第5話 集合 - perspective B -2
トラックの向こう側から、女性の声がした。
「もう翼箱は積んじゃったのね。早いわね。」
チームメンバーの中川さんの声だった。加藤にとって中川さんは中川さんである。どうやら買い物組が到着したようだ。
荷台を回ってトラックの逆サイドを覗くと、吉田と中川、榎本が立ち話をしていた。
「もう学生チーム時代とは違うよ」
「でもアルミバンじゃないからちょっと不安ですね。大丈夫なんですか?」
「前面の木材は強くしてあるし、実験で積んでみたときも動かなかったから大丈夫だと思う。」
「無事運べたらだいぶ進歩ですね。土台ともさようなら」
榎本が会話に加わる。
「吉田さん、今日の応援なんですけど」
「うん」
「後輩の学生が二人手伝ってくれます。出発は20時ですよね。そのとき乗用車で駅によってピックアップします。それで大丈夫ですか?」
「そうだね。それで大丈夫。応援に来てくれる人は走れるのかな?あと、飛行場には慣れてるの?」
「2年生なのである程度分かると思いますが、絵里子ちゃんは撮影をお願いした方がいいと思います。」
「そうなんだ。分かった。それじゃピックアップしていつもの場所で落ち合ってから行こう。少し飛行場でもブリーフィングした方がいいかもね」
「もう搭載ほとんど終わっているみたいだから、そのほかの持ち物チェックしますね。行こ、藍ちゃん」
中川と榎本は作業場の座敷の方へ向かった。加藤はトラックを降り吉田に近づいた。
「次は何だっけ?カズさん」
「そうだな。トラックに積む他のやつを出しておくか。分かるか?」
「機体は乗せてあるから、組み立てに使うやつと風見とかかな。主翼の台は分かる。脚立とかどれ持って行くの?」
「じゃあちょっと指定する。この前、アレがあった方が楽そうだったんだ。応援で思い出したけど、後輩の西村が3人くらい連れてきてくれる。西村は前回来たから分かるよね。」
「分かるよ。結構てきぱき指示してくれて入ってくれないかなーと思う。でも西村さんもカズさんだったね。ノリさんにするかな。」
「おまえすぐあだ名つけるのな・・・」
テストフライトで使う補助器具を荷台に積みながら、加藤は今後、フライト前のウォームアップの機材を積むときはどうしようと考えている。自転車やローラー台は乗せられるだろうか。
機材の搭載が終わり、2人は座敷へ向かった。
加藤はクリートの締め直しをしていないのが気になっていた。座敷に上がる前に工具置き場に寄ってアーレンキーを取ってきた。座敷に上がるとカズさんが中川さんの前でばつの悪そうにしている。ははーん、また準備不足があったな、と加藤は思ったが特に不安は無い。この2人はいつもそうやってモノを仕上げてくる。加藤は出しっ放しのシューズを手に取り、クリートのボルトのトルクチェックをした。左足の一本だけ、キュといって少し回った。加藤は安心した。
振り返ると榎本がホームセンターのビニール袋から中身を広げている。思い出したように吉田が聞いた。
「買ってきたものって何だっけ?」
「まだまだ暑いですからね。スポーツドリンクと水と。あと熱さまシート。紙コップもあります。」
榎本が答える。
「エノッチ流石」
つい、加藤の口から言葉がでた。
「当然でしょ。うちのチームで競技会会場で倒れちゃった子がいて、もうそういうの嫌だし。あとは消耗品ですね。電池とか。」
それを聞いたとき加藤は少し複雑になった。確かに今年は暑かった。今年も競技会には行かなかった。今年も後輩は書類落ちしている。こんな感情はいまのTFには関係ないのに。加藤はシューズを少し雑に荷物に突っ込んだ。シューズ底がヘルメットとぶつかり、カツンと手応えがあった。
それから直した暫定チェックリストを使って、4人はツールと資材を並べてチェックした。中川のペンが暫定チェックリストの最後のチェックボックスを塗りつぶした。
「よし、モノの確認は終わった。箱詰めしてトランクへ格納しよう」
「ハイ」
4人は工具箱・資材箱を乗用車のトランクへ積み込んだ。外は陽が傾き夕暮れになっていた。ヒグラシの声は3年の夏、サークルから引退したときにも聞いていたと加藤は思い出していた。
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