第27話 君と会ったときから……

 あの日――。

 ボクはバスの中で偶然出会った少年を見て「まさか」と思った。

 過去にボクのことを救ってくれた人と、どこか面影が似ていた。優しくて、暖かい瞳。

 そんな彼と、学校の中で再び出会った。


 そして――、


「ボクの姫に、なってください――」


 思わずボクの口からその言葉が出てしまった。

 日向くんにそそのかされたような気もするけど、ボク自身も姫がいないと不安だったし、なりふり構っていられなかったところはある。勿論、転校してきたばかりの人に頼むのもどうかと思ったけど……。


 でも、彼は引き受けてくれた。

 セーラー服を着た姿を見たとき、ボクは思わずときめいてしまった。

 涼さんがもし女子生徒の制服だったら、きっとこんな感じだったのだろう。なんて考えてみたりもした。


 歓迎会のとき、彼が涼さんの弟さんだということがきちんと判明した。

 だけど、そこで聞いた哀しい事実――。

 涼さんは、半年前に亡くなってしまった。

 ボクは泣いた。布団の中で、何度も何度も……。


 翌日、ボクは再び酔っぱらってしまった。この体質は本当になんとかならないかと幼い頃からずっと思っている。

 そのときに彼はずっと付き添ってくれた。それだけでも嬉しいのに、ボクと涼さんとの話も聞いてくれた。 

 そして、こう言ってくれた――。


「さっき姉さんに恩を返したいって言っていたけどさ……、僕は君と出会ってからずっと恩を感じている。本当に数え切れないくらい。いや、その……、僕じゃ姉さんの代わりにはなれないかもしれないけど、姉さんもきっと、君のその姿を見て喜んでくれてると思う」


「うん、きっと姉さんも喜んでくれてる。そして僕も……、こうして君に会えて良かった!」


 その言葉を聞いたときから、ボクは雪くんのことを異様に意識するようになった。

 涼さんとの面影を重ねていたからだと思ったけど、そうじゃない。


 それから、雪くんと同じクラスになり、そして彼のお父さんが寮にやってきて、説得するために劇をやって……。

 こうして約束していたお花見まで出来た。


 まだ彼と会って一週間しか経っていないのに、既に数え切れないほどの思い出が出来上がっていく。

 そして、その中でボクは雪くんへの思いがどんどん強くなっていく。


 可愛くて、優しい顔――。そして、いつもボクのことを気に掛けてくれている。


 もしあのジンクスが本当だったとしても、ボクはきっと乗り越えて見せる。


 ボクは胸を抑えて、彼への気持ちをはっきりさせた。



「雪くん――、ボクは、君のことが」

 もう一度、胸を抑えた。


「君のことが、好きだよ……」

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