第233話 鉢巻戦最後の闘い
僕と熊人族のカルアが睨み合い、会場には静寂に包まれていた。
今までの闘いの余波に獣人族の子供達は巻き込まれ、まともに戦える獣人はもう彼しか残っていないらしい。
顔には出さないようにしているが、僕も中々に満身創痍で服もボロボロだ。
オヴェリア、アルマ、シェリル、ミア、彼女達の獣化は非常に興味深く、有意義なものであったのは間違いない。
しかし、彼らの獣化は全くの予想外の出来事だ。
その為、僕の魔力は想像以上に減っている。
さすがに獣化した子達との連戦がこのまま続けばかなり辛い状況だ。
だが、幸い彼の言う通りなら、これが最後の闘いになるだろう。
すると、カルアが僕の様子を観察していたのか静かに呟いた。
「……なるほど、リッド様もさすがに消耗しているようだ」
「ふふ……そう見えるかい? でも、君相手には丁度良いぐらいさ」
「言ってくれる……だが、私は今まで彼らと少しは違うぞ。獣人族の恐ろしさの真髄をリッド様にお見せしよう……はぁあああ‼」
彼は、僕に対して半身になると右手に魔力を集めながらゆっくりと天に掲げていく。
何をするつもりかな? 彼の挙動を注視しながら、電界を通じて気配を探る。
しかし、感じるものは熱く煮えたぎるような闘志だ。
やがて彼は、僕を鋭い視線で一瞥すると声を轟かせる。
「受けろ、大地破砕拳‼ ぬぉおおおおおお‼」
彼が魔法名を叫ぶと共に、天に掲げていた右手を拳に変えて地面を思い切り叩きつけた。
その瞬間、彼の右手から発せられた球体状の魔力弾が僕に向かって発射され襲い来る。
いやそれだけではない。
魔力弾がこちらに向かってくるのと同時に、大地が破砕され尖った岩が地上に剥き出しなっていく。
今までに見た事のない魔法だ。
僕は迫りくる魔力弾に目を輝かせて、彼に聞こえるように叫んだ。
「いいだろう……これが君の全力なら受けてたとうじゃないか‼」
僕は両腕を前に差し出すと、魔障壁を最大までに防御力を高めて展開する。
そして、迫りくる魔力弾をそのまま魔障壁で受け止めた。
その瞬間、辺りに凄まじい轟音と土煙が舞い上がる。
同時に会場は大きな歓声に包まれていく。
しかし、僕はカルアの魔法を受け止め驚愕していた。
魔障壁は割れなかったが、一撃で若干の罅が入っているのだ。
彼の魔法の威力は素で受け止めると危険極まりないものだろう。
思わず僕は感嘆の声を漏らす。
「まさか、これほどとは思わなかったよ」
しかし、カルアは僕の様子を見ても驚かず、むしろニヤリと笑みを浮かべた
「やはり……一撃では割れんか。ならば割れるまで、打ち続けるのみ‼ はぁああああ‼」
「な……⁉ 連発できるのか‼」
彼はそういうと、また右手に魔力を込め始める。
さすがにあれを何度も受けてあげることは出来ない。
僕の魔力消費も中々に激しいからだ。
それに、魔力量比べだけなんて芸もない。
僕は、彼に向かって水槍を放った。
しかし、彼は冷静にこちらを一瞥すると、右手を拳にしながら左手を地面に沿える。
その瞬間、彼の目の前に土壁が現れて僕の水槍を防いだ。
「……⁉ 土の属性魔法か‼」
水槍が土壁で防がれたことに僕が驚き呟いたその時、カルアの声が轟いた。
「はぁあああ‼ 大地破砕拳‼」
その瞬間、彼が作った土壁を破壊しながら再度、魔力弾が大地を走り僕目掛けて迫りくる。
「くっ……出鱈目な奴め‼」
僕はやむを得ず再度、魔障壁で彼の魔法を受け止めた。
その瞬間、再度轟音と土煙が舞い上がる。
直接のダメージはないが、連続で受け続けるとさすがに魔力消費が激しすぎる。
「これは……何度も当たってやれないな」
僕が呟いたその時、観客席からどよめきが起きる。
同時に、僕は不穏なざわめきを空に感じて上を見上げた。
そして、思わず呆れ顔を浮かべてしまう。
「はは……その魔法の使い方は、さすがに僕にも真似できないな」
どうやら彼は、大技を僕に撃った後に土の属性魔法で大岩を作り、それを『物理的に持ち上げたまま』に空高く跳躍したようだ。
あんなことは、身体強化を使っても僕には出来ないだろう。
「いくら丈夫な魔障壁でも、岩の重みを叩きつけられてはひとたまりもなかろう‼」
「なら……やってみなよ‼」
カルアの言葉に、僕はニヤリと笑い答える。
ここで、彼の挑戦から引いてしまっては鉢巻戦を開いた意味がない。
カルアを含め、彼らの挑戦をすべて正面から受ける為に僕はここにいるのだ。
彼は僕の答えを聞くと、嬉しそうに叫んだ。
「その意気やよし‼ さすがは我らを導こうとする者だ。ならば、受けてみろ‼」
答えると彼は、持ち上げていた大岩を上空から僕に向かって投げつけた。
しかし、僕も黙って見ていたわけではない。
彼との会話をしているうちに魔力はすでに溜めている。
僕は顔を引き締めて迫りくる大岩を睨みつけた。
「バルディアの名前は伊達じゃない‼ はぁああああああ‼」
その瞬間、僕は魔力を限界まで込めた『十全魔槍大車輪』を大岩に放つ。
その時、僕が意図していないことが起きる。
放った十槍の魔槍が大岩に向かう途中で混ざりあい一つの槍となったのだ。
その結果、勢いを増して大岩を飲み込み跡形もなく消し飛ばす。
同時に辺りには轟音と暴風が鳴り響き、会場からはどよめきが起きる。
だが、一番驚愕したのは空中にいたカルアであった。
「な……‼ ば、馬鹿な⁉ ぐぉおおおおおおお‼」
大岩を消し飛ばした魔槍はそのままカルアを襲い爆発して、辺りには爆音が鳴り響いた。
その瞬間、会場に歓声が轟く。
爆発を見た僕はボソッと「綺麗な花火だねぇ」と呟いた。
しかし、僕は気を緩めずに、空から落下してくる人影を注視する。
その人影は、空中で体勢を立て直すとそのまま地上に着地した。
その姿は、僕の魔法によりボロボロになっているがカルアに違いない。
彼は獣化のまま肩で息をしており、僕をみてニヤリと笑みを浮かべる。
「はぁはぁ……まさか、あんな魔法を隠して持っていたとはな……」
「いや……あれは僕も驚いたんだ。でも、カルアが無事で良かった。それにしても、ふふ……君のおかげで新しい魔法も創れそうだよ」
そう、僕は内心歓喜していた。
放った魔法が混ざりあうことある可能性は正直考えたことがなかったのだ。
魔法が混ざりあうための条件はなんだろうか? これは、新しい魔法の可能性を意図せず発見したと考えて良いだろう。
是非とも早々にサンドラを交えて、色々と検証する必要がある。
新しい魔法の可能性を思案していると、どうやらそれが顔に出ていたらしい。
カルアが呆れ顔を浮かべていた。
「ふふ……ははは……このような状況でも、魔法の探求を楽しむか。その上で、我らの挑戦も受けるとは実に豪胆なお方だ。だが、私はまだ負けてはやれん。この場に立てる限り、全力を出し続けるのみだ」
「さて……じゃあ、そろそろ終わりにしようか」
「望むところだ……」
会話が終わると同時に僕は身体強化を使い、瞬時に彼の懐に入り込む。
しかし、彼もそれは承知していたようで激しい近接戦の攻防が始まった。
合わせて会場でも歓声が轟いている。
カルアは、オヴェリアやシェリルのような機敏さはないが、魔障壁を通じても彼の一撃の重みが彼女達の比でないことはわかる。
彼女達が手数なら、カルアは一撃必殺というところだろう。
だが段々と、彼との体格差によるリーチ差から次第に僕が不利になっていく。
さらに、僕の打撃では彼にダメージがほとんど入らないうえ、リーチ差からも鉢巻を狙うのは困難だ。
僕は一度体勢を整えるために、彼を弾き飛ばそうと至近距離で魔障壁を展開する。
その瞬間、彼はニヤリと笑った。
「私にその手は通じんぞ‼ 大地破砕拳‼」
彼は叫ぶと同時に右手の拳に魔力が籠め、僕が展開した魔障壁に力一杯その拳を叩きつける。
彼の拳が僕の魔障壁にぶつかると一撃で破られた。
僕は、目の前で起きたことに「な……⁉」と驚愕しながらも彼の拳を、腕を交差させ何とか受けとめる。
「ぐっ……がはっ‼」
彼の拳の威力は魔障壁が破る為にほとんど使われており、致命傷には成り得ない。
しかし、それでも僕にとってはなかなかの威力であり、思わず後ずさりしてしまう。
カルアは肩で息をしながら僕を一瞥すると忌々し気に呟いた。
「はぁはぁ……ようやく一撃か……しかし、私にも勝機が見えて来たようだな」
「はは……そう思うかい?」
僕は彼に笑みを浮かべて答えるが、実際のところかなり厳しい状況だ。
遠距離攻撃は彼の土壁に阻まれてしまう。
その上、魔法で大技を使うと倒しきれなかった時のリスクがでかい。
かといって、打撃技で彼に勝てる気もしない。
さて、どうしたものかな……。
その時、観覧席にふと目が移る。
すると、父上がニコニコ顔でこちらを見ているが、あの笑顔は内心で怒っている時のやつだ。
はは、確かに武舞台で調子に乗り過ぎた感はあるもんなぁ。
そして、観覧席では父上以外の皆も身を乗り出して僕を応援してくれているようだ。
その時、僕はある事を閃き、カルアに視線を戻す。
「じゃあ、次の技で決めるよ。受けてくれるかな?」
「いいだろう、リッド様の技、耐えてみせよう。その時が私の勝利だ……」
僕は、これ見よがしに右手で拳を作り、火の属性魔法を込めて赤く輝かせ始めた。
彼は警戒した面持ちで、僕の様子を注視している。
そんな彼に、僕は凄むと同時に声を響かせた。
「僕のこの手が、焔で灯る……君を倒せと鳴り響く……刮目しろ‼ 道破・灼熱魔槍拳‼ いくぞぉおおおおおおお‼」
僕の右手は口上と共に、焔で燃え上がり真っ赤に染まり光輝いている。
その状態を維持したままに、僕はカルアに身体強化を使い突撃していく。
彼は魔力で異常なまでに右手を光らせている僕に驚愕している。
「くらえぇえええええ‼」
「良くわからんが、受けてたとう‼」
僕は、勢いよく迫り、懐に入り込むと右手の拳を彼の顔面目掛けて打ち込んだ。
カルアは、僕の右手を警戒して両手で受け止める。
その瞬間、彼の全身が焔に包まれた。
「ぐぁああああ⁉ だ、だが、耐え切れないほどのものではないぞ……次の一手で私の勝ちだ‼」
「本命は左だぁあああああ‼」
彼が僕の右拳を両手で受けている間に、僕は左手を手刀にして彼の腹部に抉り込む。
意識が僕の右手に集中していたカルアは堪らずうめき声を上げる。
そして、僕はすかさず左手の手刀に魔力を込め、声を轟かせた。
「弾けて爆ぜろぉおおお‼」
その瞬間、カルアの腹部に抉り込ませた僕の左手から大爆発が起こり、彼を勢いよく吹き飛ばした。
「がぁああああああああ⁉」
彼は悲痛な叫び声と共に吹き飛び、場外の水堀に勢いよく落水する。
その結果、ひと際大きな水柱立ち、会場に水飛沫が吹き荒れたのであった。
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【お知らせ】
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※コミカライズに関しては現在進行中。
近況ノートにて、書籍の表紙と情報を公開しております。
とても魅力的なイラストなので是非ご覧いただければ幸いです!!
※表紙のイラストを見て頂ければ物語がより楽しめますので、是非一度はご覧頂ければ幸いです。
近況ノート
タイトル:書籍化のお知らせ&表紙と情報の公開!!
https://kakuyomu.jp/users/MIZUNA0432/news/16817139557186641164
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