12人のおかしな人たち
@asas4869
第1話
○陪審員室
人のいない部屋。部屋の真ん中に円形のテーブルがあり、
その周りに12個の椅子が並べられている。
部屋の両隅にはソファが置いてある
と、佐藤(46)がドアを開け、中に入って来る
佐藤「(後ろに向かって)どうぞ、入ってください」
佐藤の後ろから入って来る、香田(50)、
高畠(61)、中田(31)、石田(29)、
松崎(27)、北山(72)、渡部(60)、
濱谷(27)、小泉(42)、三島(30)、
朝生(36)
佐藤「とりあえず、10分休憩します。そのあと話し合いを始めますので」
佐藤、椅子の1つに座る
香田、三島、石田、北山、朝生も離れた椅子に座る
石田、化粧を直し始める
香田、スマホをいじる
北山、読書を始める
朝生、石田を見ている
中田、松崎はソファに座り、その前に濱谷と小泉が立っている
立ち話をしている、高畠と渡部
高畠「もう疲れちゃったわ。裁判って長いんだもの」
渡部「本当よねえ。せめて座布団ぐらい用意してくれたっていいのに。
私、途中からお尻と腰が痛くて、全然話に集中できなかったもの」
高畠「私も同じ! 全く、これだからマニュアル人間の公務員は嫌なのよ。
こっちの気持ちなんて考えちゃいない」
渡部「あの人たちは与えられた仕事だけこなしてればいいと思ってるんだから世話ないわよねえ」
高畠「本当本当。うちの息子も役所で働いてるんだけどね、もう会話なんて事務的なことばっかり。
必要最低限のことしか話さないんだから」
渡部「あら本当? 全く、家族の会話もあったもんじゃないわよねえ」
高畠「でも、そんな所も可愛いんだけどね」
渡部「あ…親バカなのね」
高畠「母親にとって息子は永遠の恋人なんだから、当然よ」
談笑している、中田、松崎、濱谷、小泉
小泉「しかしあの被告の男も酷い人間ですよね。
別れた元嫁に金を借りに行ってさ、断られたら逆ギレして包丁で刺し殺しちゃうんだから」
濱谷「人間のやることじゃないですよ。あれはケダモノですよ、ケダモノ。
聞きましたか? あいつの裁判での発言。
自分に金を貸すのは、元妻としての当然の義務だ。
あいつはその義務を果たさなかったから罰として殺したんだって」
小泉「滅茶苦茶なことを言う奴だよなあ。あの奥さんが不憫でならんよ」
松崎「僕は、残された子供が心配だなあ」
中田「ああ、いましたね。確か、中学3年でしたっけ」
小泉「多感な年ごろだからねえ。あの年でこんな経験しちゃったら、この先どんな大人になっちまうのか―」
濱谷「自分の父親が自分の母親を殺した裁判の証言台に立つなんて、僕には絶対無理ですね」
小泉「同感だね」
濱谷「僕の中3の頃なんて、女の子のことしか考えてない馬鹿な中学生でしたからね」
小泉「俺もそう! クラスの女子で誰と付き合いたいかとか、馬鹿な話ばっかりしてたよ」
中田「僕は、どちらかと言えば漫画やゲームやアニメのことばっかり考えてましたよ」
濱谷「ああ、僕も似たようなもんですよ」
小泉「中学生男子の会話の内容なんて皆そんな感じでしょう。(松崎に)あんたも同じようなもんだろ?」
松崎「え? (言いにくそうに)ああ、はい。そうですね…」
小泉「何だよ。歯切れ悪いなあ。あんたは友達とどんな話してた?」
松崎「ううん…。あんまり、覚えてないですね…」
小泉「覚えてないって、そんな訳ないでしょう。何かあるでしょ?」
松崎「そう言われても…」
濱谷「(小泉に)まあまあ、別にいいじゃないですか。
この人も覚えてないって言ってるし、許してあげましょうよ」
小泉「(不満そうに)…」
化粧を直している石田の横に座る、朝生
朝生「ねえねえ、裁判のときから気になってたんだけど、あなたすっごく肌綺麗ね。
化粧品何使ってるの?」
石田「(化粧を直しながら)別に何でもいいでしょ」
朝生「いいじゃない。教えてよ」
石田「今さら化粧品変えたって、その小じわは消えませんよ、おばさん」
朝生「…! 私はまだ36です! 全然おばさんなんかじゃないです!
むしろ同僚の間ででは若々しい方なんですから! 合コン行っても絶対私が一番モテるし!」
石田「知らないわよ…」
石田に話しかける、香田
香田「君、年増の女をいびるのもいいが、それより、こんなところで化粧を直すんじゃない」
朝生「ちょっと! 誰が年増の女よ! まだ36だって言ってるでしょ!
同僚の間で も一番肌年齢が若いんだから!」
石田「井の中の蛙ね」
朝生「ちょっと、それどういう意味!?」
石田「知らないの? 井の中の蛙」
朝生「井の中の蛙は知ってるわよ! そういうことじゃなくて―」
香田「おい! そんな話はいい! 私は化粧をやめろと言ってるんだ」
石田「そんなこと、あなたに言われる筋合いないと思いますけど」
香田「筋合いならある。ここは公共の場だ。
他人が不快に思うような行為は避けるべきだ。
そして、私は女が化粧を直しているのを見るのが大嫌いなんだ」
石田「私には関係ないし。私、この後すぐに合コンなんです。
化粧を直してる暇がないんです」
香田「それこそ私には関係のない話だ」
石田「だって今日の合コンの相手は全員お医者さんなのよ」
朝生「ああ、ならしょうがない」
香田「(朝生に)しょうがなくない! あんたはちょっと黙っていてくれ!
(石田に)あんた、相手は医者と言ったな? 私も医者をやっているから分かるが、
合コンに行くような若い医者など、ろくな奴じゃないぞ。二股三股は当たり前。
女を自分のアクセサリーとしか思っていないような奴らばかりだ」
石田「ご忠告どうも」
香田「さあ、分かったら化粧をやめるんだ」
石田「嫌です」
香田「何!?」
香田に近寄る、小泉
小泉「まあまあ、落ち着きましょうよ。そんなに怒らなくても」
香田「私はね、こういう自分勝手で馬鹿な女がすこぶる嫌いなんだ」
小泉「別にあんたに迷惑かかってないでしょ?
それにね、俺は結構女の人が化粧してるの見るのが好きだよ? 結構面白いもんだよ。
魔法みたいに人間の顔がどんどん化けていくんだから。
(石田を指差して)ほら見て、変わってきた変わってきた!」
石田「ちょっとやめてよ!」
石田、化粧をやめる
小泉「ほらね、こうやってやめさせればいいんですよ」
香田「なるほど。『北風と太陽』の要領だな。今度から使わせてもらうよ」
石田「ちょうど今直し終わっただけです!」
石田に近づく、濱谷と中田
中田「ねえねえ、ずっと気になってたんだけど、君すごく可愛いよね。
今夜暇? 一緒に食事でもどう?」
石田「はあ?」
濱谷「いやいや、それより僕とどう? 合コンなんかやめてさ。
(香田を指差して)この人も言ってたじゃん。若い医者にろくな奴はいないって。
それならさ、堅実に生きてる若いサラリーマンの方が良くない?」
香田「(濱谷と中田に)おい、こんなところでナンパなんかするんじゃない!」
小泉「だから落ち着いて。あなた、どうもすぐに頭に血が昇るところがあるなあ」
香田「ほっとけ! (佐藤に)おい、陪審員長。いいのか? あんなことして」
佐藤「ぼ、僕に言われましても…。一応、陪審員が陪審員をナンパしてはいけないって決まりはないので…」
中田「ほら、別にいいってさ!」
佐藤「いや、でもだからっていいと言った訳では…」
香田「どっちなんだ! はっきりしろ!」
小泉「まあまあ、落ち着いて」
香田「うるさい!」
佐藤「あ…だから…その…えっと…」
朝生「(石田に)ねえねえ、マスカラは何使ってる? 私はね―」
石田「…(スマホを見ている)」
と、北山、立ち上がって佐藤に近づく
北山「ちょっとよろしいかな」
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