第一章 突然の訪問者と怒濤の幕開け③
十七歳の秋。グレゴールにある
エドゥアルトはジュリアに
だが、自分がアルテマリス国王の弟だと打ち明けることはできなかった。気軽に明かしていい身分ではないし、正体を明かすことで彼女との間に
そこでシアランの
けれど、幸せな日々はある日突然ひきさかれた。ジュリアとの交際が母の知るところとなってしまったのだ。
そのころのエドゥアルトはすでにベルンハルト公の
そんなときに
ジュリアと別れ、自分が選んだ相手と
「……殺す……?」
ミレーユはごくりと
「母は先王
実際、ジュリアの家を調べて
ミレーユは、一見何の悩みもなく育ったような
「えと……元気だして──」
「あのときほど、自分の生まれを
なぐさめようとしたとたん、エドゥアルトはいきなり天を
「彼女を守るためだと自分にいいきかせて別れを告げたとき、私はようやく自分の
「ちょ、ちょっと落ち着きなさいよ、おじさ……パパ! 別に責めたりなんかしないから、続きを話してよ」
娘にしかりつけられ、
「……結婚はしたけれど、妻はまもなく病死してね。新たに妻を
別れてから六年後のことだった。
パン屋の店先をこっそりのぞいたエドゥアルトは
もしや彼女も結婚して子を産んだのかと思うといてもたってもいられず、彼は
その後ジュリアと会ったエドゥアルトは
エドゥアルトは、彼女と子どもたちを二度と手放したくないという一心で、跡継ぎがないと家がお取り
事の
(……えーと……)
ミレーユはこんがらかる糸を頭の中で
「つまり……、養子にいったはずのフレッドは、実は死んでなかったパパに引き取られてて、あたしだけがその一切を知らなかったと。そういうこと?」
なんであたしだけ仲間はずれなの? という思いで
「あっ、もちろん、きみのこともすぐに引き取るつもりだったんだよ!? なんとかジュリアに許してもらおうと贈り物を続けたんだけど、返事もくれないし、きみに会わせてもくれないし……。やっぱり許してはもらえないのだろうか。私が愛しているのは昔も今もジュリアだけなのに、何度そう求愛しても信じてくれないんだ。ねえミレーユ、どう思う? 私はもう完全にふられてしまったのだろうか……ううぅっ……」
そういえば、フレッドは里帰りのたびに大量の
それにしてもこの泣きっぷり、うじうじっぷりはどうも聞き覚えがある。
「全然関係ないんだけど、もしかしてあたしが寝てるとき、耳元でぐすぐす泣いてなかった?」
思い返して
「いつ目が
「……いや、じゅうぶん熱かったわよ。あの抱擁」
思い出してげっそりしながらミレーユは答える。そしてひとつ息をついた。
「事情はわかったわ。いえ、ほんとはあんまりわかってないけど、わかったことにする」
あまりに突然すぎていまいち現実感はないものの、すでにこの紳士の話を受け入れている自分がいる。この人が父親だったのだと、そのことだけはふしぎにすんなり心の中に落ちてきたのだ。
「でもなんであんな強引に連れてくる必要があったのよ。まさか、あたしに会いたいがためにママの
「大変なことがおこってね……。
「別にもういいわ。それより、何があったのよ」
「実は……フレッドのことなんだが」
「あの子がどうかしたの?」
そういえば、なぜフレッドは姿を見せないのだろう。
今さらのように
「
「え、なに。読んでもいいの?」
『お父上ならびにベルンハルト公爵家別邸の皆々様方へ
ぼくは気づいてしまったのです。彼女が
「しょげてる
これまでの
フレデリックより 』
(なに────!?)
悪い予感は見事にあたった。
「こっ、これってつまり、いわゆる、かっ、か、かけ」
「
「そう、それ!」
口をはさんだリヒャルトにびしっと指をつきつけ、一転して頭をかかえる。
「ちょっと待って、まってまってまってッ。──フレッドが駆け落ち?
「声の高さは関係ないのでは……」
「あたしのせい? あたしが
取り乱すミレーユに、リヒャルトが
「アルフレート
「な、なんでそんな方がフレッドの書き置きに出てくるの」
「それはですね、彼の駆け落ち相手が殿下の
「…………。は?」
「つまりフレッドは、いずれ王太子妃になる予定の令嬢を連れて
──くらっと視界がゆれた。
「ああっ、ミレーユ!」
あわてふためいた声がふってくる。
「かわいそうに、こんなに蒼ざめて! リヒャルト、私の娘をいじめるのはやめたまえ!」
これっぽっちもいじめた覚えなどないリヒャルトは、
「エドゥアルト様、しっかりなさってください。この件が
「え」
「ええっ!」
エドゥアルトは一瞬ぽかんとし、彼に支えられていたミレーユは顔面蒼白になった。
「そんな、どうしよう! あ、あたしいったい、どどどどうしたらっっ」
兄の恋する相手が王太子の婚約者だなんてもちろん知らなかったし、
「落ち着きなさいミレーユ。そんなに
つられたのか急に
「事はまだ
「……ごまかす?」
リヒャルトは大まじめにうなずく。
「フレッドたちの
「で、でも、見つからなかったらどうするの?──まさかっ、あたしが代わりに王太子さまのお妃に!?」
「なにを言う、そんなことはこの私が絶対にさせるものか! 大事な娘をあの王太子の妃にだなんてっ」
「でも身代わりは必要なんですよ。この一件が無事に落着するまでは」
「身代わり……?」
「そう。あなたは身代わりになるんです。ベルンハルト伯爵フレデリックのね」
身代わり伯爵の冒険 清家未森/角川ビーンズ文庫 @beans
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