第52話

フィリスが森へ行くと、モンスターも動物も沢山いた。だいたいのモンスターは人を襲うが、動物は大型でない限り人からは逃げる習性を持っている。フィリスはこのままだと生態系がおかしくなりそうなので、なるべく巨大なモンスターから狩ることにした。駐屯騎士は全員で50人程、その食料を賄うにはジャイアントコング2頭が一日のノルマだった。そしてジャイアントコングは血の匂いに釣られてやって来るので、近くにいたウサギを殺してその場に血溜まりを作る。勿論、ウサギは美味しく調理して食べた。と、ジャイアントコングが7頭やってくる。フィリスはその内の2頭にコルトパイソンとデザートイーグルを召喚して頭を狙撃、見事に撃ち倒す。残りは銃声に驚いて逃げていったので、魔石を速やかに回収し、血抜きを済ませて砦に戻る。先日買った穀物や野菜はあるので、その日はカレーを作ることにした。香辛料は森に山ほど生えていたので、スパイスには事欠かない。ジャイアントコングの肉と野菜を炒めて水とスパイスを入れ、コトコト煮込んでカレーが出来上がる。その匂いに釣られて先輩騎士も集まってくる。50人があっという間にカレーを食する様は中々圧巻だった。


「フィリス、お前の料理、マジで美味いわ。」


「本当、本当。前の下っ端は一日で辞めちまったしな。」


「なんで辞めたんですか?」


「…ここだけの話で頼むぜ?」


「はい。」


「あの隊長、自分の気に入らない人間に無茶苦茶言うんだよ。で、その命令に反発すると、更にねちっこくやってくるし、それを手助けしたら手助けした奴までやられちまう。」


「…何でそんな人間が隊長に?」


「左遷されたんだよ。誰も好き好んであんな奴に従うもんか。それなりに昔は優秀だったらしいけど、部下の扱いが下手くそなんだよなぁ…」


「何をベラベラ喋ってる?」


そこには隊長がいた。


「さっさと持ち場に戻れ!」


「はっ、はい!」


そういって話してくれていた先輩騎士達は去って行った。


「フィリス、お前も仕事をしろ!」


「解りました。」


そういってフィリスは後かたづけをする。その背中を見て、隊長は、


「ふん…気に入らん。」


と、一人愚痴っていた。



それからも隊長の嫌がらせのような仕事が続く。やれ書類の整理だ、やれ砦の壁の塗り替えだと、フィリスに難癖着けたいのか毎日仕事を押し付ける。しかし、マティーナからもっと色々やらされていたフィリスにとっては余裕で出来る内容ばかりで、周りからも隊長の無能さがよく解る状態だった。そのうち、どんどん人望が無くなっていく隊長に対して、フィリスは沢山の仲間を得た。今ではフィリスの仕事を率先して手伝ってくれる騎士達の方が多いのだ。砦の警護について2ヶ月、今は砦の扉の修繕と強化をしているところだった。


「フィリス、これでいいのか?」


「フィリス、材料は足りるのか?」


「フィリス、今日の晩飯はなんだ?」


「そこの板で補強して下さい。材料的には鉄鉱石が足りないですね。行商人に頼んでますから、明日には届きます。今日の晩御飯はグランポークの角煮と茸のサラダです。」


テキパキ動いて指示を出すフィリス。その様子はどっちが上か解らないが、フィリスは常に敬語で喋るので、先輩騎士達も悪い気はしない。そこへ隊長がやってくる。


「おいフィリス、俺の下着は何処だ?」


「洗濯場に綺麗にして置いていますよ。先程まで会議をされていたので部屋に入れなかったので。」


「ふん…」


そういって隊長は下がっていった。


「相変わらず無能なおっさんだな。」


「まあ、そう言わずに。何か考えがあるんですよ。」


「そのポジティブなところ、あの隊長にも分けてやれよ。」


「無理です。」


そういって皆で笑い合う。と、そこへ四龍とミロがやって来る。


「フィリス様ァ!」


「…お久しぶりです!」


「会いたかったです!」


「お身体は大丈夫ですか?」


「パパ、抱っこ!」


それぞれが思い思いの言葉をフィリスにかける。フィリスはミロを抱っこして、


「やぁ皆、元気だったかい?」


「はい!」


「…色々大変です。」


「ミロちゃん凄く食べるから、食費が凄いんですよ。」


「貴方達もでしょう、全く…」


「パパ、お仕事忙しいの?」


「うん…御免よ、休みが無くて…」


「ううん、仕方ないよ。ミロ達も今から仕事なの!」


「フレデリック王国へ?」


「そうなんですよ。」


「…フレデリック王国の復興の手伝いです。」


「実際には、モンスターが襲撃してるらしいので、その救援です。」


「飛んで行くつもりなのですが、流石にフィリス様にお会いしたかったので、歩いて来たのです。」


「そうだったのか。」


「フィリス、この美人達は?」


先輩騎士達は興味津々で聞いてくる。


「フィリス様がお世話になっています。」


「…私達は。」


「フィリス様の妻です。」


「違うでしょう。」


「ミロは娘なの!」


「…フィリス、お前、結婚してたのか!?」


「いや、妻でも愛人でも無くて…」


「私達はフィリス様に仕える者、それだけですわ。」


ニコリと笑ってランファが言う。


「畜生、フィリスばっかりずるいぞ!」


「こんな美人ばっかり集めて…!」


「確かに美人ですが、皆さんが思っているような関係ではありませんよ。」


やれやれという仕草をして、フィリスがそういう。と、そこでミロが首を傾げて、


「お姉ちゃん達良いの?遅れちゃうよ?」


「そうでした!今日中に着かなきゃならないんだった!」


「…そう言えば…」


「フィリス様、もう少し話したかったですが…」


「私達は出発しなければなりません。」


「大丈夫、気を付けて行ってきてくれ。」


「ではこれを…」


そういってランファが書状をフィリスに見せる。そこには通行の許可をすると記載されていた。


「確かに確認しました。」


「では、失礼します。」


「あっ、ランファ。」


「はい、フィリス様?」


「これを…」


そういってフィリスは収納魔法をかけた袋をランファに渡した。


「中に魔石が沢山入っている。なるべく早く換金しておいてくれ。」


「解りました。換金したらお届けに…」


「いや、皆で使ってくれ。」


「…解りました。」


そうして5人はフレデリック王国へ向かった。


「彼女達、ランクは?」


「…?」


「冒険者ランク…知らないのか?」


「あぁ…済みません、知りません。」


「そっか…しかし美人だった。」


「そうですか。」


ふふっとフィリスは笑う。5人が褒められたことが自分のことのように嬉しかったのだ。そしてフィリス達は頑張ってその日のうちに修理を終えた。その様子を2階から覗いていた隊長は、


「ふん…あの女どもはフィリスの知り合いか…ならば…」


と、何やら呟いていた。



数日後、フィリスが真面目に砦の警備をしていると、ミロ達がフレデリック王国から戻ってきた。


「フィリス様、戻ってきました!」


「…疲れました。」


「もう大変でしたよ。」


「まさかオーガが100体もくるなんて思っていませんでした。」


「お疲れ様、無事で何よりだ。」


「パパ、大丈夫?」


ミロがフィリスの心配をする。


「うん。私は大丈夫だよ。」


「ミロもね、大丈夫!お姉ちゃん達が一緒だから!」


「そうだな。」


そう話をしていると、隊長が4人の取り巻きを連れてやって来た。


「待て、そこの女共。」


「何か御用ですか?」


ランファが代表して隊長に話しかける。


「お前達、どこから来た?」


「フレデリック王国に仕事で行って、今から砂漠の街に帰るところです。」


「…ふん、怪しいな。証明する物を出せ。」


そう言われてランファは書状を隊長に渡す。それを読んで隊長は、


「ふん、この書状、偽物だな。」


「は?」


「マディソン・ガデル陛下の印がない。にもかかわらずここを通したのは…フィリス、お前か?」


「書状に陛下の印が無い?元々必要ないでしょう?それは冒険者ギルドの…」


「黙れフィリス!口答えを誰が許した?」


「…申し訳ありません。」


「兎に角違法だ。お前も厳罰に処さねばならんな、フィリス。」


そう言うと、隊長は4人の部下に指示を出して、フィリスを連れて行こうとする。が、


「待ちなさいよ!」


エンレンが止める。


「…私達は違法はしていない。」


物静かなスイレンがイライラしながら言った。


「なんだと?この砦の最上級者である俺がそう言っているのだぞ?」


勝ち誇った笑みで隊長が言う。しかし、


「じゃあこの砦を通れる人の条件は?」


ライファが隊長に尋ねる。


「教えてやろう、ガデル王国、もしくはフレデリック王国の国王の印のある書状の所持者、または…特例としてAランク以上の冒険者が在籍しているギルド、及び行商ギルドの行商人だ。」


それを聞いて、フィリスを連れて行こうとしている4人がクックックッと笑っている。


「なんだ、なら問題無いじゃないですか。」


ランファはそう言うと、胸元から真っ赤なペンダントを取り出して隊長に突きつける。エンレン、スイレン、ライファも同じようにペンダントを取り出す。


「そっ、それは!?」


赤いペンダント、それはAランクの冒険者の証である。


「私達はAランク冒険者、そしてギルド名はエレメントドラゴンです。まあ最近上がったので知らない人は知らないですがね。」


ランファがそう説明する。


「確かAランク以上の冒険者が在籍しているギルドは通すんですよね?なら、フィリス様が行った事は違法では無いのです。」


エンレンがそう言う。


「…まあ、貴方がこういう事をしてくるのは解っていましたけどね。」


スイレンが胸を張って自信満々に言う。


「こういう事があったこと、ガデル王国の城に、ギルドから連絡を入れて貰います。」


ライファがそう告げると、隊長は苦虫をかみつぶしたような顔をした。


「解ったらフィリス様を離しなさい!不敬ですよ!」


ランファが珍しく語気を高めて言った。その声に驚いて4人は逃げていった。その後を追うように、隊長も逃げていった。


「パパ、大丈夫なの?」


「あぁ。でも驚いたな。皆がAランクだったなんて…」


「まあ上がったのは昨日なんですけどね。」


エンレンが舌を出しながらそう言う。


「…オーガ100体の報酬の一部。」


スイレンが溜め息をつきながら言った。


「お陰でもう少しで帰れなくなるところだったのですよ。」


「フレデリック王国のギルドが私達を囲いたがって…」


ライファとランファがやれやれとそういう。


「面倒だから5人で逃げてきたの。砂漠の街でも報酬は出るから!」


「そうだったのか…まあ、あの隊長の考えていることは解ってる。」


ふぅ…と息を吐いてフィリスが語る。


「恐らく皆を自分の好きなようにしようと企んだんだろうな。危うく強姦でもされていたかもしれない…」


「うわぁ…」


「…最低。」


「気持ち悪い奴ですね。」


「フィリス様を人質にされたら、そうなるしか無かったかと思うと…ゾッとします。」


「パパ、もう辞めちゃえば?」


ミロがそう言う。


「私達と一緒に冒険者やろう?」


「ミロはまだ冒険者じゃないだろう?それに、カーマインさん達に迷惑がかかる。だからもう暫く続けるよ。」


「そっか…うん、わかった!」


「ではフィリス様、私達は帰ります。」


「…気を付けて下さい。」


「何かあったら呼んで下さい。」


「それでは失礼します。」


「パパ、またね!」


そういって5人は砂漠の街に戻っていった。



それからも隊長のフィリスいびりは続いた。それでもフィリスはそれに耐え続け、その度に他の先輩騎士の信頼も勝ち取っていった。




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