魔弾転生

藤本敏之

プロローグ

「済みません、こちらの不注意で貴方は死んでしまいました。」


いきなりそう言われて、男は困惑した。


「本当に申し訳ございません。」


「いや…死んだことは別に良いんだが。それに痛みも感じなかったしな。」


「…そうですか?」


「大体、私はもう80歳を越えていたし、そろそろお迎えが来ると思っていたから…」


「いえ、貴方は本当は100歳までは余裕で生きる予定の方だったのです。」


「いや、体もまともに動かない状態では、死んでいたのと変わらない。死んで良かったのですよ。…家族もいませんでしたから。」


「そうですね。確かに家族はいませんでしたが、どうしてなのですか?結婚しようとか考えなかったのですか?」


「…ずっと男社会の自衛隊にいましたから。出会いもありませんでした。」


「…済みません。」


「貴女が謝る事では無いでしょう?」


「いえ…私のせいでもあるんですよ。」


「?」


「私は運命の女神です。」


「神様でしたか。失礼な言葉遣い、お許し下さい。」


「充分誠意のある言葉遣いをされていますよ。気にしないで下さい。」


「そうですか?」


「こほん。それでですね、貴方には別の世界へ行って貰おうと思っています。」


「…はい?」


「まあ、転生していただく、と言うことです。」


「転生…?私がですか?」


「はい。元々転生していただく為に。ここへ呼んだのです。」


「あのぅ…転生とはどういう事でしょうか?」


「元いた世界ではなく、別の世界へ行って、そこで暮らして貰うと言うことですよ?」


「…その場合、私はどうなるのでしょうか?」


「ある年齢に達したとき、急に貴方の記憶が戻り、その後は好きなように生きて下さって構いません。」


「…どういった世界なのでしょうか?」


「貴方は魔法を知っていますか?」


「…聞いた事ぐらいは…非現実的なものだと。」


「そうですね。確かに貴方の世界には無かったものですが…」


そう言うと、運命の女神は、人差し指を立てて、その指先に炎を灯した。


「こういう風になにも無いところから炎を出せたりします。まあ元々貴方がいた世界とは全然違う事がいっぱいある世界ですよ?」


「うーん…」


「行ってみたいと思いませんか?」


「解りました、行きます。」


「…へ?」


「ですから行きますよ、その世界へ。」


「もう少し考えるとか言われるのじゃないかと思っていました。」


「運命の女神様からのお達しなのです。従うべきでしょう。」


「…貴方はいい人ですね。少し待っていて下さい。」


そういって、女神は姿を消して、暫くしてからまた現れた。


「貴方の素質を今一度確認します。この水晶に手をかざして下さい。」


「こうですか?」


そういうと、男は水晶に手をかざす。すると、水晶が光り輝き、中に数字が“3“と写し出された。


「これは…凄いです。」


「3が凄いというのは?」


「普通は1なのです。これは奇跡の水晶というもので、ある程度の望みを叶えてくれるものなのです。」


「つまり、私の望みが叶えて頂けると?」


「そうです。3つまでですが。さあ、望みを言って下さい。」


「うーん…そう言えば、その世界は危険なのですか?」


「そうですね。貴方のいた世界よりも危険です。魔物、モンスターなど、沢山います。」


「では一つ目の願いは武器を…出来れば様々な事が出来る…銃が欲しいです。」


「具体的には?」


「魔法を撃ち出せたり、弾切れにならないなどの条件があれば…」


「そうですねぇ…貴方の魔力によって、撃ち出せる弾を変更したり、貴方の望む形に変化したりすると言うことですか?」


「そうです。」


「解りました、やってみましょう。」


そういうと、女神は男の額に自身の額をくっつけて祈った。男の体が光り、どうやら願いは叶えられたようだ。


「後2つですね。」


水晶の数字は“2“になっていた。


「うーん…では、不老の体が欲しいです。」


「不老の体?」


「老いとはキツいものだと感じまして。出来れば老いる事の無い体が欲しいのですが?」


「…不老不死ではなく?」


「いずれ死ぬ事は定めだと考えています。それに、ただの長生きでも結構なのですが…駄目でしょうか?」


「解りました。不老の、病気や毒等に強い体を授けましょう。」


再び女神は男の額に自身の額をくっつけて祈った。


「後の1つはどうしますか?」


「うーん…ありませんね。もう充分です。」


「でも、大切な事ですから。」


「…では女神様の幸せを願います。」


「…え?」


「このように良くして頂いた女神様が、これからも幸せであることが私の望みです。」


「…」


「駄目でしょうか?」


「解りました…」


そういうと、再び額を合わせて女神は祈った。男の願いは全て叶えられたようだ。


「それではお別れです。良き人生を。」


「有難う御座います、女神様。」


そうして男は光り輝き出し、転生先へと送られて行った。


「…不思議な人でした。あのような人ばかりであれば、我々の仕事も楽なのですが…」


フフッと、女神は笑った。



「オギャー!」


「おお、玉のように可愛い子だ。」


「はぁはぁ…」


「でかしたぞ、ミーシャ。」


「あなた、有難う御座います。」


「名前はどうしようか。」


「そうですね…フィリス…」


「今なんと?」


「え?フィリスと頭に浮かんだのですが?」


「そうか、運命の女神ファーリス様のような名前、素晴らしい!」


父親は産まれたばかりの子を抱きしめて、


「フィリス、お前は今日からフィリスだ!」


と、高々と叫んだ。


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