推し活と人気投票

水曜

第1話

 私には推しがいる。

 それは、もう熱烈に推している。

 おそらくは、私以上にあのキャラを推している人間はいないのではないか。


 キャラ。

 そう、私が推しているのは現実の人間ではない。

 ゲーム好きの私は、とある人気ソシャゲにはまっていた。

 

 プレイヤーは芸能事務所の社長となり、魅力的なアイドル達とともにライブを行いナンバーワンを目指す。いわゆる育成要素のある音ゲーである。


 このゲームに出てくるキャラクター達は、皆が個性豊かで多種多様。色々な性格、様々な見た目の子達がおり、プレイヤーはお気に入りのアイドルを決めてプレイすることになる。

 つまり、推しである。


 ゲームだと言って侮ることなかれ。

 有名タイトルだけあって、自分の推しに対するプレイヤー達の熱量は尋常ではない。人気キャラクターが、新衣装で登場するガチャが出ようものなら数十億円規模の経済効果が生まれるとも言われているほどだ。


 現実でもゲームでも。

 推しを大切に思う気持ちには変わりはない。


 かく言う私も推しへの想いは誰にも負けない。

 つもりなのだが。


 残念なことが一つ。

 実は、私の推しキャラは他と比べるとイマイチ人気がなかった。


 まあ、ちょっと地味と言うか。

 いや、私はそんなところも好きなのだが。

 煌びやかで華のある他のアイドル達に対して、影が薄いというか。

 いや、私はそんなところも好きなのだが。

 絵柄も若干、今風ではなくて古臭いというか。

 いや、私はそんなところも好きなのだが。


 とにかく、プレイヤー達の間でもかなり不評な子であった。

 ゲームを運営している側としても、人気キャラクターはどんどん押し出していき。そうでもないキャラはそれなり、と言うのが人情というものであろう。

 そこはそれ。

 利益を出さないといけないのだから仕方ないのだが。

 

 他のキャラはどんどんファン用のグッズなんかも出ているのに、私の推しのアイドルは何もなし。長らくゲームのストーリーなどでも出番がなく。明らかに、いらない子扱いされている節がある。


 推しがこんな状態だと、ファンとしては非常に寂しいものがある。

 

 そんな折のこと。

 公式運営から、このゲーム内のキャラクターの人気投票を行うことが発表された。

 一位をとったキャラは、新しいヴァージョンで実装されるという。



 これはチャンスだ。

 私は自分の推しを一位にするべく、推し活を始めた。

 

 

 ネットの掲示板やSNSなど。

 とにかく自分の推しに投票してくれるように広く呼びかけた。



 分かっている。

 こんなことをしても、多分何も変わらないということは。

 逆に反発を買うことになってしまうかもしれない。

 だが、推しのために何かしたかった。


 推しを推して推して推して!

 

 推し続け。

 そして、運命の結果発表の日。



 私の推しは。

 投票で圧倒的な一位を勝ち取った。




 奇跡が起こった。

 ある意味、奇跡が起こってしまった。

 この手の人気投票では、時に不人気のキャラを一位にしようと愉快犯的に仲間を募って大量の組織票が投じられることがある。


 どうも私の熱心な推し活は、その手の活動と勘違いされてしまったらしい。



 以来、私の推しは人気投票から卒業させられるという別格の措置が取られることになった。


 

 

 


 



 

 

 


 


 


 

 


 



 

 

 

 

 

 

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推し活と人気投票 水曜 @MARUDOKA

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