第334話 閑話・ヴァレリ・エラセニーゼ

「それ、私に貸して!」


私は声を張り上げると、目の前にいる男の子が両手でがっしり掴んでいる綺麗なブローチを奪おうとして手を伸ばした。


しかし、彼は頑なに渡さず嫌悪と怒りに満ちた目をこちらに向ける。


「嫌だって言っているだろ、ヴァレリ嬢。これは、父上から頂いた大切なものなんだ」


「なによ、今日は私が六歳になった誕生日会なのよ。貴方が皇太子か何か知らないけど、私の誕生日会に来たならそのブローチぐらいくれたって良いじゃない」


ムキになった私は、そういうと嫌がる彼からさらに奪おうと力込める。


周りにいるメイド達は、私と彼のやり取りに慌てているようだ。


しかし、そんなことお構いなしに私達はもみ合った。


そして彼が「やめろって!」と叫んだその時、勢い余って突き飛ばされた私は壁に後頭部を激しくぶつけてしまう。


衝撃で「あう!」と呻き声を出したその瞬間、私の視界が真っ白になった。


同時に様々な記憶が私の中から呼び起こされていく。


突然の事に私は頭の処理が追い付かずに、立ち眩みをしたかのようにフラフラしてしまう。


「え……あ……へ……」


「お、おい。どうした……」


正面にいる男の子が何か言っているけど、凄くぼんやりしてよくわからない。


程なくして、私はその場で前のめりに倒れてしまった。


なお運の悪い事に私の倒れ込んだ場所には積み木か何かが積んであったらしい。


「ガッ」という鈍い音も辺りに響いた気がする。


その瞬間、これまた凄い痛みが額に走った気がしたけど、私はそのまま気を失ってしまった。



何故か私は気付けば、真っ暗な暗闇の中にいた。


「ここはどこだろう……私は誰だろう」


そう呟くと、私の目の前にゆっくりと光に包まれた女性と少女が現れた。


貴方達は誰? 


問い掛けると、光に包まれた女性と少女は互いに顔を見合せてクスクスと笑いながら、二人揃って私に指先を向けた。


その時、少女と女性が一つの光になり私の中に入って来る。


そして、女性と少女が見た世界が頭に浮かんできた。


ビルが立ち並ぶ街並み、道路、行き交う車と沢山の人。


私はこの世界に見覚えがあった。


これは、光の女性の知っている世界……そうだ、私はあの世界を知っている。


毎日、同じ道を通って……あれ、どこに向かっていたんだっけ。


すると、今度は少女の知っている世界が見えてきた。


カッコ良くて、怒ると怖いけど……でも私に甘い父上。


皆にも私にも厳しいけど、最後はいつも許してくれる母上。


そして私をいつも気にかけてくれる、優しい兄上。


家族の皆は、私を可愛いと言っていつも許してくれる。


だから私は、世界で一番可愛くて、一番偉い女の子。


その証拠に私が我儘を言っても、屋敷のメイドや執事、騎士の皆はいつも言う事を聞いてくれた。


それなのにあの『男の子』が言う事を聞いてくれなくて……。


あれ、でもそう言えばあの子は「父上がくれた大切なもの」って言っていた。


じゃあ、私が悪いんじゃないだろうか。


真っ暗な闇の中で自問を繰り返す中、ある疑問が私の中に生まれていく。


だけど……どうして、そんなことすら気付けなかったんだろう。


私はそんなに幼かっただろうか。


というか、本当に私は誰で何故こんな真っ暗な世界にいるんだろう。


そう思った時、また今度は私の中から光が現れて、少女の形になっていく。


「ふふ、貴方と私はこれからの『私』なの」


「え……どういうこと」


しかし、少女は私の問い掛けに答えない。


その時、闇の先に光が現れて少女の形をした光が走っていく。


私は驚きと共に、少女を追いかけた。


「待って、私は誰で、何故ここにいるの⁉」


私の声に彼女は現れた光の前で立ち止まり、こちらに振り返るとニコリと笑った。


「それはね、この先にいる皆が教えてくれるよ」


「え……」


彼女の返事と共に、闇の中を光が照らす。


同時に、目の前の少女がまた私の中に入ってくると私はまた意識を失った。



なんだろう……何か、とても大切な夢を見ていた気がするけど思い出せない。


それよりも何だか、周りから色んな人の声が聞こえて来る。


その中には聞き覚えがあるような声も混じっているような気がした。


私は誰だっけ。


何故ここにいるんだろう。


そう考えながら私はゆっくりと目を開けると、目だけで周りを確認していく。


どうやら私は大きいふかふかのベッドで、沢山の人に囲まれながら寝ているらしい。


私の寝顔を皆で鑑賞しているのだろうか。


だとすれば、少々趣味が悪い奴らだ。


ジッと天井を見つめて何かを思い出そうとしてみるが、やっぱりわからない。


私はボソッと「知らない天井……ね」と呟き、おもむろに体を起こした。


その瞬間、部屋中の人が驚きの表情を浮かべて歓声の声が上がる。


ポカンとする中、一人の女性が涙を溢しながら私を抱きしめた。


「ヴァレリ! ヴァレリ、本当に良かった。もう目を覚まさないかと思ったわ」


「私がヴァレリ……貴女が……お母……様」


私の中に電流でも走るかのような衝撃が、その時走った。


そして、一人の女性と少女の記憶が混ざりあい流れ込んで来る。


堪らず私は吐き気を覚えて、その場で「う、うぇえ」とえずいた。


「……⁉ ヴァレリ、ヴァレリ」


「あ、あはは。申し訳ありません、お母様。ちょっと、眩暈がしただけです。もう、大丈夫です」


心配な面持ちでこちらを見つめるお母様を安心させるように、私はゆっくりとハッキリ答える。


そんな状況の中、私の頭の中では様々な情報の整理整頓が行われていく。


程なくして、目の前にいる母上と周りにいる皆を見回した私は心の中で呟いた。


(そう、私はエラセニーゼ公爵家の娘……『ヴァレリ・エラセニーゼ』だわ)


 

誕生日会で私が頭打って寝込んでから数日後。


私は念のためにということで、いまだベッドの上で横になっている。


そして、用意された絵本を暇つぶしに眺めていた。


しかし、絵本の内容は簡単な内容ですぐに飽きてしまう。


私はすぐに読み終わった絵本を、ベッド横に用意された机に置くと「はぁ……」とため息を吐いた。


「それにしても、こんな事って本当にあるのね」


私はそう言うと、改めて自分の手足を繫々と眺めた。


見れば見る程信じられない。


だけど、現実として受け止めなければならないとも感じてしまう……そんな年端も無い子供の姿である。


ちなみに私の容姿は、雪のような白い素肌、深い青の瞳。


そして波打った長い金髪が目を引く、まるでお人形のみたいな可憐な少女だ。


少しだけ、目つきが鋭いけどね。


「……朧げに前世の記憶を取り戻すって、これもいわゆる『転生』ということでいいのかしら」


私は感慨深げに呟くと、額の右端にできた傷をさすった。


皇太子に無礼を働いた結果、壁を後頭部にぶつけて前のめりに倒れた挙句、床に転がっていた玩具で額の右端に傷が出来たあの日。


私は前世の記憶を一部だけ思い出したらしい。


なお、一部だけというのはそのままの意味になる。


前世において、日本という国で暮らしていたこと。


この世界より発達していた世界の街並みなど、断片的なことは思い出せた。


だけど、前世における私の名前など自身に関係する記憶は思い出せなかったのだ。


それでも、大人だったという感覚は残っており、今の私である『ヴァレリ』は論理的な思考が出来る『六歳児』という感じなのだろう。


うーん、こうなると今世はあちこちで起きる事件でも解決しなければならない運命なのだろうか。


それとも、額の傷からして『闇落ちした魔法使い』と戦う運命とかもあるかも知れない。


そこまで考えて、私は首を軽く横に振った。


「ふふ、考え過ぎね。多分、前世でライトノベルや漫画の読み過ぎだわ。それよりも、そろそろ絵本ばかり読むのは辛いわね……」


ふと視線を先程絵本を置いた机に移すと、そこには大量の読破された絵本が詰まれていた。


その時、部屋のドアがノックされる。


それから程なくしてお父様の『バーンズ・エラセニーゼ』とお母様『トレニア・エラセニーゼ』に加えて、兄様の『ラティガ・エラセニーゼ』の三人が入室してきた。


「ヴァレリ、体調は大丈夫か」


「はい、お父様。もう大丈夫です」


私が笑顔を浮かべて返事をすると、三人は安堵した表情を浮かべた。


そして、お母様が私が読破した絵本に気付いて目を丸くする。


「ヴァレリ、これ全部読んだのですか?」


「え……あ、はい。簡単な内容でしたからすぐに読み終わってしまいました」


「まぁ、うふふ。ヴァレリはとても賢いのね」


嬉しそうに微笑みお母様につられるように、御父様も顔を綻ばせている。


間もなく、兄様が二人の様子を見ておどけるように続けた。


「はは。父上と母上の二人は、ずっと落ち込んでいたからヴァレリが元気になってくれて本当に良かったよ」


「む……ラティガ、あまり余計なことは言わぬようにな」


「バーンズの言う通りですよ、ラティガ」


家族の暖かいやり取りに、私も思わず笑みを溢す。


それにしても、記憶を取り戻す前のことを思い返せば、家族の皆は少し私に甘いようだ。


本来、叱るべき部分も色々と許されていた気がする。


少し思い返すだけで私が行った、高い壺を割ってみたり、高い宝石でおはじきしたり、高い絵画に落書きしたり……と、ろくでもないことばかりしていた記憶が蘇って来る。


だけど、家族の皆は私が行った事に対して、『壺の形が悪かったからしょうがない』とか『宝石でおはじきとは新しい遊びだね』とか『ヴァレリの絵の方が素晴らしい』など、怒ることなく『子供のすることだから』と笑って許してくれていた。


公爵家の財産からすれば大したことがないのかもしれないけどね。


ちょっとやり過ぎ感は否めない。


きっと記憶を取り戻さなければとんでもない我儘になってしまい、周りが手を焼いたんじゃなかろうか……? 


まぁ、今の私になった以上、今後はそんなことにはならないだろうけどね。


その後も家族で談笑していると、お父様が咳払いをして兄様に目配せを行った。


兄様はその目配せに頷くと、私に視線を向ける。


「じゃあ、ヴァレリ。僕は剣術の稽古があるから、先に失礼するね」


「承知しました。稽古、頑張ってくださいね」


兄様は私の言葉にニコリと頷くと、そのまま部屋を後にする。


それから程なくして、お父様とお母様の表情が少し険しくなった。


「ヴァレリとっては嫌なことになるかもしれんが、先日誕生会にやって来られていたマグノリア帝国、第一皇子の『デイビッド』様を覚えているか」


「マグノリア帝国……第一皇子、デイビッド様……?」


オウム返しのようにお父様の言葉を復唱する私は、何か違和感を覚えた。


なんだろう、何かとても大切なことを忘れているような。


すると、母上が心配そう瞳をこちらに向けた。


「ヴァレリ、大丈夫。思い出して辛いのかしら」


「あ、いえ。大丈夫です。それに、あの時は私が我儘を言ってデイビッド様を困らせてしまいましたから、いずれお詫びしないといけません」


「まぁ……ヴァレリ。貴方がそんな風に言うなんて驚きました」


お母様はそう言うと、目を白黒させている。


確かに、今までの私であれば泣きじゃくっていたかもしれない。


「あはは……」と私が苦笑していると、お父様が咳払いをした。


「そう言ってもらえると助かるな。実はな、ヴァレリ。先日の一件を両陛下が重く見られてな。皇族として、その額の傷の責任を取るという事でお前とデイビッド皇子との婚約が仮決定されたのだ」


「はぁ……こんな傷一つで婚約ですか」


私は思いがけない話にポカンとしながら、額の右端に出来た傷をさすった。


しかし、お母様は私の額の傷を痛ましそうに見つめている。


ふむ……この世界には貴族という存在がある以上、令嬢においてこの額にある傷というのは大問題なのかもしれない。


そんなことを思いながら、私はニコリと微笑み頷いた。


「えっと、よくわかりませんが皇子との婚約が公爵家の為になるのであれば、私は喜んでお受け致します」


二人は私の答えにきょとんとした表情を浮かべた後、嬉しそうな笑みを浮かべる。


「ヴァレリがまさかそんな風に言ってくれるとは……さすが私とトレニアの娘だ」


「本当に……だけど、まるであの日から人が変わったようですね」


「へ……⁉ あはは。そ、そんなことあるわけないじゃないですか」


お母様の言葉に驚きつつも、私は笑って誤魔化した。


それからしばらく三人で談笑した後、二人は私の部屋を後にする。


また部屋に一人なった私は、ベッドに仰向けに寝ると目を瞑った。


それにしても、まさか異世界とはいえこの年齢で『婚約』するとは思わなかったな。


そういえば、前世の私は結婚はしていたのだろうか? 


思い出そうとするが、やはりわからない。


その代わり、ふいに大分昔にやった『とあるゲーム』を思い出した。


「そういえば、大分昔にやったゲームにも『マグノリア』って名前があった気がする……なんだっけあのゲーム」


何故か、絶対に思い出さないといけないと感じた私は必死に記憶を呼び起こす。


そしてその時、私はハッとして青ざめる。


「え、ちょっと待って。マグノリア帝国が出てきて、私が『ヴァレリ・エラセニーゼ』なの? それで、第一皇子が『デイビッド・マグノリア』ですって……⁉」


ガバッとベッドから体を起こした私は、急いで屋敷のメイドを呼んだ。


そして、周辺国の名前や歴史の資料。


皇帝、皇后、その子供達の名前を調べた。


やがて、私の推測が恐らく当たっていることを確信する。


「こ、この世界って大分昔にやった『ときめくシンデレラ!』の世界じゃないのよぉおおおおおおおお⁉」


私は自室で一人頭を抱えた。『ときめくシンデレラ!』略して『ときレラ!』は、乙女ゲームと言いつつも様々な育成、戦闘要素などがある『やり込み系』のゲームだったはずだ。


そしてそのシステムとバランスは女性のみならず、ゲーム好きな男性にも一定の人気を得たゲームだと何となく記憶している。


物語としては『シンデレラ』とタイトルにある通り、メインヒロインが王族達と恋愛をするという内容だったと思う。


だけど、問題となるのが物語においてメインヒロインを邪魔したり、いじめる役割を持った『悪役令嬢のヴァレリ・エラセニーゼ』という存在がいることだ。


彼女はプレイヤー自身でもあるメインヒロインに、数々の嫌がらせを行うがどんどん激しくなっていく。


その結果、やり過ぎて断罪されるというキャラなのだ。


その時、私の部屋がノックされ兄様の心配する声が部屋に聞こえて来る。


「ヴァレリ、なんだか凄い声が聞こえたけど大丈夫かい」


「え、ええ、兄様。ご心配おかけして申し訳ありません。その……虫が居てびっくりしてしまって」


慌ててドア越しに返事をすると、兄様はあえて部屋に入らないまま答えてくれた。


「そ、そうか。しかし、何か困ったことがあったら教えてくれよ。僕の部屋は隣なんだからね」


「はい、ありがとうございます。兄様」


会話が終わると、兄様はそのまま自身の部屋に戻ったらしい。


私はため息を吐くと、考えをまとめ始めた。


ともかく、私が『ときレラ!』に出て来る『ヴァレリ・エラセニーゼ』であることは間違いないだろう。


「確か良くある転生ものだと何故か強制力があって、何もしないと結局ゲームと同じ運命を辿るのよね……」


言葉にすると余計に不安が襲ってきた。


断罪なんて冗談じゃない。


それに、問題は私だけでなく、お母様、お父様、兄様、屋敷の皆にも関わってくる。


私が断罪されたら、皆はどうなるんだろう。


きっと、想像以上に大変なことになるのは間違いない。


「でも……前世の記憶があるからきっと大丈夫よね。物語の内容を思い出して、対策を考えれば……」


自身を鼓舞するように呟くと、私は目を瞑り記憶を呼び起こそうとする。


物語……物語……『とめくシンデレラ!』略して『ときレラ!』。


思い出せ……思い出せ……。


それから暫くの間、私は記憶を呼び起こす作業を続けた。


しかし、その結果に私は青ざめる。


「思い出せない……基本的なこと以外、何も思い出せないじゃないのよぉおおおおおおお⁉」


ひたすら思い出そうした結果、わかったことは私が『ときレラ!』を大分昔にやったことがあるような感覚。


そして、出て来る攻略対象と女主人公の名前に加え、私自身が悪役令嬢という事実ぐらいだ。


「何よこれ……こんな中途半端な記憶で転生とか聞いたことないわよ」


頭を抱えて呟いたその時、私の中にある名案が浮かんだ。


「そうよ……こういう時は、記憶を取り戻した工程を繰り返すしかないわ!」


私はそう言うと、部屋の壁に近寄り深呼吸を行った。


それから壁に背中を預けると、勢いよく後頭部を壁に何度もぶつけていく。


その度に衝撃と痛みが走るが、新しい記憶を思い出すことはできない。


「く……こっちじゃないのか」


後頭部に走る痛みに耐えながら、私は壁に向き合った。


そして、今度は額を壁に何度も頭突きをしてぶつけていく。


「思い出せ、思い出せ、思い出せ、思い出せ、思い出せ、思い出せ……思い出せぇええええ!」


「ヴァレリ、何をしているんだ⁉」


誰か声が聞こえた瞬間、私の体は後ろから羽交い締めにされ頭突きが中断されてしまった。


頭突きのし過ぎか、私は朦朧とする意識の中で叫んだ。


「思い出さないと駄目なのよ! じゃないと、私が断罪されてお父様とお母様。それにお兄様まできっと死んじゃうの」


「な、何を言っているんだ、ヴァレリ。まずは落ちついてよ!」


やがて意識がハッキリしてきた私の目に移ったのは、兄様の姿だった。


「あ……」


「ふぅ……落ち着いたかな、ヴァレリ。いきなり叫び声が聞こえたり、壁が叩かれるから何事かと思ったよ」


ニコリと笑みを浮かべた兄様は、すぐに羽交い締めから解放してくれる。


それからハッとした私は、慌てて頭を下げた。


「ご、ごめんなさい。兄様」


「はは、ヴァレリに何かある前で良かったよ。さて、どうしてこんなことをしたのか理由を聞かせてもらえるかな」


優しい兄様なら、私の話を信じて味方になってくれるかもしれない。


そう考えた私は、兄様を真っすぐに見据えた。


「……わかりました。信じて頂けないかもしれませんが、お話致します」


その後、私は兄様に先日の事件がきっかけとなり、前世の記憶を断片的に取り戻したことを必死に説明していく。


やがて話し終えた時、さすがの兄様も顔が引きつっていた。


「な、なるほど。それはにわかには信じがたい話だね……」


「やはり、信じて頂けないでしょうか」


さすがに信じてくれないよね。


そう思いながら私が俯いたその時、兄様はゆっくりと頷いた。


「……わかった。僕はヴァレリの言葉を信じるよ。でも、この事は僕達兄妹だけの秘密にして、二人で色々と調べてみよう。だから、今後は無茶しちゃ駄目だよ」


「……⁉ ありがとうございます、兄様」


思いがけない言葉に、私が満面の笑みを浮かべると兄様が嬉しそうに笑った。


「あはは。こんなことで、ヴァレリが無茶しなくなるならいくらでも付き合うさ」


「……何だか、兄様の言い方に少し棘を感じますね。でも、兄様よろしくお願い致します」


こうして兄様という味方を得た私は、将来に訪れる断罪回避に向けて様々な行動を開始していくのであった。


しかし、第一皇子であるデイビッド様との再会で私の思いはまた打ち砕かれる事になる。


「えっと、デイビッド様。もう一度、仰って頂いてもよろしいでしょうか」


「はぁ……『ヴァレリ・エラセニーゼ』、何度も言わせるな。私はお前のことなど大嫌いで、婚約者として認めておらん。親同士が決めたことだから従うだけだ。よく覚えておいてくれ。ではな」


エラセニーゼ公爵家の屋敷に訪れたデイビッド様は、私と二人きりの時に言いたい事だけ言って去っていった。


どうやら、最悪な第一印象が尾を引いているらしい。


記憶を取り戻す前の私の行いを思い出しながら、私は叫んだ。


「こっから、どうすりゃいいのよぉおおおおおおお⁉」






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