第4話

ガデル王国はこの世界における歴史の中でも長く続いている王国である。建国されて300年は経っているし、情勢も悪くない。と言うのも、国王は平和主義でありながらも武芸を重視する人柄であり、国民達もそんな国王についていこうと考えているからだ。昔は隣国との戦争もあったが、ここ100年余りは争いもなく、平和が続いていた。そんなガデル王国の城下町の中、大きな屋敷が建っていた。その門の前でカーマイン達は止まった。そしてフィリスに向かって言う。


「ここが今日から君の家だ。」


「立派な家ですね。」


はぁ…と、フィリスは溜息をついた。元々小さな村で暮らしていたので、そんなに大きな家を見たことが無かったからである。それに、町の様子をみて驚いていた上にここが家だと言われたのだ。圧倒されてもムリは無かった。


「フィリス兄さん、行きましょう。」


「こっちですよ。」


コールとネーナに引っ張られて、家の中へと入っていく。すると、メイドの1人が出迎えてくれた。


「あら?コール様、ネーナ様。それにカーマイン様。お早いお帰りですね?」


「リースさん、ただいま!」


「リースさん、ただいまです。」


「リース、今戻った。変わりは無かったか?」


それぞれがリースと呼ばれたメイドと挨拶を交わす。そして、リースは1人の男性が立っていることに改めて気付いた。


「カーマイン様、そちらの方は?」


「うむ、では全員を呼んでくれるか?」


「はい。奥様も呼んで参りましょう。」


そう言うと一礼してそそくさと行ってしまった。リースが奥へ行って一分後、屋敷の執事、メイドが集まってきた。その数5人。そして、二階から先程のリースと、1人の貴婦人が降りてきた。


「あなた、コール、ネーナ、お帰りなさい。」


「母上、ただいま戻りました。」


「お母様、ただいまです!」


コールとネーナがその貴婦人に抱きついた。どうやら母親の様だった。


「あなた、そちらの方が…?」


「うむ、以前から話していたフィリスだ。」


「そう。初めまして、フィリス。私はマチルダ。カーマインの妻で、コールとネーナの母、そして今日から貴方の養母となる者です。」


「フィリスと申します。初めまして。」


「あらあら?他人行儀ですね。もっと自然に甘えて下さいな。」


「マチルダ、彼は元々こんな喋り方なのだよ。」


「そうでしたか。御両親にしっかりと育てられたのですね。」


「僅か5歳で両親を亡くしていますので、余り解りません。」


「…失礼しました。カーマインからその話は聞いておりましたが。取り敢えず長旅で疲れたでしょう?ゆっくりとお休みなさい。」


「有難う御座います。」


フィリスはマチルダに礼を述べた。マチルダはコールとネーナを連れて、奥へと下がって行く。残された執事、メイドとフィリスとカーマインはそれを見送ると、カーマインが口を開いた。


「さて、取り敢えずフィリスは風呂へ入ってきなさい。バン、風呂は沸いているな?」


「旦那様、勿論です。」


「リース、彼の服を頼む。」


「畏まりました。」


「カーマインさん、風呂とは?」


「水浴びを温かいお湯ですることだ。ゆっくりしてくると良い。」


そう告げて、カーマインは自身の部屋へと戻っていった。困惑しているフィリスに、バンと呼ばれた執事が声をかける。


「フィリス様、こちらへ。」


「はい。」


言われるがまま、フィリスはバンについていった。



フィリスには大きな部屋があてがわれていた。しかし現在、最低限の物しか存在していない。近いうちに買いそろえると言われたが、必要ないとフィリスは突っぱねた。今は夕食が終わり、部屋の中でゆっくりとしていた。と、フィリスがベッドでウトウトし始めた頃、ドアがトントンと叩かれた。


「はい?」


フィリスが返事をするが、入ってこない。フィリスは首を傾げてドアへと向かうと、寝間着姿のコールとネーナが立っていた。


「どうかしたの?」


フィリスがそう尋ねるが、2人ともモジモジしていて、話そうとしない。そこでフィリスは2人が枕を抱えていることに気が付いた。


「もしかして、一緒に寝たいのかい?」


そうフィリスが2人に尋ねると、2人とも頷いた。フィリスは溜息をついて、


「子守唄は歌えないけど、それでも良かったら…」


そう告げると、2人とも笑顔になった。3人で部屋に入りフィリスを真ん中に、3人で寝転がる。


「フィリス兄さん、兄さんの事を教えて貰いたいのです。」


「聞いてどうするんだい?」


「私達、知り合ってまだ数時間しか一緒に居ません。少しでも早くわかり合いたいのです。」


「そうか解ったよ。でも、2人のことも教えて欲しいな。」


「勿論です!」


「ですです!」


「じゃあ物心ついたときから話すよ…」


そうして、夜は更けていった。


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