次元旅行と龍人の少年

スパニッシュオクラ

第1話 プロローグ

既先の漏れ出す日の光に無意識の内に手を伸ばした。


救いは無く慈悲もない。


底の見えない暗闇に、只ひたすらの絶望に吸い込まれていく。


力を抜き重力に身を任せた。鼓動する外壁、瓦礫に打ち付けられながら空中で舞踏曲ワルツを踊る。


既にグリムに指先までの感覚はない。骨も何十本と折れているだろうが痛みは無い。


落下せど落下せど続く闇は頭部から滲み出した血液が眼球に触れたとて景色を変える事はなかった。


冷たいであろう冬の風ヴェトゥルを一心に受ける。温さを失った身体、直ぐに途切れそうな意識の中にゴゥゴゥと音を立てる向かい風に煽られ走馬灯を見る。


───姉さん、ごめん


意識を支えていた一本の糸がプツンと途切れるのを感じた。

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