5.パーティー結成

 ルークは早とちりして恥ずかしかった。だが、自分の目と足で調べて確かめたいと思っているのは本心だ。


「すまないね。ルークの話を聞く限り、失踪した生徒達はほぼ間違いなくマルディシオンで魔物になってしまっているだろう。

 この辺りでは見かけない魔物だから、国から討伐令が出されてしまうかもしれない。

 そうなる前に、一刻も早く保護をしないといけないのだ」


 校長先生は、そう言って頭を下げるので、ルークは慌てた。


「どっちにしようが、学校に結界を張りつづけてもらわないとだから、校長先生はここから動けないんだよー。

 先生も、マルディシオンを飲んじゃったルーク君とジニアス君には、共通した魔力の流れができてるのが分かったから、その情報を他の先生と共有して周囲の魔物を調べ尽くさないといけないしー」


 主任先生は口元から笑みを絶やさぬまま、申し訳無さそうに言った。


「い、いえ!いいんです。

 こっちこそなんか、すみません……」


 ルークは耳を真っ赤にして言った。


「なあ……」


 すると、今までずっと隅に座って空気になっていたバァンが遠慮がちにルークに話し掛けた。


「エテルナちゃん……て言うんだよね?」


「違う!!今までの話ちゃんと聞いてた!?」


 思わず大きな声で突っ込んだ。


「で……な、なんだよ?」


 ルークが恐る恐る尋ねる。


「旅に出るんだよな?俺も着いていっていいか?」


 それは予想外の言葉だった。

 ルークは今までのバァンとのやりとりを思い出し、苦虫を噛み潰したような顔をした。


「こ、困る!だってバァンはいつも……」


 ハッキリ文句を言おうとしたが、ついモゴモゴと濁してしまう。バァンは悲しそうな顔でうつ向いた。


「そ、そうだよな……ルークにいつも酷い事してたもんな……。

 そんな嫌な奴とパーティーなんか組みたくないよな……」


 ルークはうんうんと頷いた。バァンはルークに向き直り、両肩をガシッと掴む。


「分かった、ルークに誠心誠意きちんと謝る!だからどうか一緒に行かせてくれ!」


 土下座せんばかりの勢いで懇願してきた。


「ええ!?そ、それなら………」


「ありがとう!」


 ルークはあまりのバァンの圧につい返事をしてしまった。

 そして、謝罪の言葉を待ち構える。


「…………」


「…………」


「いや謝れよ!!」


「……え?ごめんなさい?」


 バァンはすっとんきょうな謝罪をした。どうやら目の前にいる少女がルークだと分かっていないようだった。


「バァン!ここにいる俺がルークなんだって!!

 今まで散々先生と俺が話してたじゃないか!」


「アーモチロンキイテタゼー」


 バァンの目が泳ぐ。


「どうやら話の途中で考えるのを放棄してしまったようだな……。

 バァンは座学のテストはいつも最下位だからな。

 所々耳には入っているみたいだが……」


「加えて、専門外の魔法やら何やらの話ばかりだったから尚更だよねー」


 先生二人がため息混じりに言った。


「しかし、どうしてまたそんなに着いていきたがるんだね?バァンはハッキリ言って部外者だ。休校中に故郷に帰ってゆっくりする事もできるんだぞ?」


「そ、それはその……、俺様の良いところを見せたいって言うかなんて言うか……」


 バァンはもじもじと歯切れ悪く言った。

 ルークは悪寒がした。


 しかし、同行を既に許可してしまっては仕方がない。

 元いじめ、いじめられ同士の奇妙なパーティーが完成した。


「ルーク、今から旅支度をするだろう。これを渡そう」


 そう言って校長は綺麗に畳まれた洋服を手渡した。

 広げると、それは魔法剣士科女生徒の制服だった。


「これ……!せ、先生……」


 ルークは嫌そうに制服を突き返そうとした。


「ルーク、体格が変わってしまって今までの服はしばらく着られないだろう。

 現に、今着ているズボンがブカブカじゃないか。


 それに、名門校のうちの制服を着ているというだけで、優遇してくれる人もいるかもしれないからね。

 さあ下着も、購買部の在庫から何着か譲るから、とりあえず着替えてきなさい」


「ちくしょう、今は我慢か……」


 ルークはそう呟き、着替えようとおもむろにその場で服を脱ぎ始めた為、校長が慌てて止めた。


「ル、ルーク!!今君は女の子なんだ!誰にも見られない所で着替えなさい!!」


 校長の剣幕に驚き、急いでカーテンで仕切られた隅のベッドに移動した。

 主任先生も一緒に入ってきた。何故だかちょっと楽しそうだ。


「じゃあ、下着の付け方教えるよー。まずは下から履こうかー」


「うひぃ……、股がスースーする……」


 女生徒の制服は下がズボンではなくスカートの様な膝上丈のキュロットになっている。

 校章が入ったブレザー型の鎧も合わさって、デザイン制がとても高く、この制服が目的で入学する少女もいる程だ。


 しかし、男のルークにとってそれはどうでもいい事である。


「うんうん、よく似合っているよ。

 それから、これで何着か服と下着を買っておくことだ。もちろん、女性用だぞ?」


 校長が満足気に笑った。そして、自分の財布から何枚か金貨をルークに渡した。

 ルークは目を丸くした。


「せ、先生!これ、多過ぎですよ!」


「ルーク、女の子は服にお金がかかるんだよ」


 校長は冗談ぽく言った。これから旅立つルークへの餞別も含まれているのだろう。


「先生……、ありがとうございます。絶対、元の姿に戻りますから!」


 ルークは少し目を潤ませて言った。







 ルークとバァンは、二人揃って学生寮へ向かっていた。


「じゃあバァン、準備ができたら校門に集合だぞ」


「ああ……。俺、絶対責任とるから!その……裸、みちまったし……」


 バァンが真っ赤になって目を反らした。あまりにも恥ずかしがっているので、つられてルークも赤面してしまう。


「いいよもう、忘れろよ!っていうかいい加減気付いてくれー!!」

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