12.主人公はフラグを立てていくもの

3人は無事試験に合格した。

改めてダンジョンの攻略が認められたのだ。


「新人冒険者には最初に装備一式が支給されます。さらに冒険者に登録してから1年間は消耗品の支給が無料で受けられますので必要に応じて申請してください」

受付に戻ってひとしきりの説明を受ける。


武器はバトルアックスと弓がそれぞれ収められた木箱を受け取る。

箱にはこの町とギルドの名前と制作会社の刻印が焼印されていた。

今度は貸し出し用のボロではなく新品だ。


それ以外にも動きやすく通気性のよい冒険者用の衣類。

ダンジョンの内部マップ。

サバイバルキットに医療キット一式。

携帯食料まで支給された。

まさに冒険者初心者セットといったところか。

それらをバッグにまとめてもらう。


なにかがもらえるとはまったく考えていなかった3人は思いもよらないプレゼントにほくほく顔になった。

冒険者には一ミリも興味のないシュシュミラでさえにんまりと笑っていた。


「それからダンジョンは馬車で3時間ほどの場所にあります。往復の馬車はギルドで運営しておりますのでご利用ください」


至れり尽くせりだ。

馬車の無料チケットも受け取り3人はギルドを後にした。


「それでコタローはどうするんだ? もう夕方だし一度帰るか?」

木箱やら全員分の鞄やらを背負ったティガが言う。


「そうね。門限までには帰らないとだし。いったん戻りましょ。お腹空いたわ」

「もー無駄足じゃんかー」


魔法の効力も時期に切れる。仕方なく3人は帰路についた。




ギルドの奥の部屋ではコタローがお茶を飲み終わってそろそろ帰るかというころだった。


「なんじゃ? まだいたのか」


腰を浮かそうとしたタイミングでドアが開いた。

バルトリアとケイトだ。


「今ダンジョンへの入場試験をやってたんです。今度の新人さんはすごかったですよ」


興奮して話すケイト。


「ゴーレムをどかーんって一撃で倒しちゃって。弓の人も同じところに連続で当てるスゴ技で華麗でした。最後の魔法使いの人はちょっと怖かったですけど一瞬で倒しちゃいました」


身振り手振りで説明するケイトの熱気にコタローはたじろいだ。


「その人たちはあっという間にゴーレムを倒してしまったんですね。まったく苦戦する様子はなく?」


「はい? そうですね。みなさん楽勝って感じでしたよ」


「そうですか……」

コタローが少し思案顔を作る。


「なにか引っかかるかね」

バルトリアの問いにコタローはうなずいた。


「一撃であっさり倒したとなると、ただの腕力自慢なのか戦術に長けているのかわからないなと」


「違うものなんですか?」


「ダンジョンにはいろんなモンスターが生息していますから。相手を観察し最適な戦い方をその都度組み立てられないとダンジョン攻略は難しいと思います。その人たちがゴーレムの特性や弱点を見抜いて勝利したのならよいのですが、単に力比べで勝っただけではあまり意味はありません」


「手厳しいの。じゃが正論じゃな」


「彼らはすぐにでもダンジョンへもぐるのでしょうか」


「どうかの。受付の話では一人は欲しいアイテムがあるようじゃが」


「そうですか。いずれにせよ、しばらくは座学でこの町のダンジョンについて勉強したほうがいいと思います。たしか教室開いてましたよね」


「はい。講師がいますし実際にダンジョンにもぐっている冒険者からアドバイスももらえます」


それなら無茶をしなければ安心か。

少し話し込んでしまったか。

コタローは今度こそ席を立った。


「それでは私はこれで。手紙確かに預かりました」

「たまには子どもたちを連れてきておくれ。久しぶりに顔が見たいわい」

「シュシュミラがなんというかですが、わかりました。話してみます」


「いつでもいらしてください」

「ありがとうございます。お茶おいしかったです。ご馳走様でした」


コタローは裏口を通ってギルドを出た。


さてもう夕方か。

3人は仲良くやっているだろうか。

ご飯の用意はティガができるから飢えることにはなっていないだろうが。


コタローは少し考えて市場に寄ることにした。

なにかおみやげを買って帰ろう。

そう考えたのだ。


しかしチビたちにはなにが喜ばれるだろうか。

いくつか露店を眺める。

てきとうに果物でいいだろうか。


そこへ呼び止める声を聞いた。

「カザマさん?」


「あれ? ケイトさん。さっきぶりですね」

ギルドで分かれたばかりのケイトの姿があった。


「仕事上がりですか」

「はい。実はあの後すぐに定時になりまして。特に残業しないといけない案件もないので上がっちゃいました」

「それはなによりです」


ケイトはギルドの制服ではなく私服に着替えている。

ふわりと広がるスカートが素敵だ。

仕事場でしか会わない人の私服を見るのはとても新鮮な気持ちになるのだな。

コタローはこっそりそんなことを思った。


仕事終わりのオフの時間を邪魔するものではないだろう。

コタローはさっさと会話をさっさと切り上げるつもりだった。

しかしケイトの方から話を振ってくる。


「なにかお買い物でしたか?」

「ええまあ。チビたちにおみあげをと思ってぷらぷら歩いていたんです」

「まあ、それでしたら近くにおいしい焼き菓子を出しているお店があるんですよ。よければご案内いたします」


ちょうど迷っていたところだ。願ってもない。

コタローはお礼を言ってケイトに連れて行ってもらうことにした。


件の店は小さいながらも小洒落た店構えで男一人なら絶対入らないなという風だった。

扉をくぐるとカランとベルが鳴った。


ショーケースには色とりどりの焼き菓子が並べられている。

ハイドラが喜びそうだ。

キレイとかカワイイとか言いそうだなとコタローは思った。


「あの。よかったら食べていきませんか。奥にテーブル席があってお茶も飲めますし」


ケイトの申し出はありがたいがコタローは長居するつもりはなかった。


「すみません。一日院を空けてしまいましたから。今日のところはすぐに帰ろうと思います」


「あ、そうですよね。すみません私ったら」


「いえ、誘ってくださりありがとうございます。ぜひまた今後ご一緒できれば嬉しいです」

言ってコタローはひょいひょいをトレーに焼き菓子を載せていく。


「なにかおすすめってありますか?」

「あ、それでしたらこれがおいしいですよ」

それもトレーに載せて会計を済ませる。


「はい。ケイトさん。これもらってください」

さきほどすすめられたものだけ個別に袋に詰めてもらいケイトに渡した。


「あ、あの……。ありがとうございます」

不意打ちにケイトがぎこちなく袋を受け取る。


「今日はありがとうございました。それじゃあ私はこれで」


立ち去るコタロー。

ケイトは小さく手を振ってコタローの背中を見送った。

コタローには気づかれていないがケイトの頬はほのかに朱に染まっていた。


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