美人双子姉妹の姉が俺への好きオーラが半端ない!?

夜空 星龍

プロローグ

1.はぁ~。今日も素敵♡

 私立零嶺れいれい学園の校門の前に美人双子姉妹が立っていた。

 毎月二週目は挨拶運動習慣だった。

 生徒会長と生徒会副会長を務める美人双子姉妹は学校に到着した生徒を出迎えている。 

          

 黒髪ストレートヘアで小柄な方が零嶺学園の現生徒会長で姉の月乃真雪つきのまゆきで、茶髪セミロングで真雪より少し背が高いのが零嶺学園の現生徒会副会長で妹の月乃沙雪つきのさゆきである。


 性格と唇の色以外は同じの二人。

 カラメル色の大きな瞳と真っ白な肌。グラビアアイドル並みのスタイルの良さ。

 真雪は桜色の薄い唇で沙雪は赤色の薄い唇と『雪雪姉妹』はどこにいても目立ってしまうような見た目をしていた。


 真雪の方は笑顔で、沙雪の方はすまし顔で校門を通る生徒に挨拶をしていた。


「この挨拶習慣を楽しみに生きてるといっても過言ではない!」

「合法的にあの二人と挨拶を交わせるなんて最高かよ!」

「マジでいつ見ても美しいな~」


 美人双子姉妹と挨拶を交わした生徒たちは男女問わず必ず一度は立ち止まってその美しい顔を数秒眺めてから教室へと入っていく。

 誰もが自分から積極的に挨拶をする中、龍ヶ峰流りゅうがみねながれは二人に見向きもせずに横を素通りしようとしていた。


「龍ヶ峰さんおはようございます」


 そんな流に真雪は満面の笑顔を向けた。


「おはようございます」


 挨拶をされて挨拶を返さないほど人でなしでもないし、真雪のことを嫌いでもないので流はそっけない感じで真雪に挨拶を返して教室へと向かった。

 そんな流の背中を真雪はうっとりするような顔で見つめていた。


「はぁ~。今日も素敵♡」

「姉さんももの好きよね。あんな男のどこがいいのよ」

「沙雪ちゃん。いくらあなたでも龍ヶ峰さんのことを『あんな男』呼ばわりするのは怒るわよ」


 真雪は可愛らしく頬を膨らませると少し背伸びをして沙雪の鼻の頭を「めっ」とつついた。


「沙雪ちゃんは龍ヶ峰さんの魅力を知らないだけよ」

「魅力ね~。私にはまったく感じられないけど」


 どこに魅力を感じているのかと沙雪も流の背中を見つめた。


「分からないなら分からないままでいいわ。沙雪ちゃんと好きな人が被って奪い合うようなことはしたくないもの」

「その場合は私が大人しく手を引くから安心して。ま、そんなことは絶対にないけど」

「そうなの? なら安心だわ。さ、挨拶運動の続きをしましょう」


 流と挨拶を交わせて満足そうな真雪は挨拶運動を再開してすれ違う生徒に笑顔を振りまいていた。





 朝の挨拶運動を終えた沙雪は教室に戻ってきていた。流と沙雪は同じクラスだった。


「ほんと、どこがいいのかしらね」


 そう呟きながら沙雪は教室の一番後ろ窓側の自分の席で読書をしている流のことを見た。

 流と同じクラスになって二か月が経つが、流がクラスメイトと休憩時間に話しているのを沙雪は見たことがなかった。


 前髪は長いし、眼鏡をかけてるし、どこかパッとしないし、いつも無表情で何考えているか分からない。真雪は魅力を知らないだけと言ったが、沙雪にはその魅力とやらがさっぱりわ分からなかった。


 だからこそ余計に思ってしまう。

 なぜ真雪が流にあんなにも好意を寄せているのかと。

 沙雪にとってそれは初めて見る真雪だった。 

 十六年間、真雪のことをそばで見てきたがあんなにも乙女の顔になっている真雪のことを見たことがなかった。


 真雪が流に好意を抱き始めたのは去年の秋頃。

 おそらく去年の文化祭で何かがあったのだと沙雪は思っていた。その真相を確かめようにも真雪は「二人だけの秘密なの』と頑なに教えてくれない。秘密というからには流との間に何かしらがあったということなのだが、真雪が教えてくれないことには知りようもなかった。


「いや、もう一つあるわね」


 どうして今まで気が付かなかったのだろうと思った沙雪は席から立ち上がると流のもとへと向かう。

 そんな沙雪の一挙手一投足をクラスメイトは見守っていた。

 もうすぐ流の席に到着しようかとしたところで、沙雪の耳に聞き捨てならない話が入ってきた。


「なぁ、知ってるか。二組の花田のやつ。今日の放課後に生徒会長に告白するらしいぜ」

「花田っていうとあの花田か? サッカー部のエースでイケメンの」

「そうそう。その花田」


 その話が耳に入った沙雪は踵を返すと、その話をしていた二人の男子生徒の机の前に仁王立ちした。


「ねぇ、ちょっとその話詳しく聞かせてもらえるかしら?」

「え、えっと……」


 男子生徒は沙雪の気迫に押されていた。


「早く」

「は、はいっ! に、二組の花田ってやつ知ってますか?」

「知らない」

「そうですか。そいつが今日の放課後に空き教室に生徒会長を呼び出して告白をするって朝サッカー部のグループラインで言ってたんです」

「空き教室ってどこ?」

「そ、そこまでは分かりません」

「チッ。分かったわ。教えてくれてありがとう」


 沙雪は舌打ちをすると席を立った目的も忘れて自分の席に戻った。


「お昼に姉さんに聞くしかないわね」


 お昼休憩はいつも屋上で真雪と一緒にご飯を食べている沙雪。

 その時に真雪に詳しく話しを聞こうと思ったところで教室に担任の先生が教室に入ってきて朝のホームルームが始まった。

 午前の授業は真雪の告白のことが気になって沙雪は授業に集中できなかった。




 昼休憩。

 流はいつも屋上で一人ご飯を食べる。

 学校に来る前にコンビニで買った菓子パンだ。

 一人暮らしをしている流は昼食も夕食もコンビニで済ませていた。 

 一人暮らしをしてる身として料理をできないのは致命的だが仕方がない。苦手なものは苦手なのだ。できないものを頑張るくらいならその時間を流はほかのことに使いたいと思っていた。

 菓子パンの袋を開けて一口食べるとベンチに座っている美人双子姉妹の話が耳に吐いてきた。


「姉さん。放課後に告白されるよね?」

「みたいね~」

「みたいねって他人事みたいに」

「だって、付き合うつもりないし~」

「でも、律儀に断りに行くんでしょ」


 真雪がこれまでに告白をされた数は数えきれない。

 古くは幼稚園からおそらくその数は百では足りない。

 そして真雪はそのすべての告白を律儀に断っていた。それでトラブルに巻き込まれることもしばしば。そんなトラブルを収めるのはいつも沙雪の役目だった。


「付き合うつもりがないなら初めから行かなければいいのに」

「だって、かわいそうじゃない。せっかく勇気を出して私に告白をしようって思ってくれたのよ? その気持ちを蔑ろにはできないじゃない」

「それで何度危険な目に遭いそうになったのよ。殴られそうになった時だってあるのよ。私が助けに出なかったら姉さんのその綺麗な顔に傷ができてたかもしれないんだからね」


 沙雪は真雪のことを殴ろうとした男どものことを思い出し胸糞が悪くなった。 

 真雪が告白をされている時は常に沙雪がそばにいるというのが暗黙の了解だった。真雪が危なくなったらすぐに助けれるようにだ。

 何よりも真雪のことを大切に思っている沙雪は真雪に傷ついてほしくなかった。真雪が傷つくくらいなら自分が傷ついた方がマシだとすら思っている。


「そこは大丈夫よ。沙雪ちゃんのことを信頼してるから」


 沙雪に全幅の信頼を寄せていると言わんばかりに真雪は微笑んだ。

 そんな真雪の顔を見て「姉さんはズルいな~」と沙雪も微笑む。


「そんなこと言われたらその信頼に応えなきゃって思っちゃうじゃない」

「あ、でも危ない真似はしないでね? 沙雪ちゃんも私にとって大事な存在だから」


 真雪はそう言うとチラッと流のことを見た。

 流は菓子パンを食べ終えていて、寝転がって目を瞑って昼寝をしていた。


「も、っていうのが気に入らないけど、分かってる。危ないことはしない」


 口ではそう言いつつも真雪だけは絶対に守ってみせると心の中で呟いた沙雪。


「それにしてもよくこんなところで寝れるわね。体が痛くならないのかしら」

「いいな~。私も龍ヶ峰さんの隣で一緒にお昼寝したい」


 真雪は昼寝をしている流のことをうっとりした目で見つめていた。

 その隣で一緒に眠れたらどれだけ幸せなことだろう。あわよくば腕枕なんかしてもらっちゃたりして、流に腕枕をしてもらっているところを想像した真雪は「きゃ」と小さく声を上げて頬を赤く染めた。


「そんなに好きなら話しかければいいのに」

「好きだから話しかけられないのよ」

「そういうものなの?」


 沙雪は自分だったら好きになった人とはたくさん話したいと思うだろうなと思った。


「そうなのよ。だって、恥ずかしいじゃない。それにどんな話をすればいいか分からないし」


 両の手を頬にあてた真雪は体をもじもじと動かした。


「姉さんって、恋になると奥手になるわね。まぁ、今回が初恋なんでしょうから仕方ないんでしょうけどね」

「そういう沙雪だってまだ恋をしたことがないくせに。沙雪は好きな人いないの?」


 真雪はからかうような目で沙雪のことを見つめた。

 突然、そんなことを言われた沙雪は露骨に慌てだす。


「い、いないから!」

「怪しいわね~」

「本当にいないんだから!」


 少し涙目になった沙雪はそっぽを向いた。

 普段は強気な沙雪だが真雪の前ではただの妹となってしまう。

 姉にからかわれた妹は幼顔で頬を膨らませていた。


「ごめんね~。少しからかいすぎちゃったね」


 そう言いながら真雪は沙雪の頭を猫を撫でるように優しく撫でた。


「さて、龍ヶ峰さんを起こして教室に帰りましょうか」


 流を起こして教室に戻るのは真雪のルーティーンで、ひそかな楽しみだった。

 流はお昼ご飯を食べると必ずといっていいほど昼寝をするので、午後の授業に遅刻しないようにいつもこっそりと起こしている。

 真雪は流のそばに近寄ると肩をポンポンと叩いて「お昼休憩終わりますよ」と耳元で囁くと沙雪と一緒に屋上を後にした。

 二人が屋上を後にした後で流はゆっくりと目を開けた。


「毎回心臓に悪いって……」 


 真雪は流が完全に熟睡してると思っているがそうではない。まぁ、熟睡してる時もあるけど。今日に限っていえば眠りが浅かった。


「こっちの身にもなってくれ」


 そう呟きながら流は体を起こすと屋上を後にした。


☆☆☆

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