第2話 今度こそ理想を叶える為には下準備はきっちりしないとね!

 時は遡り、ループ世界の記憶を思い出したばかりの……天使のように可愛いプリチーな9歳の私について語ろう。





「お、思い出したぁーーーーっ!よっしゃ、今度こそヴィンセント殿下の番だぁぁぁぁぁ!!」


「……」


 拳にした両手を天高く上げ叫ぶ私を見た侍女がそっと私のおでこに手を当てた。


 いや、熱なんかないよ?おい、目をそらすな。


「……お嬢様、確かにお嬢様がヴィンセント殿下の婚約者候補に選ばれたとは申しましたが、まだ確定ではございません。これから1年間ちゃんとお勉強をしてその結果を踏まえてからの選出にーーーー「わかってる!わかってるから!ちょっと教会行ってくるね?!」……いってらっしゃいませ」


 何かを諦めた顔をした侍女に見送られながら私は部屋を飛び出したのだが「ちょっと待て」と早速つかまってしまい宙ぶらりん状態にされた。


「どこに行くつもりだ、エターナ「え?ちょっと教会に」そんな“ちょっと散歩に”なノリでいくところじゃないだろう、教会だぞ」


 そうです、教会です。確かに普通ならそれなりに手順を踏んでからでないと行けない場所ではあるが私は急いでいるのだ。


「そこは公爵家のコネを使ってちょちょっとこねくりまわして下さい、お父様!」


「こねくりまわすようなコネなんぞ持っとらん。だいたい教会は聖女出現の予言を神から授かったとかで大忙しだ。これから世界中を回って聖女候補を探しに行くそうでお前のような子供の相手などしてくれな「だから!私がその聖女の居場所を知ってます!」はぁ?!」


 むふーっ!と鼻息を荒くし宙ぶらりん状態ながらもえっへん!と胸を張る私を見てお父様が狼狽えた。


「ま、まさかエターナが聖jy「あ、違います」……うん、だよね」


 なぜあからさまにガッカリするのか。失礼な。


「とりあえず、ちゃんと説明しておくれ……。そしてちゃんと着替えてくれ……」


 すとん。と床に下ろされた私の体を後ろで待機していた侍女がぐわしっ!と掴む。そのまま部屋に連れ戻され扉が閉まると鏡の前に連れていかれた。


「こんな格好で、本気で教会に行くつもりだったのですか?」


「ふへ?」


 あら、やだ。寝巻き姿じゃーん。そうそう、ループの記憶を思い出す前の私はぐうたら大好きなワガママ令嬢だったのだ。今日は外に出ない~って寝巻きのままでゴロゴロしてた時に侍女からヴィンセント殿下の事を聞いて覚醒したんだよね。どうやら侍女は部屋の外にお父様がいることを知っていたから1回逃がして隙を見て捕まえる算段だったようだ。……策士め!


「うぅむ……」


 動きやすいながらもちゃんとしたドレスに着替え、髪を整えられている間、鏡を見ながら自分を確認する。


 金色の巻き毛にブルーサファイヤのような輝く瞳。肌は白くてモッチモチ。巻き毛はドリルのようにクルンクルンだし、目もつり上がっていて視線も鋭い。


 うん、子供らしさも兼ね備えたまさに悪役令嬢顔!!やはり私は悪役令嬢になるべくして生まれた存在なのだと改めて確信した。


「ではお嬢様、旦那様がお待ちですのでーーーー「教会に行く!」前にお話し合いをしてきてください」


 と、ズルズルとお父様の書斎へと連れていかれたのだった。あれぇ?私の扱い雑くない?前回までは記憶が覚醒しても侍女の前ではおとなしくして誰もいなくなってからこっそり活動してたし、もちろん教会にいきたいなんて言わなかった。でも使用人はどちらかというと私の事に興味もなく淡々と世話をしているだけだったから、絶対にあのままスルーされると思ってたのになぁ。


 まぁ、今までと違う事をするんだし、多少は誤差範囲内でしょ!だってイジメてなくてもイジメた事になって断罪されるくらいだもん、このループ世界が今までと違う事になるはずがないのだ。テンプレートエンディングは絶対なのよ!











「で、なぜ教会に行きたいんだ?「はい!実は私は世界をループしてきました!ループ世界の記憶持ちだったんです!」ぶっふぅーーーー!」


「お父様、紅茶を吹き出すなんてお行儀が悪いです」


「うっ、ゲホっ!ごぼっ!そ、それはつまり、自分が“賢者”だと……?!」


「はい。でも私が自分から宣言するだけではなんの確証もないし嘘つき呼ばわりされるので、教会で見ていただきたいのです」


 この世界には教会があり、そこの教祖様は所謂スキル持ちだ。神から信託を承ったりするし、王族に意見も出来る権限をもつ希少な人材でもある。


 まず、この世界にはずっと昔から言い伝えられている神からの信託がふたつあった。


 ひとつは“聖女”について。


 聖女とは神が定めた(心の)清らかな乙女で、定期的に現れると言われている。世界を安定させるために神が聖女に力を与えて、神の力を宿した聖女がこの世界に存在することで神の力が世界に行き渡る。つまりは聖女を介して神が自分の力を散布しているようなものだ。なので、その時に不安定になる国で聖女が発見される。 教会は神からお告げ(重要な割にはあやふやらしいが)を授かり、そのヒントから聖女候補を探し出すのだ。そしてやっと見つけた聖女(仮)を教育し、問題が起こりそうな所に放逐。その問題が見事解決されたらやっと候補から正式な聖女と認められる。勝手に連れてきて実力を示してからでないと認めないとは横暴だ。まぁ、聖女はそこにいるだけで問題が起こってもみんなを平和に導くそうだから、それを踏まえれば今までのループ世界でヴィンセント殿下が恋人その1で満足するのも致し方ないのかもしれない。まさか教会も、その問題が聖女を奪い合う恋愛劇で、まさかみんなが聖女を愛して円満解決。なんて思うまいよ。ちなみにその恋愛劇は学園で起きた大問題(ヴィンセント殿下が絡んでるからね)だったので意中の殿方と結婚した後、男爵令嬢は無事に聖女の称号を得るのだ。神の力の散布が、恋愛劇の為だけに使われるとは……だからこそのテンプレートエンディングだよね!






 そしてもうひとつの信託が……“賢者”だ。


 賢者とは、神の次に世界を知る者と示されている。その者は同じ世界を繰り返しループするのだとか。


 そう、私だ。


 賢者はその世界を正しい未来に導くまでループし続ける。


 そう、私だ。


 賢者は世界の危機に現れ、神に変わって予言をするとかしないとかなんやかんやだ。その辺は昔の信託過ぎてあやふやだが、その昔に1度だけ賢者が現れた事があったそうだ。その賢者は「我が推しが選ばれるまでループしてやったぜ!」と告げて消えたのだとか……。推しってなんぞや?


 まぁ、とにかく賢者がなんやかんやした後に「満足した」と消えたら、世界はとっても平和になったのだそうだ。


 細かい事はわからないが、「満足するまでループする」を当てはめると……。


 つまり私だぁ!!


 教会の教祖様にはその“聖女”と“賢者”を見極めるスキルがある。スキルがあるくせに聖女はあくまでも候補までしか見極められないのはかなりポンコツだと思うが……賢者の方は見極めるポイントがあるそうだ。


「私が、そのお告げのあった聖女をピタリと言い当てて見せましょう」


 そう、前回の賢者はその時の聖女を言い当てて、その聖女は見事に役目をこなしたらしい。詳細は公開されていないので謎のままなのだが。


 とにかく私はその“賢者”の称号を欲している。これも確実に完璧な悪役令嬢になるための下準備だ。


 私の全!勢力を持って!必ずや男爵令嬢にヴィンセント殿下を選ばせて見せるのだぁぁぁぁあ!!


 よぉし、さくさく行くよーっ!


 おっと、ついでに言えばこの時点ではまだ義弟はいない。私がヴィンセント殿下の婚約者候補に選ばれたのでこれから親戚の子供から厳選して引き取るのだが……。


 ヴィンセント殿下の勝率を上げるためにも、今から教育しとこうかな?なーんてね。てへっ。


「なんか……娘の性格が変わった気がする……」


 お父様、あんまり悩むとハゲますよ?





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