第266話 リッドと鼠人族の三姉妹 新魔法開発作業
僕は、ここ最近は父上との話し合いに出ていた、レナルーテとの会談に向けて『バルディア第二騎士団』を設立準備に日々追われている。
今日もまた第二騎士団に必要となるであろう『新魔法』を開発する為、宿舎の室内訓練場で協力者してほしい人達を集まってもらった。
ちなみに、集まってもらったのは魔法教師のサンドラ、工房からはアレックスと猿人族のトーマ。
そして、鼠人族の三姉妹だ。
改めて、この場にいる皆を見渡すと、僕は張り切って声を発する。
「皆、集まってもらってありがとう。さぁ、今日は父上にも許可をもらっているから、大手を振って新しい魔法を皆で開発するよ」
新しい魔法の開発という話を聞き、サンドラは予想通り楽しそうに笑みを浮かべており、鼠人族の三姉妹は顔を見合せてきょとんとしている。
アレックスとトーマは顔を見合せて、畑違いなのに何故呼ばれたのだろう? という表情をしている様子だ。
加えて、僕の隣にいるディアナとカペラの二人は、少し呆れ顔を浮かべている。
間もなく、ディアナが僕に向かって問い掛けて来た。
「……それはわかりましたが、この場にいる面々はどういう組み合わせなのでしょうか」
「それはね。鼠人族の三姉妹が、僕に見せてくれた魔法を元に新魔法を開発しようと思うんだ。後は、その魔法の仕組みを応用してサンドラ、アレックス、トーマに開発して欲しいものがあるんだよ」
「俺達が……仕組みを応用ですか。はは、あまり良い予感はしませんね」
ディアナに答えながら、僕は視線を途中でアレックス達に向ける。
その視線に気付いたアレックスは、話を聞き終えるとおどけた仕草をしながら苦笑した。
まぁ、彼らからすれば『懐中時計』の制作も忙しい中、更なるお願いになるから大変なのは否めないだろうな。
僕は、苦笑するアレックスに微笑んだ。
「まぁ、今から研究開発する魔法は、急ぎではないし技術的にもまだ厳しいと思うから追々で大丈夫だよ。それに、まだ新魔法を開発できるかわからないしね」
「はぁ……よくわかりませんが、『技術的』と言われるとドワーフとしての血が騒ぎますね。ふむ、ちなみにどんな魔法なんですか」
意図はしていなかったけど、アレックスのドワーフとしての誇りを刺激したのか、彼の眼は興味と好奇心の色合いが強くなっている。
あえてこの場にいる皆を再度見回すと、僕は悠然と呟いた。
「そうだね、宿舎と本屋敷。もしくは、宿舎と工房とか距離が離れていても会話を可能にする。そんな、魔法かな」
「……はい?」
アレックスは僕の言葉が予想外だったのか、ポカンとした表情を見せている。
その時、目を欄欄と輝かせたサンドラが僕に問い掛けてきた。
「リッド様、それはつまり『どんなに物理的な距離』があっても魔法を使えば、離れた人同士で会話が可能になるということですか」
「そうだね、その認識で間違いないよ。ただ、恐らくだけど魔法で言葉を送る時には使用者だけでなく、言葉を受け取る相手側でも似た魔法を使わないといけないと思うんだ。そこで、もし魔法が開発できたら、受け取る側の魔法を応用した『物』をいずれ作って欲しいんだよ」
僕の答えを聞いたサンドラは、満足したのか、満面の笑みを浮かべ楽し気だ。
その時、カペラが僕に懐疑的な視線を向けて呟く。
「なるほど……距離が離れた相手との新しい連絡手段というわけですね。確かに、その魔法は非常に興味をそそられますが、恐れながら本当に可能なんですか」
「まぁ、可能かどうかをこれから試す感じかな。その鍵となるのが、彼女達だよ」
カペラの問い掛けに答えると、僕はニコリと微笑み視線を鼠人族の三姉妹に移す。
彼女達は突然に会話を振られて戸惑った表情を浮かべ、三姉妹で一番小柄の少女が呟いた。
「わ、私達が鍵……なんですか」
「そうだよ。さっきも言ったけど、以前に君達が僕に見せてくれた魔法をここにいる皆で研究するのさ」
戸惑う三姉妹をよそに、僕は不敵な笑みを浮かべてこれから開発する魔法について、説明を始めるのであった。
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