第5話

「ハッ!」


私は冷や汗をかいてベッドから飛び起きた。気付けばもう空は白んできている。


「なんなの、今の夢・・・」


妙に鮮明な夢に、内容が内容だっただけに気分が悪くなる。


「はあ、嫌な夢を見たわ。一体何だっていうのかしら・・・」


しかもその夢の主人公が昨日知り合ったばかりのシンシアさんだなんて。なんだか勝手に不幸な夢を見て彼女に申し訳なくなる。


(きっと疲れていたから後ろ向きな夢を見てしまったんだわ。)



まだ時間はあるけれど、もう一度眠る気になれなかった私は水を飲みにキッチンへと向かった。



するとなぜかキッチンの電気が付いている。


(誰か消し忘れたのかしら?)


ただでさえ節約しなければならないというのに何をやっているのだろう。そう呆れながらキッチンに入る。


水を飲んでいる間にも、急にカトラリーが落っこったり、電気が消えたりしたけれど、疲れていた私は深く気にしなかった。


(ああ、電気がついてたのもきっと家が古くておかしくなってたのね。)


そう考えて、さっさと水を飲んだ私は自室へと戻った。


学校へと向かう支度をして再び階下へ降りると、お父様とお母様が話し込んでいた。


「ねえ、やっぱりこの家おかしくない?人の気配がするというか・・・」


「・・・まあ急に物が落ちたり妙な事はあるが、それだけじゃないか。あまり気にするのはよそう。」


「でも・・・」


言い淀むお母様に、話の区切りがついたのを見て居間へと入る。


「おはようございます。」


「ああ、おはよう。昨日はよく眠れたか?」


「実は、あんまり。変な夢を見たので・・・」


「やっぱり、この家が呪われているというのは本当なのかしら。気味が悪いことばかりだわ。」


「まあ、多かれ少なかれ噂の原因となるようなことがあるんだろう。だがそのおかげでこんな大きな屋敷を格安で手に入れられたんだ。多少は耐えないと・・・」


「はぁ、そうよね。耐えるしかないわよね・・・」


暗い雰囲気で始まった朝食はずっとその雰囲気のままだった。




私は徒歩で向かうため早めに家を出る。


学校がある町の中心部に向かうに連れて、自分を追い越していく馬車が増えていく。その馬車のどれかにクラスメイトが乗っているのかと思うと気が滅入る。


それでも私は馬鹿にされないよう、なるべく胸を張って歩いた。



学校に到着し、教室へと向かうと、私の机と椅子がびしょ濡れになっていた。


(やっぱり・・・)


案の定というかなんというか、私は彼女達のターゲットになってしまったらしい。


周りからクスクス笑いが聞こえてくる。


私は持ってきたハンカチでなんとか水気を取った。完全には拭き取れなかったけど、あとは乾くのを待つしかない。


授業中は平和に過ごしたものの、休み時間は事あるごとに嫌がらせをされた。物を落とされたり、嫌味を言われたりなんてことは可愛い方で、食堂ではまだ熱い紅茶を頭からかけられたりもした。



「あら、ごめんなさい。手が滑ってしまったわ。」


「・・・・・・気をつけてちょうだい。」


そう言って睨めば、アリアの取り巻き達は馬鹿にしたように笑って去っていく。


私は冷やしたハンカチを顔に当てた。火傷になるほどではないけど少し赤くなっているようだ。


(こんな生活を3年も耐えられるかしら。)


どうして自分がこんな目にと涙が出そうになるのを必死で堪えた。


お父様とお母様にこのことを言ったからと言って何もしてくれないだろう。私はただ卒業するという目的のためにこの生活を耐え続けなければならない。


(誰か私をここから連れ出してくれないかしら。)


きっと、さっさと結婚相手を見つけることがあの家からもこの学校からも逃げ出す唯一の道だろう。でも友人や家族からの紹介が見込めない今、そんな相手を見つけるのは絶望的だ。


偶然の運命的な出会いでもなければ叶わないその夢に、それでも縋るしかなかった私は、淡い希望だけを抱いて教室に戻った。


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