第93話 ニキークとの繋がり
「ニキークさん、改めてよろしくお願い致します」
「おう、坊ちゃん、任せとけ」
僕はクリスの案内で来た「ニキーク販売店」の店主であるニキークと今後のことについて色々と話しをしていた。
まず、彼を通して「レナルーテ草」をバルディア領に仕入れることになった。
その際は、魔力枯渇症の原料になるかも知れないという情報の漏洩を防ぐために、僕達の間では「ルーテ草」と呼ぶことに決めた。
レナルーテ草は国内だとメジャーだが、国外にはほとんど出ていない。
理由としては現状の使い道が国内における食用のみだからだ。
彼以外に、この「レナルーテ草」に魔力枯渇症を予防している可能性に気付いているは今のところいない。
念のために、ニキークはレナルーテ国内において、「ルーテ草」以外にも治療に使える可能性のある薬草を再度確認を含めて探してくれるという。
他にも薬草を栽培する方法を研究してくれるということだった。
僕は思い切って「月光草」についても栽培を依頼した。
クリス驚いていたが、ニキークは快く引き受けてくれた。
栽培方法が確立できれば、バルディア領と連携して将来的には莫大な利益を生む可能性も十分にある。
必要な費用や物資などはクリスティ商会を通せば大体は話が通るようにしておくとも伝えた。
僕とニキークが話している横で、クリスは手で目を覆いながら「はぁ……急いで、商会の支店を作らないと……」と呟いていた。
その時、あることを思い出した。
「そういえば、ニキークさんは、「ムクロジの実」って知りませんか?」
僕の言葉にニキークは目を少し丸くして怪訝な表情なり、低い声で言った。
「……坊ちゃん。あんた、アレの存在も知っているのか」
「その言い方は知っているのですね?」
彼の言葉に僕は微笑みながら返事をした。
僕の表情を見たニキークは呆れたような表情になるとため息を吐いて言った。
「はぁ……ちょっと、待っていろ」
「ありがとうございます」
ニキークは立ち上がると、また店の出入口にある陳列棚の所に向かって行った。
その時、クリスが怪訝な表情で僕にそっと耳打ちをしてきた。
「……リッド様、『ムクロジの実』ってなんですか?」
「ふふ、僕よりもクリスやディアナが欲しがるかもね」
「私も欲しがるものですか? 少し興味がありますね」
僕がクリスにした返事はディアナにも聞こえていたようで、二人は顔を見合わせていた。
「坊ちゃん、待たせたな。とりあえずこれで良いか、確かめてくれ」
「はい。ありがとうございます」
僕は、ニキークが持ってきたその実を良く確かめる。
実は丸くて、表皮には皺があり小さい。
メモリーに見せてもらったものと同じだった。
あとは、実際に試してみるだけだ。
僕は、ニキークを見ると言った。
「水と桶を借りてもいいですか?」
「……坊ちゃんにはかなわねぇな」
ニキークは肩をすくめるとやれやれと言った様子で、水と桶を用意してくれた。
その様子にクリスとディアナは意図がわからずに首を傾げていた。
ニキークが用意してくれた水が入った桶に、僕はムクロジの実を入れてから水を掻き混ぜた。
少しすると、どんどん泡が立ってきた。
ニキークは呆れた表情で見ている。
泡立った桶を見ると僕は満面の笑みを浮かべて言った。
「やった‼ これは天然の石鹸なんだ。『ソープベリー』って名前で出せば良い商品になると思うけど、どうかな?」
僕は言い終えるとクリスとディアナに顔を向けた。
すると、クリスが目を輝かせて興奮した様子で言った。
「良いですよ、これは絶対に売れます‼」
「僭越ながら、私も個人用に少し欲しいですね……」
クリスが言い終えると、ディアナも興味津々の様子だった。
僕はとりあえず、ニキークが保有している「レナルーテ草」と「ムクロジの実」を買い取れる分はすべて買うことにした。
今後も、この二種類は継続的にクリスを通して購入することを伝えるとニキークは、少し嬉しそうな笑みを浮かべながら「……わかった」と頷いていた。
ニキークとの話し合いも終わり、僕達が店を出るとそこには魔物の二匹が待っていた。
どうやら、店の中の匂いが嫌で外で待っていたらしい。
見送りに来てくれたニキークがその姿に驚いた様子で言った。
「こりゃ、魔の森でよく見かけていたシャドウクーガーとスライムの夫婦じゃねえか。最近見ないと思ったら、なんだってこんなところにいるんだ?」
「ああ、それはですね……」
僕はニキークにマレインの屋敷行くまでの道中で彼らに出会ったことを説明した。
話を聞いてニキークはマレインに対して呆れた様子で呟いた。
「はぁ……国外では魔物がペットで一部流行っているとか聞いたが、マレインのやつが裏に居たのか」
「みたいですね。でも、マレインは失脚したようですし、今後は少し落ち着くんじゃないですかね?」
僕とニキークが会話していると、彼らは僕の足元に寄ってきて頬を擦りつけている。
尻尾もピンと立っておりとても可愛いしぐさをしている。
その様子にニキークが微笑みながら言った。
「おお、坊ちゃん大分、懐かれているな。シャドウクーガーが人に懐くのも珍しいぞ」
「……そうなのですか? でも、残念ながら連れて帰ることは出来ませんから、ニキークさんが良ければ魔の森に帰してあげてくれませんか?」
僕の言葉を聞いて、ニキークは頷いた。
「わかった。わしが今度、魔の森にいく時に連れて行こう」
「ありがとうございます」
ニキークの返事にお礼を言うと、僕はしゃがんで魔物二匹と目線を合わせながら言った。
「ごめんね。本当は連れていけたらいいけど、さすがに父上もいるから僕が勝手に連れていくわけにはいかないんだ。君達は自分達の世界にお帰り」
猫サイズのシャドウクーガーは僕の言葉を聞くと、少しシュンとしたような顔をして「ンン~」と鳴いた。
僕は、彼らの頭を撫でると立ち上がって、ニキークに別れの挨拶をしてその場を去った。
少し離れてから振り返ると、魔物二匹は僕をずっと見ている様子だった。
「可愛かったけど、勝手に連れて帰ったら父上が絶対に怒るだろうな」
僕はあの可愛い姿をメルや母上にも会わせたかったなと思っていた。
その時、ディアナがおもむろに言った。
「……あの魔物達、リッド様にかなり懐いていましたからバルディア領まで追いかけて来るかもしれませんね」
「へ……? バルディア領に? さすがにそれはないと思うよ。距離がありすぎるしね。さて、それより今日はもう帰ろうか。朝から動きっぱなしでさすがに疲れたよ」
レナルーテに滞在中にすることが多かったとはいえ、いくら何でも今日は忙しすぎた。
僕が疲れた表情をすると、ディアナが釘をさすようにいった。
「はい。ライナー様に見つからずに戻らねばなりませんから、最後まで緊張感をお持ちください」
僕はディアナの言葉に「ハッ」として、帰り道の間はずっと頭を抱えていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます