第145話 ライナーの視察(炭窯)

「これが、炭窯か……木炭を作る様子は初めて見るが、中々に面白い仕組みだな。木材を燃やすというよりは、高温で熱する事で木炭にするということだな?」


「はい、父上。仰る通りです。あと、今回作成した炭窯の利点は修復が比較的簡単なのが良い所ですね。土と水に加えて基本的な知識さえあれば誰でも修復できます」


父上は僕の言葉に頷きながら感心している様子だった。


今日は炭窯に火を入れた翌日になる。


作業が終わった当日中に父上に炭窯の完成と火入れを行ったことを報告した所、「わかった。炭窯まで案内しろ。実際に確かめさせてもらう」と言われた。


だが、さすがに作業が終わって間もない状況もあったので、明日にして欲しいと伝えて了承をもらい現在に至るわけだ。


父上には僕とエレンの二人で炭窯について詳しく説明をした所、とても興味深そうに聞いていた。


なお、アレックスはエレンと交代で炭窯を確認してくれる予定になっている。


父上は僕達の説明と報告をあらかた聞き終えると、珍しく満足そうな顔をしていた。


「ふむ。二人共、良くやってくれた。これで、木炭の製炭が持続的に可能になればバルディア領に住む領民の生活も改善できるはずだ。それ以外にも、色々と出来ることが増えそうだ」


「お褒めの言葉を頂きありがとうございます」


僕が父上の言葉を聞いて一礼すると、エレンが慌てて追随するように頭を下げながら言った。


「ライナー様、お褒めの言葉、ありがとうございます‼ 僕達、今後も精一杯頑張らせて頂きます」


父上は僕達の頭をすぐに上げさせると、咳払いをした。


「ゴホン……良い、そんなに畏まるな。それより、今後の炭窯の動きをもっと教えてくれ」


「かしこまりました」


その後、僕とエレンは父上に炭窯における木炭制作について説明を続けた。


僕達が作った炭窯では木材の状態次第で火入れをしてから、炭になるまでは合計で十四~二十一日程度の時間がかかる。


まず、火入れをしてから三~四日目ぐらいに、二つある焚口の予備の一つを塞いで、窯の中に入る空気量を調整する。


窯の熱により、外壁にひび割れが出来た時は土を水で溶かして上塗りをして都度補修を行う。


炭窯においての「土窯」は必要な土さえあれば補修しながらずっと使うことが可能だ。


火入れをしてから5~6日目にもなると、白かった煙が青みを帯びてくる。


こうなると、窯を閉じる時期になって来きた合図だ。


ただ、注意しないといけないのは木材の状態によって、窯を閉じるタイミングは変わってくるので経験が必要になる。


この点に関しては、エレンとアレックスが指示と確認をしてくれる予定だ。


詳細の説明を終えると父上は厳格な表情で静かに頷いた。


「炭窯における、製炭作業については良く分かった。だが、今後の資材となる木材を作る『樹の属性魔法』も見せてもらおうか……」


「え? 僕の魔法ですか? 良いですけど、ここでは出来ないので少し離れたところにある伐採した場所に移動しても大丈夫ですか?」


「わかった。案内してくれ」


返事を聞いた僕はエレンに炭釜を見るようにお願いして、父上と二人で伐採場に向かった。


「ここが、伐採場です」


「ほう……木はもう生えていないのか。あるのは、伐採後の切り株のみか。リッド、樹の属性魔法を使うと言っていたが、この後はどうするつもりなのだ?」


「えーと、この切り株を再利用するつもりです。良ければ、お見せしましょうか?」


僕の返事を聞いた父上は、眉間に皺を寄せながら頷いた。


「……見せてもらおうか。リッドの、樹の属性魔法の実力とやらを……な」


「わかりました。では、お見せしますね……」


父上に返事をしながら、伐採後の切り株の前に僕はしゃがみ込んだ。


そして、切り株に両手を差し出すと心の中で唱えた。


「樹木成長」


唱えると同時に、魔法が発動して魔力が切り株に持っていかれる。


だけど、今回も調整をしているので問題はない。


成長期間は10年だ。


僕から魔力を吸い取った切り株は、みるみる成長していき僕と父上の前で立派な成木となった。


その様子を見ていた父上は想像以上の動きだったのか、少し驚いた表情をしていた。


「……驚いたな。樹の属性魔法でこんなことが出来るとは思わなかった。樹の属性素質を持っている者であれば、誰でも使用可能なのか?」


「恐らく可能だとは思います。ただ、しっかりとした基礎的な修練に加えて、僕が目の前で実践しながら教えないと独学だけでは厳しいかもしれませんね」


父上の質問に答えながら、僕は「樹木成長」に関しても説明をした。


魔法は出来る範囲がとても広いようだが、それはあまり知られていない。


恐らく、魔法は「攻撃魔法」として使われているのが一般的なので、僕のような使い方を考える人が少ないのだろう。


サンドラも言っていたが、魔法を高度に扱える人がそもそも少ない。


魔法の教育課程も整っていると言えない状況なので、使い方の知識がかなり限定的で偏っているようだ。


僕のしていることは、前世の記憶の言葉を借りるなら「コロンブスの卵」に近いのかも知れない。


「誰も気付いていないが、気付けば誰でも利用できる画期的な発見。だけど、最初に発見するのは難しい」


という意味だったはずだ。


僕は父上と二人きりということもあり「コロンブスの卵」という言葉の意味だけを、今回の樹の属性魔法と重ねるように伝えた。


説明を聞いた父上は、珍しく感心した表情見せてから呟いた。


「ふむ。面白い考えと言葉だな。『誰も気付いていないが、気付けば誰でも利用できる画期的な発見。だが最初に気付くのは至難である』か。まったく、我が息子ながら、末恐ろしいな……」


「アハハ……」


父上の言葉に僕は何とも言えない表情を浮かべながら、乾いた笑いで返事をしていた。

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