神奈川編 第2話 都会

神奈川県庁 屋上

 「横浜は相変わらず賑わっているなー。いやむしろ以前よりも発展してるな」

そんな独り言を言いながら俺の同期の松崎はタバコを咥えている。俺も箱を開けようとする時、松崎の顔が視界に入ってしまった。

その顔はやはり午後3時過ぎたあってか目が死んでいる。まぁ、そうだろうな。こいつは俺と違って事務仕事が圧倒的に多い。しかも、責任を伴う仕事もあってか失敗も許されなかった。あいつが前言っていたが、うちの部署の1人がデータ情報が異なっていたことが理由でクビになった奴もいるほどだ。勿論、こんな世界に労働組合なんてものも存在しない。国に絶対服従。それが絶対なのだ。

自分1人で勝手に考え込んでいたら、突然肩を強く叩かれた。驚いた私は隣を見ると呆れた顔で松崎が俺の顔を見ている。


「お前は本当に昔から変わらねーな。浜田。いっつもつまんねー顔しやがって」


「うるせぇ。お前にだけは言われたくないわ」


「そんなお前にお得な情報があるんだ。この後暇か?」


「またキャバクラかよ。勘弁してくれ。金がないんだ」


「何言っているんだ。この神奈川にとって権力者の1人で世界最強の海軍司令官 浜田傑

に金がないわけないよなー?」


「さっきのは訂正。時間がないの間違いだった」


「お前、今日残業ないのは知っているんだよ。しかも趣味の少ないお前にとって時間は有り余る筈だろ?」


「、、、、連れて行くなら他のやつにしてくれ」


「よし、なら決定だな。夕方正面玄関に待ってろよ」

そう言うと先程の疲れが吹っ飛んだかのようにあいつは階段を降りていった。

あいつの情報には恐ろしいなと思いながら余った時間で屋上で横浜の街を眺めている。


神奈川県庁 正面玄関

 夕陽が俺たちをライトアップしていて、鬱陶しくて帰ろうかた思っていた時に何者かが猛ダッシュして来た。周りの視線を何とも思っていないようでそのまま目の前で急停止する。


「すまん、すまん。ちぃっと残業が長くなったな」

そんなほざいたことを言うものだったからあえてその本意を言ってやった。


「やかましいわ。ただ休憩が長過ぎただけだろ。そのせいで仕事が溜まった。それだけやろ」


そう言うとあいつは黙り込んでいた。そしてこれ以上まずいと思ったのか


「な、、なぁ。今日は繁華街まで歩いていかないか」


「珍しいな。何かあったのか」


「いや、それが今日ピンチで、、、、」


「今の内に言っておく。貸さないぞ。」


そして2人で繁華街まで歩くことにした。車のガス音に学生のうるさい会話、目がチカチカする広告表示、いかにも都会のど真ん中という感じだ。


「本当に平和だな。松崎」


「いきなりどうしたんだ。お前から話しかけてくるなんて珍しいな」


「いや、ただただ皆んな"こんな状況"を理解しているのかなと」


そうすると急に真面目な顔で話し始めた。


「お前の気持ち分かるぞ。確かに一部はニュースすら見ていない人も多いから今の事を知らない人も多い。だが、それでいいじゃないか神奈川が安定している証拠だ」


「だが、隣は、、、、、、、」


「あぁ、23区はかつての大都会の面影はないらしい。今では子供を1人で歩かせてはならないのが常識。更に東京の奴らは夜で歩かないらしい」


「何故」


「今、抗争が激しさを増しているから人殺しなんて当たり前だ。だからそれを見たやつも消されてしまうみたいな噂が後を絶たないらしい」

そして松崎は皮肉混じりに

「今が当たり前じゃないと思う奴らはごく一部の人達だけだからな」


「って、何真面目な話をしてるんだ浜田。仕事の話を何で今する話だよ。これから楽しむのに台無しじゃねーか」


「すまん、つい思っただけだ」


そんなこんなの内に人通りが多くなって来た。それと同時に中華の美味しそうな匂いも漂ってくる。それを追うように歩くとでかい門が見えた。そこにはでかい文字で"横浜中華街"と書かれている。


そして、そのまま人混みの中に入っていった。

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