幼馴染は写真を撮られたくない

そばあきな

幼馴染は写真を撮られたくない


 思い出すのは、高校生の時のことだ。


「写真を撮られるの、嫌いになりそうだ」


 自分が写った写真をくしゃくしゃに丸めながら呟く幼馴染に、僕はこう返した。


」と。


 僕は、幼馴染が写真を嫌いになる理由がなんとなく分かるからだ。



 僕の言葉に、幼馴染が不満そうな表情を向けてくる。相変わらず、この幼馴染は顔がいいと思った。



 僕の幼馴染は顔がいい。顔がいいので、昔からよく人が寄ってきていた。それが害のないただの人ならよかったのだが、大抵どこか変な奴――端的に言えば不審者やストーカーの類に、幼馴染はどうしてだか好かれやすい。

 そのため、幼馴染に付き纏う不審者やストーカーたちを、僕らは定期的に追い払うかビビらせるか警察に突き出すかしなければいけなかった。


 写真を無断で撮られるなんてのは日常茶飯事で、今に始まったことでもない。それでも今まで幼馴染から「写真が嫌い」などの発言を聞いたことはなかったので、今回回収したのがよほど嫌なものだったのだろう。


 学校帰りに立ち寄った公園で、幼馴染は手に持っていた写真を一枚一枚眺めている。

 その写真は先ほど、幼馴染のファンを自称する後輩からどうにか奪ってきたものだった。


 全て目を通したらしい幼馴染が、一度大きく息をつく。隠し撮りの写真だと予想ができる以上、さすがに一緒に見るのもはばかられたので少し離れた場所にいたが、それを合図に僕は幼馴染の元に歩いていった。


「非公式の写真ばっかりだったか?」と近くに行った幼馴染に尋ねてみる。


 僕の言葉に、幼馴染が写真をヒラヒラさせて困ったように笑った。


「びっくりするくらい隠し撮りの嵐だったよ。こんなところ、一体いつ撮ったんだって感じ」


 当事者なのにあっけらかんとしているのは、悲しいことにもう慣れてしまっているからだ。今更隠し撮りなんかで驚かないが、困りはするから注意はしなければいけない。それの過程が面倒に思えるくらい、幼馴染は顔の良さでそういう目に遭ってきた。


 そして、家に行くや盗聴器をしかけるなどと比べれば、隠し撮りなんてのはやっている本人はそこまで犯罪だと思っていない。


 だから被害者である幼馴染も、大したことない風に感じてしまっているのだろう。


「きっとソイツも、アイドルも追っかけて推し活をしている、くらいの気持ちだったんだろうな」


 僕はアイドルを追っかける趣味を持っていないが、そうしたい気持ちが分からないわけではない。ただ、それを一般人であるこの幼馴染に向けるのはどうかという話なのだ。


「そう、だから困るんだよ。悪いって自覚がない人ほど、どう言えばいいか分からなくなるからさ」


 幼馴染もそれを分かっているから、大ごとにせず僕ら二人だけでの解決にしたのだろう。

 結局は当人の考えが変わることを祈るしかないのだ。


「愛も、行き過ぎれば狂気になるってのに、ソイツも気付けたらいいんだけどな」

「本当にね。適度な距離でずっといてくれたら幸せなのにね」

 

 僕の顔を一度見た幼馴染は、前に向き直ってから、丸めた写真を遠くのゴミ箱に向かって投げる。

 

 その後輩にとって推し活の証の一つであっただろうそれは、綺麗な円を描いてゴミ箱に吸い込まれていった。


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