第5話―奇妙な出逢いⅡ―

一陣の風が吹く……そんな感覚だった。

いきなり提案して己自身だけで決めると俺を引っ張る。なんとか拒もうと口を出してみたが止まることなく家の中へ。


(待って!落ち着けよ俺。まずは整理しよう。

何故こんなことになっているのは?

カラスを追い払って、ケガしたから。

簡単な治療を診てもらう流れになった)


ただ呑み込めるのと呑み込めない内容ではあるが。断ろうにも、なかなか納得してくれない。それに俺が逃げるような状況を作ったような志向性とは別に彼女は腕を引いて上がらせてきた。


「せめて、これぐらいの恩を受けてもらいたいのだよチミ。そうだろう」


それには肯定も否定する気がなく俺は聞こえていない体でそれを流すことにした。


(お礼の言葉だけの見て見ぬふり出来ないと強引に家を連れて……

助けたからって、普通ここまでするか!?)


「さあ、汚いところだけど自分の家だと思ってゆっくりしていてよ」


「あ、ああ」


自分の家のようには寛げそうにはならないが頷いてみせる。

改めて、とんでもない展開になった。

目まぐるしい情報を処理が追いつけず呆気に取られていると玄関をくぐり抜けていた。

頭が混乱していて落ち着けずにいると家主である須津結真すどゆまは俺を横切ってドアを閉めて施錠する。それと覗かれないよう対策がドアスコープ用のカバーをしてチェーンロックまでする徹底ぶりだ。


「……スゴいなぁ。なんか」


「昨今は危険が隣り合わせは世の中だからね。

とくに私のような歳若い女子には特にね」


だったら俺を上がらせて身の危険とか感じないのかと冷ややかな気持ちになる。

どうして俺が危険対象ではないのか?

それほどガードがしっかり気をつけるのに見知らぬ恩人に家を招くのは軽率な判断と行動だ。


「わるいけど俺は帰らせてもらうぞ。

いくら歳若い女の子の家とはいえ突然ここまで連れられると恐怖だから」


それに、顔が沈みこんだような暗い女の子に対して下心がまったくないとは断言できない。

ここを留まればこの無関心がなにかの切っ掛けで邪な心から襲われて抑制の堤防を壊すことはだってある。そう決壊することも有り得る。

そんなことしたら……俺は最も嫌いである人種へと成り下がるだろう。それは一生をまとうするには耐えれないし被った人にも本当の意味で償えない。

そんな憎むべき敵としてなるくらいなら自分を呪いながら殺意めいたものを向けるのだろう。

そんな暗い思考に支配されていると。


「もう、だから何を言っているの。

助けられたから応急処置もせずに行かせないの。私の気持ちが収まらないから、おとなしく受けてもらうよ。

擦り傷があるんだから簡単に手当てするだけ」


「いや、だから……。

そんな大した傷じゃないんだよ。って俺の裾を引っ張るなよ。伸びるからッ!」


「はっはは、ご注文の多い高校生なことで。

よしよし手を拝借しますよ」


なにが面白いのか奴は快活な笑みを浮かべて廊下に歩み進んでいく。そのイタズラな対応が姉と重なってみえてしまう。

手を振り払えわず出ていかないのは実際に困る。このままケガしたまま帰宅するのは目立つから手当をしてもらいたいからだ。

いや強く促されると断れないだけ。

とりあえずその真意や意図をあさっての方向を向けることにした。

断れず迎合けいごうしていけばいいと、事なかれ主義として生きている。

掴まれている手を払うことは、俺の生き方である事なかれ主義を否定するようで容易には出来ない。こんか簡単なことを他のクラスや仲間も平然と行えている。

俺はそのことを内心これを少しだけ見下したりもしているがうらやましくあった。

どうにも出来ずに、ただついて行くしかなかった。さっさと応急手当てをされて帰るだけだ。

それで変な噂、誰も傷つくことなく。

――居間に通されて俺はその光景に言葉を失う。

和モダン……日本伝統な和とスタイリッシュな現代的なデザインされたものが一つにした様式。オシャレな室内で感嘆させるものはあるが硬直になる理由は別にある。

それは人類大半が本能的にあるものが嫌悪して距離を撮りたくなるもの。この部屋は散らかっている。

ようするに見渡す限りのゴミで支配された部屋だ。


「こんなのテレビの過剰な演出だとか笑って見ていたが……リアルであったのか。実在した」


「やっぱり引いちゃうよね。見るに堪えないと思うけど我慢してね。あと唯一ここに浮上する椅子があるからそこに座って」


指を指し示されるのは確かに椅子だ。

床は乱雑にあるゴミのカーペットが室内のあらゆるところを広がっている。


「これはゆるがせになんか出来ない」


「んっ?なんだって」


「ゆるがせるかあぁぁぁーー!こんなゴミのような部屋があるなんて。スルーしようかもとも考えたが掃除してやる。この部屋を清掃してやる」


このまま放置することは許容できない。

せっかくのアンティークな雰囲気をぶち壊してゆく散らかす物の数々。それによって生まれでるのは異臭と害虫。とてもではないがここに留まることは拒絶する頭と心。

目にも鼻にも毒にしかならない危険な部屋だ。

大掃除をしようと動くと須津結真は人差し指を立てると横に振りながら何かを話そうとする。


「ここで日本語の講座。

掃除とうのは散らかっている空間を片付けることを言います。それに類語となる清掃というのはキレイな空間をさらに片付けるとい行動を指します」


頼んでもいないのに講義を始めやがった。


「はっ、なんだ急に」


つい苛立ってしまい鋭く声音で返してしまった。


「雑!ちょっと今まで敬語で話していなかった。

でもいいや。つまり私の部屋は汚いから掃除が適切なの。

でもでも清掃員とかなら怒りを買わないように言葉を選んで無汚いを綺麗とか言うみたいな配慮はリスペクトしたほうがいいよね。

現代は、そうした気配りが減ったと危惧しているわけよ」


両手を腰に当てて何故か胸を張りながら応える須津結真。なんとなく短いやりとりで分かったがコイツの頭は、おかしいことを。


「そうか。なら一人で危惧してろ」


とりあえず掃除道具を探すことを始めた。

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