第234話 鉢巻戦閉会

「ふぅ……終わったかな?」


僕は残った魔力で『電界』を使い武舞台上に誰か残っていないか確認する。


「うん……どうやらいないみたいだね」


念のため、周りを見渡して目視もしてみるが立っているのは僕だけのようだ。


確認が終わると、僕はカルアが着水した場所に足を進めて行く。


すると、丁度彼が水堀から上がろうとしていた。


「やぁ、もう少しだったのに残念だったね」


僕は彼に声を掛けながら手を差し出す。


カルアは僕の手を取り武舞台に上がると、僕を見て少し悔しそうな面持ちを浮かべた。


ちなみに、彼の獣化はすでに解けている。


「……まさか、右手に魔力を込めておきながら囮にするとは思わなかった。あの魔法……なんと言ったかな?」


「あはは……右手で繰り出した魔法は、君の注意を引くために思い付きで創ったんだよ。左手で放った魔法は、僕の従者が以前見せてくれた魔法さ」


カルアが僕の説明を聞いて目を丸くしたその時、会場全体から健闘を称える歓声と拍手が鳴り響く。


また、僕達にダイナス、クロス、ルーベンスの三名が近寄ってくる。


その中で代表するようにダイナスが一歩前に出るとニヤリと笑う。


「リッド様、さすがでございますな。実に見応えのある良い鉢巻戦でしたぞ」


「はは……ありがとう、ダイナス。でも、さすがにヘトヘトだよ」


僕がダイナスに苦笑しながら答えると、彼はニコリと微笑んだあと観客席に振り向き声を張り上げた。


「鉢巻戦、初代勝者はリッド・バルディア様である‼ 勝者と敗者の健闘を称え改めて、大きな拍手を頂きたい‼」


彼の一言で、観客席からは改めて大きな歓声と拍手が鳴り響く。


そして、彼は僕に片目を閉じてウィンクをすると、観覧席に視線を向けると再度、声を張り上げる。


「では、鉢巻戦の終了に伴いバルディア領領主、辺境伯ライナー・バルディア様よりお言葉を賜ります」


ん? そんなこと段取りにあったかな? 


僕は思わずダイナスに怪訝な視線を向けるが、彼はニヤニヤしているだけだ。


すると、観覧席にいる父上がニコリと僕に微笑みかける。


父上は、どうやら間違いなく怒っているようだ。


父上は、咳払いをするとダイナスに負けず劣らず声を張り上げる。


「本日の試合は、皆が日々仕えている我らバルディア家が如何な存在なのか。そして、バルディアに迎え入れる獣人族の可能性を示すものだ。獣人族の受け入れに、内心懐疑的な者いただろうだが、その必要性は十分に伝わったと思う」


父上は、声を張り上げる中で僕をちらりと見るが、その一瞬で僕は背筋に戦慄が走った。


やばい、過去最高に怒っているかもしれない。父上はその後も会場全体に話を続ける。


「また、この場にいる者は皆、我がバルディア家によく仕えてくれている。皆に改めて、我がバルディア家に仕えていることを誇りに思ってほしい。何より、我が息子がいる限りバルディア領は安泰だろう。それは、皆が目にした通りだ。最後に、今回の試合内容は緘口令を敷く、心せよ。以上だ‼」


ダイナスは、父上の言葉が終わると観覧席に向かい一礼する。


そして、顔を上げると声を張り上げた。


「では、これにて終了としますが、リッド様よろしいでしょうか?」


「え……あ、うん。そうだね、じゃあ一言だけ」


僕はダイナスに問い掛けられると頷き、深呼吸をすると声を張り上げた。


「改めて、リッド・バルディアです。今日の鉢巻戦を見に来てくれた皆、それに参加してくれた獣人族の皆にまずお礼を言いたいと思います。皆、協力してくれてありがとう」


観客席と獣人族の皆が集まっている場所を、順番に視線を移しながら僕は説明を続けていく。


「それから、『魔法』は修練すれば誰でも使えるようになります。僕が特別なわけではありません。これから、獣人族の皆には様々なことを学んでもらい、バルディアに貢献してもらうつもりです。どうか、バルディア家に仕えてくれている皆は暖かく見守って下さい。また、獣人族の皆にはバルディアを新しい故郷と思ってほしい。以上です」


言い終えると同時に、観覧席の父上が拍手をするのが見えた。


それは、瞬く間に会場に伝播していき、拍手が武舞台まで鳴り響いていく。


僕は流石に少し照れくさくなり、少し俯いてしまう。


その時、ダイナスが咳払いをして声を発した。


「これにて、第一回鉢巻戦は終了。各自解散……以上‼」


その時、僕は「ん?」とダイナスの言葉に首を傾げた。


第一回? はて、二回目の予定はないけどな。


しかし、この『鉢巻戦』は緘口令が敷かれるも、バルディア家に仕える者達から開催を熱望する嘆願書が父上に提出される。


その嘆願書には鉢巻戦開催による収益、集客効果、モチベーションアップなど様々利点の記載がありとても素人が作ったものではなかったらしい。


止む無く父上は、規模を縮小した鉢巻戦の開催を検討することになるが、それはまた別の話である。






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