第400話 負荷と目覚め

「う……ううん」


窓から差し込む日差しを感じ、僕はゆっくりと目を覚ました。


そして、ベッドから起きようと体に力を入れた瞬間、全身に筋肉痛のような痛み……いや、激痛が駆け巡る。


「うぐ⁉」


突然の痛みに思わず顔を顰めると、ベッドの傍にいたダナエがハッとして目を見張った。


「……⁉ リッド様、お目覚めになられたのですね。すぐにサンドラ様と皆様を呼んで参ります!」


「え……ちょ、ちょっと待っ……あぐ⁉」


状況が飲み込めず、部屋を飛び出るダナエを制止しようと腕を伸ばそうとするが、激痛に襲われて再び顔を顰めた。


腕を動かすこともままならないなんて、僕は一体どうなってるんだ? そう思った時、頭の中でメモリーの声が突然と響いた。


(リッド。だから言っただろう、後の事は知らないってね)


(メ、メモリー? あ、そうか。身体強化・弐式と烈火の反動か)


彼の声が聞こえたことで、昨日の出来事。


身体強化の訓練で無茶をしたことを鮮明に思い出した。


すると、メモリーが頷いたかのように声を響かせる。


(その通り。父上の忠告を無視して先走るから、体が負荷に耐えきれなかったんだね。まぁ、皆にしっかりとお灸を据えてもらうことさ)


(み、皆?)


嫌な予感がして聞き返すと、彼は(そうだよ)と言葉で相槌を打った。


(君を大切に思っている皆さ。それと、君は丸一日と寝込んでいたからね。身体強化の訓練をした日から数えて、今日で二日目だよ)


(な……⁉)


想像以上に大変なことなっていることを理解して絶句した時、部屋のドアが勢いよく開かれた。


そして、ファラと護衛のアスナが入室する。


「リッド様!」


僕の名前を叫んだファラは、すぐにベッドの傍に駆け寄って来た。


彼女の瞳は涙で潤んでおり、どれだけ心配させてしまったのかと後悔の念に苛まれる。


激痛に耐えつつ、彼女の頬を手で優しく撫でた。


「ファラ、心配かけてごめんね」


「本当です、こんな無茶をしたら皆がどれだけ心配すると思っているんですか!」


今まで見たことの剣幕で怒号を発するファラ。


そんな彼女瞳を見つめながら、「ごめん」と謝った。


すると、ファラは首を横に振り、僕の手を両手で優しく包んだ。


「リッド様がご無事で本当に良かったです。無茶をしたこと、心配させたこと。怒ってますし、許せません。だけど、こうして目を覚ましたから許してあげます」


「うん。本当にごめんね」


それから程なくすると、父上、ディアナ、ガルン、サンドラ、メルと皆が次々とやってきた。


そして、皆に見守られながらサンドラの診察を受けていく。


なお、体がまともに動かせないから、診察はベッドの上で寝たままだ。


情けない事に、着ているシャツもめくれない。


その為、サンドラの指示に従い、ディアナやダナエが診察を手伝ってくれている状況だ。


やがて、サンドラが胸を撫で下ろして「ふぅ……」と息を吐いた。


「うん。意識もしっかりしていますから、もう安心です。丸一日眠っていたのは、身体強化の負荷が魔力と体力。それぞれの自然治癒力を越えてしまったことが原因でしょう。その為、通常よりも回復に時間が掛かったのかと」


「じゃあ、この全身の痛みは負荷による損傷が完治していないってこと?」


ベッドに寝ている状態で首だけ動かして尋ねると、サンドラは頷いた。


「そう思われます。従いまして、リッド様は治療に専念。今日明日は経過観察ですね。あと、ニキークさんとビジーカさんの共同研究で開発中の『薬』を後でお持ちしますよ。きっと、回復力が向上するはずです」


「あはは……あの二人が開発中の薬か。あまり良い予感はしないね」


サンドラ、ニキーク、ビジーカ。


彼等は、研究と探求に対する好奇心が強すぎる気がするんだよね。


体の痛みに耐えつつ苦笑すると、彼女は首を横に振った。


「何を仰ってるんですか。ちゃんと、狼人族のラスト君でじっ……じゃなくて試していますから、問題ありません」


「……いま、実験って言おうとしたよね?」


首を動かしてサンドラをジトっと見据えるが、彼女はそっぽを向いてしまう。


すると、ベッド横に座っているサンドラの背後に父上がぬっと現れ、鋭い眼差しで僕を見下ろした。


「リッド。なんにせよ、お前がこうして無事に意識が戻ったことは喜ばしいことだ。だがな、お前が永遠に目を覚まさないのではないかと、此処にいる者。皆が気が気ではなかった。その事だけはしっかりと胸に刻んでおけ」


「う……承知しました。返す言葉もございません」


異様に圧のある父上の眼差しから逃げることもできず、ただただ頷いた。


答えを聞いた父上は、呆れ顔でため息を吐いて首を横に振る。


「はぁ……いつも返事だけは良いのだがな」


そう言うと、父上はサンドラの肩に手を置いた。


「サンドラ、私が許す。どんな方法でも構わん。早急にリッドの体力を回復させろ」


「畏まりました」


彼女が頷くと、父上は踵を返して部屋を後にした。


次いで、メルがベッド横にやってくる。


「……兄様。母上もすっごい心配していたんだからね。後で来ると思うけど、覚悟しておいた方が良いよ」


「あはは……そうなんだ。というか、そうだよね」


自業自得だし、甘んじてお叱りを受けよう。


そう思いつつ、天井を見ながら先日の訓練を思い返す。


弐式と烈火の負荷は『凄まじい』の一言に尽きる。


でも、その代償に見合う強化を得られることは間違いない。


それに、慣れれば負荷が減る可能性もあるだろう。


扱いは難しいけれど、必ず使いこなせるようになってみせる。


そう思った時、頬に突然と痛みが走った。


「いたぁ⁉ な、なに?」


痛みの走った頬側に目をやると、ファラがとんでもない黒いオーラを発して微笑んでいた。


「リッド様。また、魔法のことをお考えになっていましたね?」


「え、あ、いや……」


その後、ファラを中心に皆からお説教を受けることになったのは言うまでもない。





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