第151話 リッドの秘密

「皆、今日は集まってくれてありがとう」


僕はこの場にいる皆に向けてペコリと感謝の気持ちで頭を下げた。


先日、父上に相談した僕の秘密を打ち明ける面々に今日は、特別に父上の執務室に集まってもらったからだ。


集まったのは、クリス、サンドラ、エレン、アレックス、ディアナの五人だ。


皆、何故集められたのか? 


と不思議そうな顔をしているが、僕に加えて父上もいることで何やらただ事ではない様子を感じ取っているようで、何やら緊張感が伝わってくる。


その時、父上が補足するように咳払いをして説明を始めた。


「ゴホン……本日、集まってくれたのは面々にはいつも息子が世話になっている。中には、型破りなことで振り回された者もいるだろう。だが、今後も息子、リッドの力になって欲しい」


「父上……子供を前に『振り回された者もいるだろう』という言い方はどうかと思いますが……」


父上の言葉に、僕はつい怪訝な表情をしながら口を出してしまった。


その様子を見ていた皆が思わず、吹き出して「クスクス」と苦笑を始めた。


皆も酷いな。


父上は僕の言葉に眉をピクリと動かすも、説明を続けた。


「茶化すな……それよりも、ここに集まってもらった皆には息子のリッドから、重要な話がある。内容は……他言無用のバルディア家の機密事項だ。無いとは思うが、秘密を洩らした場合は処罰もあると思ってくれ。その上で話を聞くか判断をしてもらいたい」


父上の雰囲気がいつもより重く、目つきがいつも以上に鋭くなったことで皆は息を呑んだ。


僕は父上の雰囲気とは反対に明るい笑顔を浮かべた。


「父上の言った通りだから、もし聞きたくない場合は今この場で退室してくれて大丈夫だよ」


僕と父上の言葉を聞いた皆はそれぞれに怪訝な表情を浮かべている。


そんな中、クリスがスッと手を上げた。


「リッド様、よろしいでしょうか?」


「うん。クリス、どうしたの?」


「リッド様がこれからする話を聞いたとして、何か私達の現状に影響はあるのでしょうか?」


クリスは怪訝だが慎重な様子が伺える。


彼女は商人だから、この手の話には人一倍の警戒心があるのかもしれない。


僕は少し考え込むと、言葉を選びながら返事をした。


「うーん。特には何もないかな? 僕がする話は皆と色々したい事が多いから、今後の為の情報共有という感じだね。ただ、内容的にバルディア家の機密事項に該当するから、この場を設けた感じかな? ですよね、父上?」


「……そうだな。その認識で間違いないだろう。今まで待遇や生活面において何か変わるということはないな」


「……わかりました。ライナー様、リッド様、ありがとうございます」


クリスは僕達の話を聞くと静かに頷きながら返事をしていた。


その表情はまだ少し険しさが残っている。


僕達のやりとりが終わると今度はサンドラが挙手をした。


「サンドラ、どうしたの?」


「……失礼ながら、その秘密というのはリッド様の『型破りな言動』に関係しているのですか?」


サンドラは質問と同時にニヤリと笑みを浮かべた。


その質問を聞いた他の皆も何かを察したようでハッとした表情になっている。


僕は皆の表情を見ながらも、少し呆れた様子で小さくため息を吐いた。


「はぁ……僕の言動が『型破り』なのかどうかはともかく、その辺については答えられないね」


「承知しました。ありがとうございます」


サンドラは笑みを浮かべたままだ。


というか、このやりとりをしたことで僕が何を話すつもりなのか、皆わかってしまったのではないだろうか? 


父上にふと目をやると額に手を当てて首を横に振っていた。


僕はこの場にいる皆を再度、見渡してから言った。


「ふぅ……どうかな? 退室する人がいないなら、このまま話を続けようと思うけど?」


皆は僕の言葉を聞くが誰も席を立とうとはしなかった。


というか、少し笑みを浮かべて微笑んでいる気がする。


先程のサンドラの質問により、これから僕がする話の内容が僕個人に関することがわかったから、もうそんなに気構えしていないみたいだ。


その時、エレンが静かに呟いた。


「えーと、僕はリッド様に仕える為に来ましたから、問題ないです‼」


「俺も、姉さんと同じ意見です」


エレンとアレックスが少し照れ笑いをしながら、僕を見据えて言葉を紡ぐと続けるようにディアナが淡々とした様子で言った。


「私はリッド様の『従者』ですので、秘密は必ずお守り致します」


「……リッド様の『秘密』には興味ありますから、私も是非伺いたいですね」


サンドラもディアナに続いて、少しおどけた様子で言った。


残ったクリスは、何とも言えない表情で悩んでいる様子が見える。


でも、席をたとうとしていないから、聞いてくれるつもりなのだろう。


僕は、そんなクリスに祈るような視線を送った。


「クリス……」


彼女は、僕の視線に加えて言葉を聞くと、少し間をおいて観念するように小さいため息を吐いた。


「……はぁ……リッド様、そんな目で人を見ないで下さい。大丈夫です、最後まで聞かせて頂きますから……」


「……‼ クリス、ありがとう‼」


僕は彼女の言葉を聞いて笑みを溢した。


その様子を見たクリスは少し照れ笑いをしている様子だ。


その時、僕達のやりとりを見ていた父上が咳払いをした。


「ゴホン……話はまとまったようだな。では、この場にいる皆に説明を始めなさい」


「はい、父上」


父上の言葉に返事をした後、僕は一旦気持ちを落つかせるために深呼吸をした。


そして、少し緊張した面持ちの皆に向かって僕は言った。


「僕には前世の記憶があります……‼」


「……は?」


どんな話が来るのかと皆は、緊張していたがあまりに予想外の言葉だったようだ。


この場にいる皆、僕の言葉の意味を理解できず、キョトンとした表情していた。

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