第3話 とんでもない未来宣告(ヴィンセント視点)

「ーーーーと、言うわけなんです!」


「さっぱりわからん!」


「え?ですから私がズバッと聖女候補の居場所を言い当てて、ちゃっかり賢者と認められ、そして公爵である父のコネをこねくりまわして国王陛下に売り込んで今に至っているということですよ?」


 僕の目の前にいる金髪碧眼の少女はきょとんとした顔で首を傾げた。おとなしく座っているだけならものすごく可愛いのに、その口から出てくるのはとんでもない爆弾発言ばかりだ。


「……僕は婚約者候補の中に今代の賢者がいるとしか聞いていない」


「賢者が婚約者なら箔がつくし、婚約破棄した時のインパクトもあると思うんです!」


「婚約破棄にインパクトなんぞ求めるなぁ!」


 だからぁ!なんで婚約破棄ありきの婚約を迫ってくるんだよぉ?!


 我が国にはとある神の残した信託がふたつある。それが“聖女”と“賢者”だ。どちらもそう簡単に見つかるものではないし、この地に必ず現れる存在でもない。見つかればそれはそれですごいことだが、逆に言えばこの地がピンチだと言うことだ。(実際には僕がピンチだ)


「えー、インパクト大事ですよ?」


 またもやきょとんとした顔で僕を見つめる少女賢者。うっ、可愛い。クリンクリンと巻かれた金色の髪は首を傾げる度に軽く揺れ、ぼくを見つめる青い瞳は吸い込まれそうだ。さくらんぼのような唇が僕の名前を紡ぐ度にドキッとする。ちょっとつり目だけどきょとんとした時は目が丸くなるし笑顔がかわい……いや、今はそんなこと考えてる場合じゃない!


「僕は父上から今回のループ世界に僕の運命が深く関わっているらしいと聞いたからこうやって話を聞いているのに……」


 さらに言えば、婚約するに値するかどうかも見極めてこいと言われた。たかだか10歳の子供に気軽に世界を任せないで欲しい。


 ……まぁ、僕と婚約を望んでいる希少な賢者が、こんなに可愛い美少女だってわかった時はめちゃくちゃ嬉しかったんだが……。ひとたび蓋を開けてみればこれだ。こんな内容だ。なんてこった。


「だから、ヴィンセント殿下にだけこうやって詳しくお話してるじゃないですか。今回のループ世界は賢者の私が責任持って正しい方向へと導きますから安心してください!」


 えっへん!と胸を張る少女は本気で僕をそのまだ見ぬ聖女候補と結婚させたいらしい。だがどれだけ想像してもその聖女候補とやらは僕の理想からかけ離れている。


「正しい方向って……」


「殿下が聖女候補と浮気して本気になって、私と婚約破棄する世界です!だから私と婚約しましょう!」


「絶対いやだ!」


「あ、ヴィンセント殿下?!」


 僕は彼女の制止を振り切り、その場から逃げ出した。


 教会が賢者と認めたからには彼女は本物だろう。つまり彼女は何度も同じ世界をループした記憶を持ち、世界を滅亡から救い正しく安全な世界へと導こうとしているんだ。


 しかもこの少女はすでに4回も世界をループして今が5回目だというではないか。4回も滅んだ世界を今度こそ平和に導こうとしているのだと聞いてどんなえげつない内容なのかと思っていたら……。(ある意味ものすごくえげつないが)


 でも、その安全安心な世界が……自分が浮気をして婚約者を破滅させないといけない世界だなんてショックでしかなかった。


 まさか……ひとめ惚れした相手にそんな理由で婚約を迫られるなんてーーーーっ!


「お前のような女とは、絶対に婚約しないからなーっ!」


 僕の魂の叫びはどこまでも響いたという。









 ***










「ヴィンセント、どういうつもりだ」


「なにがですか」


「婚約者選びの場から逃亡して、結局婚約者を決めなかっただろう」


 そう、今日は僕の婚約者を選ぶ日だった。賢者のあの子以外にも数人の候補者がいて、必ず誰かを選ぶように言われていたのだ。もちろん、最有力候補はあの子だったが。


「出来れば賢者の娘が好ましいと言っておいたはずだ。公爵令嬢だし身分も問題ない。さらに教会が認めた賢者が婚約者となればお前が立太子する時にも箔がつくのだぞ。向こうもそれを望んでいるというからわざわざ2人きりにしてやったのに……」


 それは彼女も確かに言っていたし、正しいだろう。僕は第1王子だが現王妃である母上の身分が低い為に立太子するには立場が弱い。公爵家の後ろ楯や賢者の称号を持つ婚約者がいればその地位は強くなる。僕には兄弟はいないが、僕に王太子たる能力や地位が無いと判断されれば隣国にいる従兄弟が父上と養子縁組して新たな王太子になる予定だから、今からしっかりと地盤を固めろとずっと言われ続けているからだ。血筋は大切だが、必ずしも直系のみが優秀とは限らない。それが昔現れた賢者の言葉だと言い伝えられ、各方面の能力の高さも求められるようになったのだ。


「それはわかっていますが……」


 僕だってあの子が婚約者になったらいいな。と思っていた。途中までは。だが、その未来の先にあるのは浮気に婚約破棄だと宣言されたのだ。


「賢者の娘が気に入らないのなら、隣国の姫はどうだ?従姉妹でもあるし気が知れた仲だろう」


 僕の地位を虎視眈々と狙う従兄弟の妹か。


「あいつは腹黒だから嫌です」


「では、侯爵家はどうだ?あとは……爵位は落ちるが伯爵家なら資金面でかなりの融通をしてくれるぞ」


 そいつらは、僕にベタベタと付きまとってきて話を聞かない上に、お互い牽制しまくっていた令嬢たちだな。なんとも醜くかった。それに比べてあの子のキラキラした純粋な笑顔はとても癒された。あんな話さえ聞かなければ。


 あの子……エターナ・ルゥ・ラナセン。


 何度も死を経験して同じ世界を繰り返し生き、この世界が滅びないように修正する賢者。彼女によれば僕はこれまでの4回のループ世界でエターナを婚約者にしといて聖女候補に惚れたからと聖女候補をイジメた彼女を断罪して婚約破棄したらしい。どんな酷いイジメをしたのか聞けば、その内容は淑女として婚約者として当然の忠告のみだ。


 え?それがイジメ?未来の僕そんな事を理由に断罪して婚約破棄するの?と率直に思った。頭おかしいだろ。


 4回ともほぼ同じ内容で、唯一違うのはその聖女候補が本命に選ぶ男性が違うというだけ。さらに言えば選ばれなかった男性はその聖女候補の愛人におさまるらしい。いや、もう全ておかしいだろ!


 エターナは「どうしてもヴィンセント殿下が本命に選ばれて欲しいからループを続けたと思うんです!」とまるでそれが当然のように力強く拳を作った。彼女が言う正しい世界は僕が聖女候補と結ばれてエターナを断罪する世界だと言うのか。


 そんなの絶対、おかしいだろーーーーっ!


「お前は、エターナ嬢から未来の予言は聞いたのか?ヴィンセント本人でなければ詳細は話せない重要案件だと言っていたが……」


「……聞きました、けど……」


 父上に真実を告げる事は出来ない。もし言えばどうなるだろうか?今から聖女候補と無理矢理にでも婚約させようとする?それとも、未来の僕を軽蔑する?




「父上、婚約者問題について頼みがあります。それと、聖女についてもーーーー」


 僕は父上に頭を下げ、真剣な眼差しを向けた。


「まずは僕に猶予を下さい!僕はこの目で真実を確かめた上で婚約者を選びます」


「婚約者の選定が遅れれば遅れるほど、お前の立太子から遠退くのだぞ」


「承知の上です。ですので、エターナ・ルゥ・ラナセンが賢者である事はまだ内密にお願いします。彼女が公爵令嬢以上に価値があるとわかればどんな目に遭うかわかりませんから」


「それは無論だ。教会からも正式に婚約者にならない時は他言無用ときつく言われている。エターナ嬢が成人するまでは極秘扱いだ。未来の予言を悪用されては世界が滅ぶからな」


 よかった。と、ホッと胸を撫で下ろす。いくら未来がわかるといってもまだ幼い少女なのだ。


「賢者の存在は言われるまでもないが……聖女についてとは?

 新たな聖女ならば賢者が居所を言い当てたのですぐに見つかり今は早々に教会で教育されているはずだ。それと教会が別に出した捜査団がーーーー」


 エターナは聖女候補はまるでひとりきりのように語っていたが、実際には3人いる。だが真の聖女はひとりなのだ。だからこそあくまでも#候補__・・__#なのだ……。


 賢者の言葉に嘘は無い。だが、その話を聞いて候補なのにひとりしかいない聖女の存在が気になった。あの子の思い込みかもしれないし、もしかしたらーーーー。


 だから僕は「賢者が見つけたという聖女候補について、詳しく調べて欲しいのです」と父上に進言したのだ。





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