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 のぞみさんは白いロングのスカートに肩の出ている淡いブルーのシャツを着ていた。その長い黒髪は艶やかで、ストレートにしている。

 赤い口紅をつけて、なんだかとてもいい匂いがした。

 肩から小さな白いバックを下げていて、その手には紙袋を持っている。

 のぞみさんはお父さんのそばにいるさなぎを見て、にっこりと笑うと小さく手を振ってくれた。

「これ、つまらないものですけど、どうぞ」

 と言って、のぞみさんはその紙袋(中身はどら焼きだった)をお父さんに手渡した。

「あ、これは、ご丁寧に。どうもすみません。ありがとうございます」とにっこりと笑いながらお父さんは言った。

 それからお父さんはのぞみさんに自分の名刺を一枚手渡した。

 そこには『桜島小学校 国語教師 木登静』という文字が(こざるの絵と一緒に)書いてあった。

「木登、……しずかさん」のぞみさんは名刺を見ながらいう。

「はい。しずかです。小学校で教師の仕事をしながら、みらいとさなぎという二人の娘を育てています。これからもよろしくお願いします」としずかは言う。

「小学校の先生なんですね。すごいです」

 とのぞみさんはいう。

「お父さん。立ち話もなんだし、上がってもらったら?」とみらいが言った。

「うん。そうだね。どうですか? のぞみさん。こうして出会ったのも、なにかの縁だと思いますし、少しだけ家によって行きませんか?」しずかはいう。

「ええっと、そうですね」と困った顔をしてのぞみさんはいう。

 でものぞみさんはさなぎの「よってほしい」と言いたそうな、そんな顔を見て、「じゃあ、少しだけ」と言って、木登家に上がっていくことにした。

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