複数人でモンスターを倒した場合、与えたダメージやかけた状態異常魔法など、戦闘への貢献度で、貰えるモノの量が変わる。


 昔のゲームではトドメを刺したプレイヤーが総取りだったが、プレイヤー同士で様々なトラブルの原因となり、今ではその方式を取っているゲームは少ない。


 ゲーム。

 そう、ゲームだ。

 ここはゲームの世界。VRMMO。


 西暦二一五〇年現在。オンラインRPGを含む多くのゲームは、電脳世界への意識ダイブが基本だ。


 これはかりそめの体。本物の体は今頃自室のベッドの上で寝ていることだろう。

 だから当然、この男達も、


「てめぇらいくらなんでもやり過ぎだぞ!」

「ユニコーンは超レアモンスターなんだぞ!」

「強力プレイはゲームの基本だろが!」

「そうだそうだ!」


 こめかみを貫かれた男も立ち上がる。


「ていうか誰が倒す勝っている競争ならまだしもプレイヤーを直接攻撃ってプレイヤーキラーだろ! ネチケットを守れネチケットを! マナーとモラルはどこへ行った!?」


 ぎゃーぎゃーとブーたれる男達へ俺と和美は目を剥いて血走らせ、殺意をまとった呪詛を吐きだした。


「「うるせえんだよゴミブタ共が! 俺らとてめぇらとじゃあなあ! 背負っているモノが違うんだよボケ!」」


 俺らの迫力に、男達は気押されてしまう。


「そ、それはみんな同じだろ? なんせ優勝したら賞金一〇億円。一生遊んで暮らせるんだ。誰だって死に物狂いに」


 頭の血管が切れた。俺と和美の背後に炎が揺らめき立った。プレイヤーのアドレナリンが一定量を超えないと発動しない、最上級の感情エフェクトだ。


 俺と和美の気持ちがシンクロする。

 この、ただ一生遊んで暮らしたいという理由でゲームクリアを目指す幸せなボンクラ共が、俺らの人生を邪魔しているかと思うと全身の血が逆流しそうな思いだった。


「俺らはな、とっとと全クリして一位になって」

「賞金一〇億円手にしないとヤーさんに」


 俺と和美が、魂の咆哮を上げる。


「「内臓売られて東京湾に沈められちゃうんだよおおおおおおおおお‼」」


 男達は唖然として、何も言えなかった。

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ニワトリが飛べないのは才能でも努力でもなく環境のせいだ! 無能な少年と師匠の出会いが、一人の英雄を誕生させる──。

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