人を救い、救われて
荒川馳夫
救うべきか、否か。
「うーむ、今日は〇〇さんの返済期限だな」
私は金貸しをやって生活している。父が小さな町で店をかまえ、それを継いだ。
町を歩いていると私への憎悪の目を向けられたり、陰口を耳にすることがたびたびあったが特に気にしてはいない。
私自身に対する対応、というわけではないからだ。金貸しという仕事が憎まれているのだ。
「別にあくどいことはしてないんだがね……」
この独り言は知らぬ間に私の口から出ている。もはや、口癖と言ってもよい。
暴利をむさぼったり、貸した人を下に見るようなことはしていない。そんなことをしている同業者が知り合いにいるが、同じだとは思わないでほしい。
卑しい仕事かもしれないが、自分は誇りをもって続けてきたのだ。少しは周囲に理解してもらいたいと願ってはいるが、おそらくムダだろう。
「仕事にも貴賤がつきものさ。仕事内容で勝手に人間性を判断されちまう……」
またブツブツ言っていると、扉が開く音がした。お客さんだ。
「すいません。お金を貸していただきたいのですが」
私は貸す相手を見定めるように心がけている。貸した金が返ってこないのは困るからだが、もう一つの理由がある。こちらの方がより重要だと思っている。
それは相手が貸し手にふさわしいかどうか。
(ふむ。物乞いのような服装だ。しかし、貧しさがにじみでている感じはしない。服装と雰囲気が一致しないのは不自然だよな。どういうことだ?)
私は心のなかであれこれ推測しながら、相手に応じることにした。
貸すか、貸さないかは私次第なのだから。
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