第6話
それから数日、相変わらず嫌がらせは続いている。
私にだけ配布物や連絡が回ってこないことなんてしょっちゅう、ペアになって行う授業では相手がおらず、戸惑い気味の先生とやるしかない。挙句には教室を離れた隙に教科書やノートが破られていたり、物が無くなったりもしている。
(私には買い換えるお金もないのに・・・)
破られた教科書を必死で繋ぎ合わせながらそんなことを思う。彼女達は家も裕福で家族に愛されて、幸せなくせになぜこんな事をするのだろう。
ところどころパーツが見つからない教科書は穴あきでしか修復できなかった。これでは勉強に支障が出るかもしれない。
流石にここまでされているとわかればお父様とお母様も何かしてくださるだろうか。私は一縷の望みをかけて両親にこの事を話すことにした。
家に帰ると2人の話し声が聞こえて来る。
「ねえ、やっぱり不気味よ。ここを売って他の家に引っ越しましょう?」
「この家なんて売れるわけないだろ。引っ越せたとしても庶民が住むワンルーム程度の家になるぞ。」
「そんな・・・でもこの家にいたら気がおかしくなりそうだわ!夜中に天井から足音がしたり、ひとりでに電気が付いたり消えたり、何かいるのよ!」
「はあ、実害はないのだから放っておけ。」
「出てからじゃ遅いじゃない!」
「そんなに引っ越したいなら君が金を稼ぐんだな!」
「そんな・・・うっ、ぐすっ。」
父は苛立たしげに部屋を出ていき、残された母は泣いている。
こんな状態ではとてもではないが学校でのことなど話せない。私はそっと自室へと戻って机に突っ伏した。
「はぁ・・・」
「君たちって・・・」
急にかけられた声に振り返れば、初日に出会った銀髪の青年が立っていた。
「あなた!またなの?どこから入ってきたのよ。」
「最初からいたよ。君が気づかなかっただけだ。」
「勝手に入らないでくださる?」
「心情としてはむしろ僕がそう言いたいよ。」
そう言って肩を落とした青年に、今日こそ正体を聞き出してやると詰め寄った。
「それはどういう意味よ?」
「ここから出て行けと言っただろ?ここには#僕たち__・__#が住んでいるんだ。」
「出ていくことなんか出来ないって言ったわよね?それに#僕たち__・__#って誰のことよ。あなたの他にも似たようなのがいるの?」
「まあ、ここ数日君たちの様子を見ればなんとなく理解したよ。それにしても他に頼れる親戚とか、そういうのも無いの?」
そんなものがあったら私だけでもとっくに頼っている。両親ともに実家との折り合いが悪く、今回事業が失敗したことで完全に見放されたのだ。
「無いわ。それより質問に答えて。」
まあ予想通りだと言わんばかりにため息を付いた青年は、仕方なさげに口を開いた。
「ああ、いるよ。何となく気づいていたんじゃない?そもそもここは結構な曰く付きの家なんだからさ。」
「確かに色々おかしいとは思っていたけど、貴方って・・・」
「ああ、幽霊だね。」
「っ!!」
私は息を呑んだ。やっぱりそうかという気持ちと、こんな実態のある幽霊なんているのかという気持ちで頭がぐちゃぐちゃだ。
「確かにもしかしたらそうかもって思っていたけど・・・貴方には足があるし、幽霊には全然見えないわ。」
「この家の中では生きてる状態に近いから。でも歴とした死人だよ。」
「それで、同じく貴方のような幽霊が他にもいるの?」
「まあ、そうなるね。」
私は理解が追いつかずに考え込んだ。でも何より気になるのは・・・
「それで、どうして私たちに出て行って欲しいの?」
「それは・・・・・・僕たちはこの家でしか存在できないんだ。それなのに騒がしくされると鬱陶しくて居心地が悪い。だから早く出て行って欲しかったのさ。」
「そんな理由なの?悪いけどこの家は私たちの居場所でもあるわ。出ていくことはできないわね。」
「・・・この家は住んでる人を不幸にする。だから、君たちとしても出て行った方がいいよ。」
心が荒んでいた私は、後から付け加えられセリフを鼻で笑う。
「そんなことまで言って私たちを追い出そうとするなんて。自分たちのことしか考えていないくせに。」
「っ!」
そう言った時の青年はとても傷ついた表情をしていて、少し言いすぎただろうかと心が痛んだ。
「そう・・・だね。でも忠告はしたから。」
そう言って去ろうとする青年に慌てて声をかける。
「待って!貴方の名前は?」
「・・・・・・アンソニー。」
次の瞬間青年は霧のように消えてしまった。
目の前で見せられてしまったらもう信じるしかない。
「アンソニー、か。」
彼は嘘偽りなくゴーストなのだろう。執拗に私たちに出ていけという理由は引っかかるが、この家で起こる不可解な出来事の謎は解けた。
それにしても、最後の傷ついた表情が脳裏をよぎる。彼は自分たちの暮らしのために私たちを追い出そうとしているわけでないのだろうか。
彼には彼の事情があるのだろう。次に会えたら謝った方がいいかもしれない。
そう考えて私は眠りについた。
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