第416話 カーティスと第二騎士団3
「陸上隊第三分隊所属、分隊長、牛人族のトルーバです。主な任務は樹の属性魔法による、資材確保、土木作業、農業支援になります。部隊はほとんどが牛人族で構成されております」
トルーバは頭に二本の角、横耳を生やしており、黒い短髪と黒く優しい瞳をした細目の尻尾が男の子だ。
牛人族は熊人族に負けず劣らず、体格が良くて、力が強いのが特徴だね。
現に彼は人族の小柄な女性ぐらいの身長がある。
ちなみに、第三分隊の副隊長でベルカランという牛人族の女の子がいるんだけど、その子の方がトルーバより身長が高いから驚きだ。
その上、牛人族の皆は面白いぐらいに食事量が多い。
以前、そのことについて食事中の二人に尋ねたこともある。
「トルーバ達に関わらず、牛人族の子達は良く食べるね」
「はは、牛人族は胃袋が四つある……なんて言いますからね。でも、そんなことはありませんよ。単純に人族より体格が大きくなりますから、食事量が他種族より多いみたいですね。ほら、熊人族のカルア達も良く食べるじゃないですか」
「なるほどね。でも、熊人族は男女で食べる量にあんまり変わりがないけど、牛人族は男の子より女の子の方が良く食べている感じがするね」
彼の言葉に頷くと、淡々とモリモリ食べているベルカランに視線を向けた。
彼女は頭に二本の角と横耳を生やしており、赤毛の長髪と青い瞳をしている。
加えて目が細く、いつも笑顔が絶えない女の子だ。
ベルカランは食事の手を止めると、ニコリと頷いた。
「はい、牛人族の女の子は身長も大きくなるんですけど、胸も大きく育つんですねぇ。だからその分、牛人族の女の子は男の子達より食べる量が多いのが一般的なんですよぉ」
「あぁ~……そう言うことね」
種族が違う以上、体の造りや仕組みが違うのも当然か。
確かに、彼女を含めて牛人族の子達の発育は、人族や他の獣人族より早い気がする。
納得して頷くと、トルーバが間もなくニコリと微笑む。
そして、彼はおもむろに低い声で耳打ちをしてきた。
「いくらリッド様でも、ベルに手を出すことは絶対に許しませんからね?」
「……僕がそんなことするわけないでしょ」
異様な彼の迫力に少し背筋がゾッとするが、呆れ顔で否定した。
すると、彼は「ふふ、良かったです」と満面の笑みを浮かべるが、目が笑っていない。
その瞬間察した。
あ、トルーバって独占愛というか偏愛が凄い子なんだと。
そんな以前のやり取りを思い返していると、次の子が一歩前に出た。
「えっと、陸上隊第四部隊所属、分隊長をしております、猿人族のスキャラです。第三分隊と同じく、樹の属性魔法を用いた任務が主になりますね。それから第四分隊は隊員は、私を含め樹の属性魔法が使える部族で混合編成されております」
彼女はそう言ってペコリと頭を下げると、元の位置に戻った。
スキャラは黄色い髪と水色の瞳を持つ猿人族の女の子で、ちょっと目つきが鋭い。
彼女は第二騎士団の部隊編成時、工房入りを断って分隊所属を希望した猿人族の一人だ。
その理由を尋ねると彼女は照れくさそうに教えてくれた。
「えっと……鉢巻戦で、リッド様の強さに感動しました。だから、私も同じように強くなりたいんです。ダメ……でしょうか?」
しゅんとするスキャラに、僕は首を横に振った。
「いやいや、そんなことないよ。むしろ、そう言ってもらえるなんて光栄さ。わかった、じゃあ分隊所属で手続きは進めるけど、もし工房に行きたくなったら教えてね」
「はい、ありがとうございます!」と彼女は表情をパァっと明るくして一礼する。
その後、スキャラの上達ぶりは凄まじく、あっという間に分隊長までのし上がったのだ。
ただ、普段はおとなしめで普通の子なのに、戦闘訓練の時は口調が荒くなるという少し不思議な性格をしている。
人伝に聞いた話だと、彼女は引っ込み思案の性格を変える為、訓練当初は鉢巻戦時の『悪ぶっていた僕』をイメージしていたらしい。
それがいつの間にか、当たり前になってしまったそうだ。
まぁ、実力は間違いないから、特に気にしないことにしている。
第四分隊の副隊長はスキャラと同じく、分隊所属を申し出た猿人族のエンドラという男の子だ。
彼は特筆することはないけれど、何でもそつなくこなす子であり、分隊長のスキャラを支えている感じだね。
それから間もなく、次の子が前に出る。
「陸上隊第五分隊所属、分隊長で猫人族のミアだ。第五分隊に任されているのは、領内の治安維持に伴う巡回。それに、第一から第四分隊が行う任務の補佐と護衛だな。隊員は俺と同じ猫人族がほとんど……です」
彼女が少し尖った言い方をしていると、ディアナが反応してギロリと睨んだ。
すると、ミアは借りてきた猫のように最後の語尾が丁寧になってしまう。
彼女にとって、ディアナは相当に怖いらしく頭が上がらないらしい。
ミアだけでなく、獣人族の女の子達全員に言えることでもあるけどね。
補足すると、第五分隊の副隊長は猫人族のレディという、ちょっとやる気の見えない黒紫の髪と緑色の瞳をした女の子だ。
とは言っても、任務はしっかりこなす上、猪突猛進のミアを諫める案外冷静な子でもある。
結構、二人は良いコンビだと思うんだよね。
他にも猫人族の隊員には、エルムやロールという真面目な男の子達が彼女達の足りない部分を補っている感じかな。
その時、カーティスが何か気になることがあったのか、「少しよろしいですかな?」と呟いた。
「はい、何でしょう?」
「今しがた、ミアという少女の言葉に『第一~第四分隊の任務の補佐と護衛』とありましたが、これは具体的にはどういう内容ですかな?」
「あ、それはですね……」と説明を始める。
第一~第四分隊は、皆が自己紹介の時に説明したように土木作業や公共事業が主な任務だ。
でも、そうなると現場には一般市民いる場合が多い。
その際、現場作業が滞りないように市民誘導や現場管理を行い、補佐する役割が第五~第八分隊だ。
だけど、たま~に悪意を持って現場に近づいてくる輩もいたりする。
その時は、輩を蹴散らして公務執行妨害で逮捕したりするのも第五~第八分隊の役目だ。
第一~第四分隊の皆でも余程のことが無い限りは返り討ちには出来るだろうけど、その役割は戦闘特化の第五~第八分隊に任せる仕組みにしている。
その方が、効率も良いからね。
「なるほど。役割分担を明確にすることで、業務の効率化を図っているわけですな」
「はい、その認識で良いと思います」
そう答えると、カーティスは合点がいった様子で相槌を打った。
「承知した。自己紹介を止めてしまって申し訳ない」
「いえいえ、構いませんよ。じゃあ、次は第六分隊だね」
そう言うと、第二騎士団に視線を向ける黒髪の男の子が前に出る。
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