13.お説教
孤児院に帰ってくると、物置の方でなにやら声が聞こえた。
「こんな大荷物すぐ見つかっちゃうぞ」
「黙って隠すの手伝いなさい。勢いでもらってきちゃったけど、これが見つかったらなにを言われるか。いいこと。今日のことはあいつには内緒にしなさいよね」
「ねー私お腹空いたよー」
3人の声だ。
やっぱり物置にいるらしい。
ごそごそとなにやら物音もする。
「ただいま。みんなそこにいるの?」
コタローが物置を覗き込む。
中には見ず知らずの男女が3人立っていた。
「どちら様?」
予想外の展開にコタローが半歩下がる。
「げ、帰ってきちゃった」
「タイミング悪いわね」
泥棒か? 身構えようとするコタロー。
そこへ黒髪の女が突進してきた。
「コタロー。結婚してー」
「けっこん? え、本当にどちら様ですか?」
あまりに無邪気に抱きついてくるので反応できなかった。
薄布一枚しか纏っていない柔らかい肌の感触にコタローが硬直する。
その瞬間。
ポンと間抜けな音を立てて黒髪の女が小さくなった。
「ありゃ。変身解けちゃった」
「シュシュミラ? どういうこと?」
目を白黒させるコタロー。
あとの二人も同じく一瞬で子どもの姿に縮む。
というかハイドラとティガだった。
「ちょっとあんた、なに抜け駆けしてんのよ。離れなさい」
「やー」
「コタロー。これは違うんだ。その……」
コタローは混乱しつつも三人の態度を観察していた。
ハイドラとシュシュミラはいつもどおり。
でもティガの後ろになにか見たことのない荷物がある。
それをティガは隠そうとしているように見えた。
「ティガ、それはなに?」
ティガの後ろを指差すとティガとハイドラが固まった。
シュシュミラは無反応だった。
「なんでもないわ。あんたには関係ないものよ」
ハイドラが早口だった。
「ねえシュシュミラ。今みんなの姿がいつもと違ったよね。君の魔法なの?」
「そうだよ。大人になる魔法の飴玉! すごいでしょ」
「ちょ、なに簡単にばらしてんだよ!」
ティガがシュシュミラの口を塞ごうとするがもう遅い。
「ティガ、君の後ろにある大荷物。僕それに見覚えがあるんだ。冒険者の道具だよね。どうしてそんなものがここにあるの?」
「なななななな、なんのことかわからないんだぜ?」
冷や汗がすごいティガ、尻尾がふりふりと落ち着きなくゆれる。
「魔法で大人になって冒険者登録してきたんだよー。試験も合格したんだ。すごいでしょ」
「あんたってやつは……」
ハイドラが肩を落とす。
冒険者? 登録してきた?
コタローは先ほどギルドで新人が来たと盛り上がっていたのを思い出し青ざめていく。
「もしかして、今日入った凄腕の新人っていうのは……」
「オ、オレたちだと思う……」
ティガが白旗を上げて背中に隠していた荷物の山を見せた。
何度か見たことがある。
冒険者初心者セットに間違いなかった。
「お……」
「「「お?」」」
「おバカーーー!」
3人を引っつかんで母屋に押し込んだ。
「それで、魔法の飴ってのはシュシュミラが作ったんだね?」
リビングに三人を正座させ、その前で腕組して確認していく。
「そう。大人になりたかったから」
シュシュミラはようやく怒られていることに気がついたようで、おとなしく正座の列に加わっていた。
「それで大人になって、そんなはしたない格好で町をふらふらしてたの?」
「仕方ないでしょ。他に着るものなかったんだから」
これは男物のシャツ一枚でふらついていたハイドラ。
「ちゃんと着てたよ」
これは少し手を上げるだけで全身丸見えになるてるてる坊主姿だったシュシュミラ。
「そんな布一枚が服なわけないでしょ!」
普段丸裸で庭を走り回っている子たちだが、それを大人の姿でやったらどうなるか。
幸い危ない目にはあっていないみたいだが、もし乱暴されたらと想像するだけで血の気が引く。
「それで、なんで大人の姿になんてなったの?」
「大人になったら結婚できるんでしょ? だから今すぐ大人になって結婚してもらおうかと思ったの!」
元気よく答えるシュシュミラ。
怒られているのがわかっているのか、いないのかよくわからない。
少なくとも悪いことだとは考えていないようだった。
むしろ魔法の飴のことや結婚する方法を調べたことなどは褒めて欲しそうな気配まである。
「結婚? 物置でも言ってたけどなんのこと?」
「絵本だよ。昨日の夜読んでくれただろ? それでオレたちコタローと結婚したくて……」
びくびくして答えるティガ。
「結婚ってのはそんな簡単に決められることじゃないんだ。君たちはまだ小さいんだからもっと大きくなってから考えればいいんだよ。というか……、ティガは僕がいいの?」
「え、だめなの? よくわかんない」
よくわかっていなかった。
コタローは一度咳払いをして話を進める。
「元々結婚するために魔法の飴で大人になったんだね。それがなんで冒険者になるなんて話になったの?」
「ボクはなりたくなかったよ。でもハイドラがやりたいって言って、そしたらティガもやるって。ボクは断ったのに無理やりやらされたんだ。ボクは悪くないよ」
「オ、オレ冒険者になるのが夢なんだ。だからギルド入るのはじめてで嬉しくて、それで……」
自分は被害者だと訴えるシュシュミラ。
もう手を伸ばしただけで泣いてしまいそうなティガ。
「ハイドラは? なんで冒険者になりたいの?」
ムスッと膨れたままこちらの目を見ようとしないハイドラ。
「別に……。あんたには関係ないでしょ」
「ハイドラ」
声色を少し落とす。
ハイドラは怯んで尖らせた口を開いた。
「欲しいアイテムがあったのよ」
それだけ搾り出すように言った。
「アイテムってモンスターのドロップアイテムのことか?」
コクリと頷くハイドラ。
「なあコタロー。オレたち冒険者やってもいいだろ。試験も合格したんだし」
おずおずとティガが口を挟んでくる。
コタローは深くため息をついた。
「だめに決まっています。冒険者なんて危ない職業絶対だめだからね。君たちはもう少し大きくなったら勉強してもっと安全で安定した仕事をしなさい。バカなことを言っている暇があったら勉強しなさい」
「なんだよ。オレが将来なにになってもオレの自由だろ」
「そうよ。あんたに指図される筋合いはないわ」
「ボク働きたくない」
「だめなものはだめ。君たちはダンジョンがどれだけ危険な場所かわかってないからそんなことが言えるんだ。とにかくあの初心者セットは明日返しに行きます。みんなで謝りにいくからね」
コタローは思わず声を荒げていた。
ティガがベソをかく。
しかしハイドラは引き下がらなかった。
「イヤ! 私は冒険者になるの。すぐ死ぬ人間のくせに! 人間風情が私に命令しないで!」
ハイドラが立ち上がり部屋を出て行ってしまう。
「ハイドラ……」
「オレ、父ちゃんと母ちゃんみたいな冒険者になるのが夢なんだ。それなのに、どうして……」
コタローはティガの頭を撫でる。
「ティガ。君のご両親は立派な冒険者だったと思うよ。でも二人はその冒険者だったから亡くなってしまったんだ。とても危険な仕事なんだよ。なにも君までその道に進むことはないじゃない。お父さんとお母さんもティガが冒険者になることは望んでいないはずだ」
「なんでそんなことわかるのさ。父ちゃんも母ちゃんもオレが冒険者になったら喜んでくれるよ」
ティガは引き下がらない。
しかしコタローもゆずる気はなかった。
「とにかくだめ。君にもしもの事があったら僕はご両親に顔向けができない」
「なんだよ。駄目駄目って。コタローはオレの気持ちがわかんないんだ」
「ティガこそ、モンスターの怖さを知らないから冒険者になりたいなんて言っていられるんだ。ハイドラにちょっと叩かれたくらいで泣く君が冒険者なんて務まるわけないだろ」
「う、オレだって、オレだって泣きたくて泣いてるわけじゃないのに」
泣き出してしまうティガ。
ティガはそのまま部屋を出て行ってしまう。
「まったく……」
「ボクは関係ないもーん。ボクは悪いことしてないでしょ? だからボクと結婚しよ?」
「今回の騒動の中心人物は君だろう。畑仕事サボったし、変な魔法使っちゃ駄目って言いつけも破ったし、冒険者になるなんて無謀なことを言い出した二人を止めなかった。シュシュミラも同罪だよ。悪い子とは結婚しません」
「えー」
「えーじゃない。君はもう少し反省しなさい。今日は一緒に寝てあげません」
「えー! それじゃボクどこで寝ればいいの?」
「ハイドラかティガの部屋で寝なさい。もう知りません」
コタローが自室に戻っていく。
シュシュミラがついてくるが無視して少し強めにドアを閉める。
ドアが何度かノックされたが全て無視してベッドに横になった。
そしてそのまま眠ってしまった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます