第43話 戦闘メイド

 雀の冷笑が傭兵の魂を踏み砕き、傭兵は意識を失った。


「止まりなさい」


 全ての傭兵を失った男はドアからそうっと出ようとして固まった。


 ツカツカと歩み寄って左手のレールガンをフトモモのホルスターに収めると空いた左手で男を部屋の壁まで投げ飛ばす。


「ぐえっ!」


 マヌケな声を上げた男は目の前の銃口に気付いて縮み上がる。


「聞きたい事は二つ、攫ってきた人質はどこ?」

「さ……最上階の、Cルームです、お願いです命だけは!」


 銃口が額にぐいっと押し当てられる。


「二つ目、あっちの連中は雇ったプロの傭兵なんでしょうけど、あんたらは元庶民の雑魚テロリストよね? なんでこんな事してんの?」


 肝を冷やす声に、男は泣きながら怒髪をついた。


「うるせえな! てめえみてえなガキに何がわかる!? 全部社会が悪いんだ! こんな、こんな腐った国が悪いんだよ!

 格差社会だかなんだか知らねえけどな、たまたま貧しい家に生まれたってだけで、俺たちゃ何も悪い事してねーのに不幸のどん底だ!

 ガキの頃からボロいアパートに住んで、ボロい服着て、貧しいメシ食って! 俺は悪くねえ、全部国が、権力者達が悪いんだ! 世の中にはなんの苦労もしないで贅沢している連中がいるのに貧乏から脱け出せないのわかっててマジメに働きたくなんかねーんだよ!」


「それって不幸なの?」


 雀の言葉に、男は言葉を失った。


「不幸って何? 貧しいって何? 定義は? 線引きは? 貧乏から脱け出せないのわかってて? 働きもしないでなんでそんな事がわかるの?」


「そ、それは……だって今の日本を見れば――」


「甘えるわねえ、自分が努力したくないもんだから回りに全部責任押し付けて一人被害者ぶって何様のつもり?」


「うるせえ! 俺は被害者だよ! こんな社会のせいで会社をリストラされた親父はお袋と俺を捨ててどっか行っちまって――」


「親ならアタシもいないわよ、それも失踪じゃなくて死亡、もしかしてあんた自分は世界で一番不幸とか思ってるタイプ? 残念だけど、その程度の不幸ならそこら辺に転がってるわ、被害妄想も大概したら?」


 刹那、雀の殺意が放たれた。


「三食(さんしょく)食(た)べれて雨風凌(しの)げる家があるのに不幸ぶるなよ」


 雀の拳が男のアゴを砕き割り、男は気絶した。

 男から離れながら、雀は髪の中に隠したマイクを伸ばした。


「たっちゃん? みんなは最上階のCルームにいるわ」


 男達の悲鳴や何かの破壊音に混ざり、鷹徒の『わかった』という言葉を聞いて、雀は嘆息を漏らした。


「早く帰って、パフェとお子様ランチが食べたいわ」


 レールガンに新しい弾を装填しながら、雀は部屋を出た。



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