第11話 腹が減っては戦は出来ぬ!食は大事な取り引き材料です!

「よーし、次に行くわよ!」


 アンバーと共にドラゴンママに別れを告げ、私は次の目的のために情報収集に明け暮れた。


 そう。雷への耐性をつけることだ!


 しかし、耐性をつけると言ってもそんなに簡単な事ではない。私はループの記憶を持つ賢者だが、今までのループの記憶の中でも人間が属性や耐性をつける方法など聞いたことがなかったのだ。


 だが、ならばこそ情報を集めねばならない。私はまだまだこの世界のことを知らな過ぎる。今までのループでは成し得なかった事を最後のこの世界で成し得て見せると決めたのだから。







 こうして爆誕したばかりの新米冒険者エナは、色々とやらかす事になるのだが……それが本人の知らぬところでとんでもない事になる。それがわかるのはもう少し後のこと。







 ***










 エターナはまず「怪しい薬が作れる人」を探していた。所謂、魔法薬的なものがないかを探すためだ。例えば一時的にでも“雷の耐性がつく薬”が作成出来ればめっけもんである。


 うーん、ここは王道で薬師に聞いてみるか……でもケガや病気の薬を作るのが専門の薬師に「雷の耐性がつく薬ってありますか?」なんて聞いても「やべー奴」扱いされて終わりかもしれない。となると、やはり錬金術師だろうか……。


 錬金術師という職業は確かにいるが、ともかく人気がない。なにせ錬金術はその使用する素材にお金がかかるのだ。超高額な素材を惜しみなく使い錬金した結果、失敗してゴミと化すなんてことは日常茶飯事。そう、錬金術師なんてかっこいい名前ではあるが、彼らは研究に取り憑かれたただのマッドサイエンティスト……三度の飯より研究が好きな変人だ!そのせいで、よっぽどの物好きな金持ちがパトロンをしてくれるか、死して屍拾う者なし状態の世捨て人的な変人しか錬金術師なんて道楽家業などやらないのだ。


 たが……だからこそチャンスはあるかもしれない。


 錬金術師は道楽が大好きだ。大切なのは好奇心のみ。自分が興味をそそられれば、例えなんの役にもたたない薬でも作ろうとする可能性はおおいにある。


 それは、よし、錬金術師を探そう!と意気込んだのだった。






「まずは腹ごしらえよね!アンバーはお肉でいい?」


『ぴぎぃー』


 私の肩に乗っているアンバーがコクコクと頷く。産まれたばかりとはいえ、さすがはドラゴンだ。アンバーは何でも食べるお利口さんである。私はお気に入りの串焼き屋さんに向かって足を進めた。色んな具材を串に刺して焼いただけの料理だがナイフもフォークも使わずに簡単に食べれるし何より美味しい。素材の味を最大限にいかしているのがマダムさんが焼いた串焼きなのだ!


「マダムさん、串焼き2つ下さい!今日はお肉のがいいわ」


「はぁ~い!おまたせぇぇぇ!こっちがアンバーちゃん用の塩抜きで、こっちがエナちゃん用のタレ漬けよぉぉぉ」


 マダムさんの野太いが優雅な声が路上に響き渡る。マダムさんのムキッとした腕が無駄のない華麗な所作で動かされ……私達の目の前には匂いだけでヨダレが出てきそうな程に美味しそうな串焼きが用意されていた。


 お金を払い、我慢しきれずに思わず一口頬張る。外はカリッとしていて中はジューシーで、タレの味付けも甘辛くて最高な肉汁が口いっぱいに広がった。


「うぅ~ん!やっぱりマダムさんの串焼きは最高ね!」


『ぴぎぃっ』


「そんなに喜んでくれると嬉しいわぁぁぁ。一本オマケしちゃう♡」


 マダムさんはバチコーン!と濃厚なウィンクをして串焼きをお持ち帰り用にと包んでくれた。ムッキムキの立派な筋肉を持つマダムは、ちょっとメイクが濃い目のオネェさんであった。


 実はこのマダム……元々は隣国の城の料理人だったらしい。だが隣国の王子が好き嫌いが激しい食わず嫌い大王でマダムの料理を食べもしないのにイチャモンをつけてきたそうだ。さらにオネェさんである事を暴露されて追い出されたのだそうな。マダムはそんな隣国に見切りをつけこの国にやってきた。吹っ切れたように最初からオネェさん全開で小さな屋台を開業したらたちまち大人気だ。安くて美味しい串焼きはもちろん、明るく楽しいマダムの人柄も受け入れられ、いまやマダムはこの屋台通りの人気者である。


 マダムの本名を聞いた時は驚いたけど……#この世界__・・・・__#では関係ないはずなので私は笑顔でスルーすることにした。だって、その隣国の王子って2回目のループの時の男爵令嬢争奪戦の勝者ではないか。そしてマダムの名前はその二人のお披露目パーティーの時の担当料理長だったからだ。しかし、まさか隣国を追い出されていたなんて……。でもこれで、ヴィンセント殿下の勝率が上がったかな?だってあのときの男爵令嬢のお気に入り料理は担当料理長……このマダムにしか作れない創作料理だったからだ。なんだったっけ……そう、確か……“ミソシル”とか言う不思議なスープだった気がする。あの時の男爵令嬢が「あぁぁぁぁあ!実家の味ぃぃぃぃぃ!」と泣きながら飲んでいた。


 そうだ!今のマダムに、もしその“ミソシル”なるスープを作って貰えてそれをヴィンセント殿下に教えてあげれば男爵令嬢からの好感度が上がるのでは?そうすれば今度こそヴィンセント殿下が選ばれる可能性はグ~ンとアップだ!ふふふ、私の理想の未来は明るいぞ!


「ねぇ、マダム!ちょっとお願いがあるんだけど……」


「あらぁ、面白そうね!スープなら、串焼きと一緒に出してもよさそうだわぁ。じゃあ、その材料は……」


 こうして私とマダムの裏取り引きがここになされたのだった。ヴィンセント殿下の幸せの為には小さな事からコツコツとやらねばね!






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