第252話 リッドの試乗と悲しい事実

「よいしょっと……さて、どうでしたかリッド様。木炭車の出来栄えは」


「うん、思った以上に素晴らしかったよ」


エレンは木炭車を僕達の前に止めて、運転席から降りてきて満面の笑みとどや顔を見せている。


そして、ディアナが驚きを隠せない様子で呟いた。


「本当に信じられません。こんな鉄の箱がまさか人を乗せて動くなんて……」


「ふふ、仕組みは理解できると案外簡単なんだけどね。まぁ、ディアナも使う火の属性魔法で起こす爆発があるじゃない。あの爆発を魔法じゃなく、別の方法で人為的に起こしてその力を使って内燃機関といわれる装置を動かしているのさ。その為の装置が後に付いている筒なんだよ」


「はぁ……よくわかりませんが、ともかく凄いということはわかります」


僕の説明に、ディアナとダナエはついて来られていないようだが、まぁしょうがない。


これについてはすぐに理解しろというのが無理だ。


しかし、エレン達や狐人族のトナージなど、木炭車を作製に関わってくれた子達は理解出来ているし、仕組みの理解を一般的にしていくのは追々で良いだろう。


その時、目を輝かせたメルが僕に視線を向けた。


「ねぇ、にいさま。わたしもあれにのりたいんだけど……だめ?」


「あ、そうだね。一応、まずは僕が乗ってからでもいいかな?」


「うん、えへへ」


メルは僕の答えに嬉しそうに笑みを溢している。


僕は、エレンに振り向くと微笑んだ。


「じゃあ、エレン。早速、運転の仕方を教えてもらってもいいかな?」


「はい、承知しました。では、運転席にどうぞ」


その後、僕はエレンにハンドル操作、アクセル、ブレーキなどの説明を受ける。


その様子を、此処にいる皆は興味深げに聞いていた。


そして、説明があらかた終わり、エレンが咳払いをする。


「……以上ですね。あとは私が念のために隣の助手席に乗りますね」


「うん、わかった。じゃあ、僕も運転席に上がるね」


「……リッド様、ご無理はされないで下さい」


ディアナは心配顔で、僕が運転席に乗り込む姿を見つめている。


乗り込んだ僕は、彼女を安心させるように笑みを見せた。


「はは、大丈夫だよ。エレンも隣にいるしね。じゃあ、シートベルトをして……」


答えながら三点シートベルトも行う。


ちなみに、このシートベルト機構はエレンに安全の為に、必ず作るように依頼していたものになる。


いよいよとなり僕は、深呼吸をしておもむろにハンドルを握る。


そして、アクセルを踏もうとして、あることに気付いた。


僕の足が……届かない。


「あれ……これ……ひょっとして……」


「うん? どうしました、リッド様」


異変に気付いたのか、助手席に座っているエレンが覗き込みながら僕に問い掛ける。


「あ、いやその……足がね……」


「足……? ああ⁉」


彼女は僕の言葉の意図に気付いたらしく、驚いた声を上げる。


すると、運転席側の外にいたディアナがすぐにドアを開けた。


「リッド様、『足』がどうされたのですか⁉」


ドアが開かれると僕が運転席に座りシートベルトをすると、どんなに頑張っても『足』がアクセルやブレーキ届かない絵が皆に見られてしまう。


その瞬間、この場にいる皆に僕の『足がね』と言った意味が伝わったようだ。


自分で言う物なんだけど、今の僕の姿はたから見るとかなり滑稽な絵だと思う。


そのせいか、彼女達は僕に背中を向けると、途端に肩を震わせ始める。


メルだけがジーっと滑稽な僕の姿を見た後に呟いた。


「……にいさま、たりないの?」


「そうだね……身長がまだ足りなかったみたい……」


その後、僕は止む無く運転席から降りることになる。


だけど、肩を震わせた彼女達に対して、僕が頬を膨らませたことは言うまでもない。


話し合いの結果、まずディアナが運転をエレンから習う。


彼女の運転が少し慣れた時点で、僕とメルが後部座席に乗ることになった。


ディアナが緊張した面持ちで運転席に乗り込むと、助手席に座っていたエレンがスッと黒眼鏡を差し出す。


「ディアナさん、運転する時はこれを付けてみてください。光を押さえてくれるので、運転しやすくなりますよ」


「……不思議な黒眼鏡ですね。これで良いのでしょうか?」


運転席から僕達に視線を向ける黒眼鏡を掛けたディアナの姿は、かなり良い感じの凄みがあった。


彼女の今の雰囲気を何かに例えるなら、前世の記憶にある有名SF映画の二部作目に出て来た、サイボーグと戦う決意をしたお母さんかな。


メルもディアナの姿に感動したようで、目を輝かせた。


「うわぁ、かっこいい。にあっているよ、ディアナ‼」


「うん。凄く似合っている」


「そ、そうですか? ありがとうございます。リッド様、メルディ様」


それからエレンの指導の元に、ディアナは運転を学んでいく。


流石と言うべきか、ディアナは運転方法をすぐに理解して、木炭車を自由に動かせるようになってしまった。


やがて、僕とメルに加えてダナエを後部座席に乗せたディアナは、軽く倉庫の周りを運転する。


僕やメル、エレンは終始楽しんでいたけど、ダナエは真っ青になりながら初めてのる木炭車に驚愕している様子だった。


暫くして試乗が終わると、僕達は木炭車を下りていく。


皆は、まるで遊園地のアトラクションを楽しんだような、そんな思い思いの表情を浮かべている。


その中で一番、満足そうな笑みを浮かべたのはメルだった。


「はぁ、たのしかったぁ~。またみんなでのろうね‼」


「ふふ、そうだね」


僕が笑みを浮かべて答えるなか、ダナエは青ざめている。


エレンとディアナはそんな様子を見ながら微笑んでいるようだ。


その後、エレンと狐人族のトナージと僕で今後の事を少し立ち話を行い、木炭車のお披露目と試乗会は一旦終了となった。


ディアナも思いのほか運転が楽しかったのか、ニコリと微笑みながら僕に視線を向ける。


「それにしても、リッド様は運転が出来ずに残念でしたね」


「……そんな悲しい事実を思い出す事は言わなくていいよ」


 彼女に答えた後、僕は先程の滑稽な自身の姿を思い出し、その場でガクッと項垂れる。


そして、小声で呟いた。


「はぁ……車の運転は、将来の楽しみにとっておくかな……」


こうして、木炭車の試乗は無事(?)に終わったのである。






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